0話「プロローグ」
月明かりが雲に隠れた。
辺りの家々と森に沈黙が訪れる。
暗闇のなか、赤く光る目が6つ。俺を探して彷徨っている。
息を殺し、俺は森の中からそいつ等を窺う。
その1つに目掛けて、俺は精霊長銃のトリガーを引いた。
音も立てずに放たれた霊石は、超音速で対象へと飛んでいく。
早いの一言しか出てこない。目で追いかけようとしたら一瞬で消えちゃったよ。
対象に触れた瞬間、大きな光を放ちながら消失。
え、威力高くない? 当たったやつ消失したんだけど……?
他の5つの目が一斉のこちらを向いた。
なぜ俺がこんなことしてるって? それはな――
俺の人生はつまらないと自負している。
朝起きて行きたくもない会社に出勤しては、夜遅くまで仕事をさせられる。
逆に世界に問いたい。この世界は楽しいのかっと。
少年期のときに夢見た異世界などと言うものはとうに信じてはいない。
仮に異世界があったら、周りの人なんてすぐいなくなるだろ?
逆にそれに気づかないっと言うことも考えられるが、今年30歳となる俺にとっちゃ夢のまた夢の話だ。
正直に言います。
俺、草薙洋祐は未だに異世界を信じております。はい。
まぁだけど今すぐ行くか? と聞かれたら行きたいと即答はできない。
俺にも生活や、大切なものがある。
まず深夜アニメだろ? これは日本の誇る文化だ。
そして漫画やゲームなどもある。
家に帰ってはゲームをし、深夜アニメを見て寝る生活をしてきた俺にとって、以上のものがないのは大変暇なのである。
仮に、仮にだよ? 異世界に行けるなら、ぜひ行きたいものだ。
そんなことを考えつつも俺は、目の前にたまった書類をパソコンに打ち込んでいく。
楽しい仕事、なんてものはないんだ。
この会社に来て、もう10年。
仕事には慣れたが、会社に華がないのが残念だ。
30歳にして、独身、なおかつ童貞貴族だ。
そろそろ結婚しろと親もうるさい。
そんな中、兄が結婚すると母から電話があった。
俺を差し置いて先に結婚ですって。
なんやかんやで時間は10時。
そろそろ帰るかな。
俺は席を立つと残っていた部長に声を掛け、会社を後にする。
迎えのない冷め切った俺に、追い討ちをかける如く真冬の風が吹く。
「あぁ~、いつものとこ寄ってくか!」
思い立ったらすぐ行動。
一人暮らしで家に帰っても暖かいメシなんてないのだから。
贅沢してもいいじゃない。
と、言うことでやって来たのは屋台。
行きつけであり、一人でも気軽に来れる俺の居場所のようなところだ。
「お、あんちゃん今日も来たのかい?」
にやにやと笑いながら話しかけてきたのは店主。
この屋台を見つけてからもう4年の付き合いだ。
って、『も』ってひどくないか?
まるで俺がいつもここに来てるみたいじゃないか!
まぁ、来てますけど……
「もって必要です?? 客が来たのに喜んで欲しいですね」
「はははは、そいつは失敬失敬!」
相変わらず元気のいい人だ。
こんな元気見せられたら疲れているところをあんま見せたくない。
目の前に来るは、しいたけの煮物! これはここの屋台でしか食べれないのだ。
大きさもそこそこあり、一応は裏メニューなのである。
それとビールを飲むのが、俺の習慣だ。
まぁお酒弱いんだけどね!
飲まなきゃやっていけないのよ……。
なんやかんやで店主と楽しく会話して、ある程度食べたら帰る。
「最近通り魔がいるらしいから気をつけてな」
「ありがとうございます。また明日も来ますね」
「早く嫁さん見つけて結婚しろよ!」
「気が向いたら。では、自分はこれで」
「おう、道中で寝て風邪引くなよ!」
寝ないよ、そんな馬鹿じゃあるまいし。
さて、酔いもいい具合に回ってきた。
家に帰ってゲームやって寝るかなぁ。
ブルブル、ブルブル。
携帯のバイブレーションが振動している。電話かな?
胸のポケットから携帯を取り出して画面を見つめる。
『不明番号』と、はじめてみる文字が書かれていた。
いたずら電話だと思ったが切れる様子がないので出ることにした。
「もしもし?」
『あ、もしもし? 元気? 私だよー!」
ッピ。
とりあえず訳がわからないから切った。
女の子だろうか? そこそこ若い声だった。
ブルブル、ブルブル。
再度電話がかかってくる。
「もしもし……」
『いきなり切るなんてひどい!』
「いやだって訳もわからないこと言うからでしょうに……」
『それは謝る。だけど、話を聞いて欲しいの!』
「はぁ、それで話とは?」
『異世界に興味はない?』
ッピ。
たぶんいたずら電話だろう!
さぁ、家に帰るか。
そう思い、俺は家に向かって歩き出す。
暫くして、再度電話がかかってきた。
「いたずら電話なら間に合ってます」
『いたずらじゃないもん! 本当のことだもん!』
「あきらかに胡散臭いでしょ。まず第一異世界なんてこの世に存在しないでしょ?」
『そ、そう思うのは個人の自由というかなんと言うか……』
「とりあえず、家に着くまでは暇つぶしの相手はしてあげます。自分も帰り道暇なので」
『本当ッ!?』
それから話をしていたが、酔ってるせいで半分以上聞き取れていない。
家への近道、路地裏へと入った。
未だに電話で話をしている少女。俺反応すらしていないのに、よく喋るなぁ。
半分くらいのところまで歩くと、反対側から誰かが入ってきた。
俺は道を譲るために端によける。
すれ違うかと思っていたのだが、相手が俺にぶつかってきた。
酔っているのだろうかなどと考えていると、ドスっと腹部への強烈な痛みが走った。
俺は走り去る相手を見ながら膝をついた。
くっそ、あいつ何しやがった。
腹部を見て驚愕した。
ナイフが俺の腹部に刺さってるとか、ないわぁ。うん。
痛み通り越して、熱いのよ。
滴る血が暖かい……って考えてる余裕ないわ!
次第と、痛みが消えていく代わりに、寒気が俺を襲い始める。
そろそろやばい……かも。
携帯の先では「聞いてるの!」など聞こえるが、今はそれど頃ではない。
真冬の路地裏で刺されて死ぬってどうなの。
あぁ、目の前がぼやけてきた。
「異世界……行ってもいいかも……な……」
『本当? 来てくれる? ねぇ? あれ、もしもーし?』
意識が薄れていく中、俺が最後に聞いた言葉。
『ならぱぱっと召喚するね!』
その言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。
倒れた草薙洋祐のを覆う魔方陣。
彼の魂が天へと昇る瞬間、魔方陣が光を放つ。
やがて彼の魂と共に、魔方陣は消えてなくなり、その場に骸のみが残ったのだった。
俺は天へと昇るのだろう。
先ほど見えた光は俺を迎えに来たものに間違いない。
だが、少しはいい思いをして死にたかったな。
できれば童貞だけでも捨てたかった。
使うことなく終わってしまった息子。
申し訳ないとしか言えない……。
嗚呼、光が見えてきた。きっと目が覚めたら天国か新しい家族のもとだろう。
そんなことを考えながら、俺は眠りへとついた。
(最後に、兄におめでとうって言いたかったな。兄の喜ぶ顔、見てやりたかった)
それが、草薙洋祐の思った、最後の言葉だった。
一人称に不慣れですが、毎日更新を目標に頑張ろうと思います。
たぶん、あまりない世界観ですね。