三
クラウ視点です。
「はぁ……」
鬱屈とした思いを溜めながら私――この国の第二王女であるクシャトリア・クラウディアはもふもふしている絨毯を歩いている。
なぜ私が鬱屈とした気持ちなのか、それは数日前にさかのぼる。
それはパーティーの日だった。私は第二王女という地位的にいろいろな男性貴族から縁談を求められる――もちろん、私の地位しか見ていないような人と結婚する気はさらさらないんだけれども。
そのパーティーにも様々な男性が、小さいのは十歳から、大きいのは四十過ぎの貴族の方々が私に話しかけていた。
私はもちろんどの人ともろくに会話していない。十歳はさすがに若すぎる(あまり体の発達がよくないのでよく十二歳くらいといわれるけれど、私は十五歳だ。間違えないでいただきたい)し、四十五は逆に相手のほうが本当に私のことが好きだった場合、ロリコンなのではないかと疑うような年齢差だ。
じゃあ真ん中ならいいのかと言われれば、全くそういうわけでもない――まあ、私の結婚相手の話はここで置いておこう。
そのパーティーでは珍しく小さな女の子、十歳も行っていなさそうな女の子が私に話しかけて、遊ぼうといってきた。
どこの子だか知らないが、小さいこの相手をするのは嫌いじゃない。したことは一度もないけれど、シミュレーションはばっちりだ。
そう油断していたのが悪かったのか、庭に出てきた瞬間に私はその小さな女の子に魔法を打たれた。
魔法、といっても大した威力はない。動くのが苦手な私でも避けれるぐらいのスピードに筋肉がない私でも大したけがにならないような大きな火の粉みたいなものだ。おい誰だ、私の体は空気抵抗が少なそうだから運動上手そうとか思ったのは。
まあ、いくら火の粉みたいな魔法とはいえ攻撃は攻撃だ。第二ではあるが王女である私に手を出せるのなんて、お姉さまかお母さまか、お父様ぐらいしかいない。それだって、魔法なんて打たれない。
すぐに兵士が来てその子は捕らえられた。
その後、少し経ってから私はその子が私に攻撃してきた理由を聞いて絶句した。
その子――サニーちゃんのお兄ちゃんは私に縁談を持ち込んでいたあの、十歳くらいの小さな男の子だったのだ。あの年で私のような王族階級に話しかける人は少ない。サニーちゃんのように小さすぎる場合は別だが、十歳を超えて成人をした場合かなりハイレベルなマナーや言葉遣いを求められる。
十歳ぐらいでは、普通そんなことはできないのだ。それを、サニーちゃんの両親はその男の子を馬車につながれた馬のように言葉の鞭を打って。時には見えない場所に殴りつけたりもして『教育』していたそうだ。
そんなにひどい目にあって、頑張って私と話せるようなマナーを身に着けたというのに、肝心の私はその子の縁談の話など一切の聞く耳を持っていなかったというわけだ。
それは怒るだろう。むしろその男の子がよくその場で彼がされていたように殴られなかったな、と感心した。そして、それと同じに、怖くなった。
――私はそんな、人の努力を踏みにじるような行為を毎回毎回何度もいろんな人にしてきたのか、と思うと人と話すのが怖くなった。その時以来、私は人と話せなくなった。
声は出る。歌うことだってできる。ただ、対面して人と話せない。話そうとすると気分が悪くなってしまう。
ブラフミン様いわく、『悪魔の呪い』らしいが、違う。これは私の呪いだ。今まで人の努力を何度も踏みにじってきた私に対する私の呪いだ。
悪魔の呪いは祈祷で直せても、私の呪いは直らない。
そんなわけで今私はありもしない悪魔の呪いをとくために王国内の、一番隅の隣の部屋──宝物庫の隣の部屋で療養している。誰とも会わないし、話さない。ご飯はカートに入れて、そのカートに魔法をかけてそのまま部屋の中に入れている。戻すときは適当に外にほっぽり出してるが、誰かが回収してくれているんだろう。
正直、人と話さ無いのがこんなに苦だというのは知らなかった。
酷く退屈で、もう娯楽も無い。オセロを一人でやっても別に面白くなかった。おかしいな、一人オセロは面白いって聞いたことあるんだけど。
そんな感じで苦行していたわけだが、突然隣の部屋で──宝物庫で何かが落ちる音が聞こえた。あそこの扉は王族の血筋を持つ人か、王に許可された人以外は入れない。今は入れる人で物を落とすようなどんくさい奴なんて、私ぐらい。くらいみんなしっかりしている。
周りには誰もいないし、少し確認するためだけの理由でこっそりと部屋から抜け出し、今は宝物庫へ物音を立てないようにゆっくりと歩いている途中だ。
泥棒とかだったらどうしようか。いや、誰かさえ把握できればもう一度閉めてしまえば許可の無い人間には内側からでも開けないようになっている。
誰かさえわかったらすぐに扉を閉めるとしよう。
許可が無い者には壁を押しているかのように重い扉だけれど、許可のある物にとっては羽毛のように軽くなる。質量保存とかどうなっているのか、全く不思議な魔法だ。
扉をゆっくりと開け、中を見る。
……人はいなさそうだ。
じゃあ、何かの拍子に倒れたのだろうか。そんなバランスの悪い置き方なんてここにはいる人は誰もしない。どれもこれも、オークションに出せば百万ダラは下らない物ばかりだと聞いている。
少しぼうっと宝物庫の中を監視していると、何かがふわふわと浮いていた。
あれは……なんだ?武器?あんな形は見たことが無い。
長い棒とそりの大きな処刑台の刃みたいなのがくっついている、何ともアンバランスな物だ。
それに、何だか色もおかしい。普通の処刑台とかの刃なんかは切れない部分も鏡みたいに反射する。でも、この武器のその部分はむしろ逆だ。全てを吸収する黒。刃の部分は黒とは真反対の雪みたいな真っ白。
──美しい。
美術についてからっきしな私が、見取れるほどに美しいと思った。
そして、その歪な武器のような物は、
『すいません、あのー少々お時間頂いてもよろしいでしょうか』
「はぇ?」
よく判らないが、直接話し掛けてきた。
『えーっと、私が何だか知ってますか?』
何言ってんだこいつ。
「あ、貴方が知らないのに私が知っているわけが無いじゃ無い。」
『確かにそうですよね。俺も自分で言ってそう思いました。あ、俺は大鎌って武器です。どうぞ末永くよろしく。』
「……おおかま?聞いたことも無い武器の名前ね。それに、末永くって私は貴方を使う気は──あ。」
ちょっとまて?
なんか違和感があるぞ?
「何で私喋れてるのーーっ!」
なんだ、話せるでは無いか、私。相手が武器だからだろうか。何はともあれ、まだ人と話せる可能性は、ある!
『え、いきなりどしたんですか……?』
それにはやはり、私が色々な人と交流しなければならない。その場合、城の中なんて居たって会える人数は高が知れてる。
ならば外にでなければ行けない。しかし、私は自らを守る方法が無い。第一武器だって周りに一つも──
『あー完全に無視か、自分の世界に入っちゃってるなこれ。……暫く待ってみるかぁ』
あるじゃ無いか。こんな所に丁度いい武器が。
「お話が途中だったわね。」
『あ、なおった?そうですね。話途中にいきなり叫びましたからね。』
「こちらこそ、末永くよろしくお願いするわ。」
『あ、はい──ってまぁ!?まのまのま!?』
なんだろうか。まのまのま。かめはめ〇みたいな物だろうか。
よく判らない言葉だが、私はおおかま?に向かって笑顔でこう返した。
「まのまのまよ。」
一ダラ百円ぐらいです。
まのまのま……本当の本当の本当ですか?の意味。主人公の造語。
この時点で頭で考えてたのとは全く違う人物像になりましたね。
定型文 是非この作品に対する批評等、良いのも悪いのもお待ちしております。