一
初めまして。
是非感想等、よろしくお願いします。
「あぁ、納得いかん、納得いかんっ!」
一柱の神は怒っていた。
「何でじゃ、何でなのじゃ!」
己が教育している神の、あの妙に反抗的な神の始めて作った世界が、成功した。これは非常に喜ばしいことだ。神にとって世界とは資源のような物。何度作っても失敗に終わることが多い世界創りを一度で成功させたのだ。
教育者としても、鼻が高いという物だ。
しかしたった一つ世界を創った程度で鼻高々になられては困る、世界の管理は神の仕事だし、せっかく成功したのにこれから絶滅というのはあまりにも精神的に辛い。己の実体験からそれは確かなことだ。
だからこそ彼女の創った世界を、ちらっと覗いたのが間違いだった。
己にとっても初めての新神の教育だ。世界を見て一言二言文句を付けようか、とか、少しアドバイスをしてやろうとか、そんな上から目線な所もあったのは確かだ。
まあ、そんな嫌らしい上司にこんなことをするのも、まあ、新神にありがちなちょっとした反抗と捉えて、尊大に構えるのも選択肢としては無くは無いだろう。
とは言え、余りにこれは酷すぎる。
己のキーアイテムとも言える大鎌が、武器として最弱──所か、存在すらしていないだなんて。
確かに大鎌は非効率な武器だ。長いし、重いし、取り回ししにくいし、使うのにコツがいる武器だ。そんなん使うなら剣使うと言う考えも判らなくは無い。
とは言えだ。いくら合理的だからって、自分の教育をしてくれた先輩神の顔とも言える武器を世界に入れ無いだなんてことはありえない。
己だって新神で始めて世界創りに成功したときに非効率なさすまた、とか言う武器を世界に入れた物だ。因みにさすまたを使う人間は殆どいなかった。そもそもあれ、捕縛用だし。
そんなさすまたなんて武器で無い物ですら己は入れたというのに、こいつはそれもしなかったのだ。
「むぅ……、このまま何もなしにするのもむかつくのぅ。」
ある程度暴れておちついたので、報復の手段を考えていこう。
直接話したところで今更大鎌を入れることは無いだろう。しかし、己が直接世界に干渉するのは力を使いすぎる。いくら新神といえど、辛い物がある。
ならば──
「最強の大鎌を、あいつの世界に送ってやろう。なあに、成功祝いじゃ。感謝こそされても反感を買うことは無いだろう。」
まあ反感は買うだろうが、一度世界に入れてしまえばこっちの物だ。そうだ、鎌をぽんと世界に置いただけでは布教しない。中に人格でも入れて、布教の手伝いをして貰わねばならない。
正直、大鎌の中に入れる魂なんて平凡であれば何でも良い。ある程度コミュニケーション能力を持ち、自立していて、しばらくの孤独にも耐えられるのような、ちょちょっと死亡者リストを開けば一ページ目で二人はいるだろう。
「えーなになに、おお、一枚に三人もいるのぅ、ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と。こいつか。えー名前は、東雪。日本人で、年齢は十六歳か。男らしくない名前じゃのぅ。」
男で検索をしたので、こんな女々しい名前でも男のはずだ。
「死亡理由は、トラックで轢殺された、か。一昔前に流行ったような死に方じゃのぅ」
正確にはトラックで轢殺された日本人を異世界に転生させることだ。死に方に流行なんてあってたまる物か。
「ま、儂にとって人の死に方なんてどうでも良い、協力を東雪に取り付けて大鎌の中に入れてあやつの世界に行って貰うとしよう。」
八百万神は産業革命で廃れたが、その全てが消えたわけでは無い。だからこそ、己のような大鎌の神なんて言うマイナーな神がいるのだから。
そう、己は大鎌の神である。普通に作れば神器級になるのだ。ならは本気を出したらどうなるか。その結果がこれだ。
武器名 no name
武器種 大鎌
取得能力 反射 吸収 破壊不可 魔力浸透率百パーセント
使用者獲得可能スキル 大鎌術 使用者の才能にあった魔法 身体超強化 精神超強化 状態異常無効 経験値十倍 特殊進化能力開花
短い武器の能力テキストとは真逆の濃い能力だ。多分これを持てば赤子でもモンスターを倒せることだろう。
正直、やり過ぎた感は否めないが、布教のためならやり過ぎなど無いのだ。
「──と、言うわけで、これの中に入って大鎌を布教してくれんかのぅ?」
「と言うわけでって何だよ、頭の中だけで説明した気になるなよ」
中々手痛い言葉だ。それに、まだ話していなかったか。てっきり説明していた物かと思っていた。
少し十六歳にしては身長が低いし華奢だ。中性的な顔付きで声もまだ声変わりをしていないのか澄んだアルトボイス。男らしい所は短い髪型だけだ。
「死んだと思ったらいつの間にかこんな部屋とじいさん一人。よく判らないけどずっと立つのも疲れるから、向かいのイスに座ったんだ。んで、十分間ぐらい放置された。まあ、その時間のおかげで現状を把握したんだけどな。」
彼は嫌みっぽく言った。
十分間も一人で考えていたのか。人間感覚で言えばおかしいだろうが、神として言わせて貰えれば、十分間なんて屁みたいな物だ。
殆ど人に会わないことが多い神業界において、暇潰しとは非常に難しい問題だ。己の世界で出来た娯楽遊具を自分で使って遊ぶ、なんて神も珍しくない。己は世界の発展的に娯楽遊具が発達していないのでそれは出来ない。
「状況整理の時間をあげたのじゃ。別に放置してたわけじゃ無いんじゃよ。」
濃縮還元しない嘘百パーセントの言葉を言った。
「そんなことはどうでも良いのじゃ。お主に頼みたいことがあるのじゃ。」
「何?異世界に行ってくれ、とか?」
鋭いのか、冗談で言ったのが当たっているのか、正直どっちでも良いが飲み込みが早いのは楽で助かる。
「その通り、お主には異世界に行って貰いたい。」
「ええっ!マジっ!?チート貰えたりするの?」
「もちろんじゃ。儂の作った最高級のチート武器を授けよう。」
「良いじゃん良いじゃん!行きます!俺、行きまーす!」
「その武器の中に魂ごと入っては貰うことになるのじゃが。」
「は?」
一瞬動きが止まり、次に出たのはその言葉だった。
「お、おいおい。ちょっと待てよじいさん。え、俺が武器になるってこと?」
「そうじゃよ?」
何を今更、当然のことだろう。
「何を今更、みたいな顔してんじゃねえよ。せめて人型にしろよ」
「儂、大鎌の神。他の形、出来ない。」
「自由度少ねえぇ!どこのオンラインゲームだよ!」
「まあまあ、武器の性能は本当にチート級なんじゃよ?」
「……ちょっと見せて」
興味を持って貰えればこちらの物だ。何たってあんな神基準で見ても恐ろしい武器だ。己があんな化け物を作れたことが驚きだ。
「良いぞ、これじゃ」
己はイスの横にあるケースから例の大鎌を取り出した。
己で言うのもなんだが美しい造形だ。無駄な歪みや華美な装飾は一切無く、全身が真っ黒いのと対比され更に白く見える刃の部分は一つの曇りも見えない。
「……綺麗だな。日本刀みたいだ。本物見たこと無いけど……ってなんだこの能力っ!?馬鹿じゃねえのなんだよこの俺の考えた最強の装備みたいなことかかれてるじゃねぇか!」
それについては己もやらかしたと思っている。正直、自分の創った世界にこんな物が他の神から送られてきたらそりゃあもう怒り狂う自信がある。
「出来ちまったんじゃよ本気を出したら。それよりも、良いかの?この武器の中に入ってこれから行く世界で大鎌を布教してくれるかの?」
さっき「俺、行きまーす」と言っていたのを己は忘れていない。
「さっき行くって言っちまったからな……男に二言は無い。」
「その言葉を聞きたかった。それじゃ、武器の中に魂を入れるぞ?次に目が覚めるとき、お主は武器になっておる。それでは、良い人生──いや、武器生を。」
武器に本来命なんて物は無いのでちょっとしたジョークだ。
目の前の少年もいなくなったので、あいつの世界にどの位影響を受けるか、楽しみながら見させて貰おうでは無いか。
書き溜め?ありませんよ?
次は雪視点の予定です。
定型文 是非この作品に対する批評等、良いのも悪いのもお待ちしております。