確執
明日からみんなまた忙しくなりそうですね。
共闘にあたりまずやるべきことは双方陣営の戦力の確認と融和だ。
戦力も備わっていないのに共闘と言う名の一方的な消耗戦を強いられてあとで裏切られたなどとあってはならないからだ。
戦力は絶大な影響力を持っているレイモンによって混乱した指揮系統は纏めあげられているので問題はない。
問題はやはり人間と獣人の確執だ。
だがそれは予想外な形で解決した。
「あんたらがあの伝説の獣人! いやぁ本当にいたんだなぁ……死ぬ前に見れて光栄だよ」
「にしても何で俺らの国の危機に獣人の皆さま方が……?」
彼らは獣人を恐れるどころか親しみをもって接してきたのだ。
しかも協力どころか助力とさえ思っている。
思わぬ歓待に石を投げられる事さえ覚悟していた獣人の兵士たちは面食らう。
「しっぽもふもふー」
「あっこら! 触るな!」
「だめ……?」
「ぐっ……」
そんな風に涙目の子どもに迫られ尻尾を触らせる兵士もいるほどだ。
「いやぁすまんな馴れ馴れしくて」
「い、いや、驚きましたが迫害を受けるのに比べたら断然ましです……しかしこれは一体どういう事ですか?」
「どうもこうも昔の事を覚えてるやつはもうみんな死んだってだけですよ。目の敵にしていたのは土地を広げようとする豪族や王族位のものです」
「知りませんでした……」
そうとわかっていればもっと別のアプローチも出来ただろう。
思い込みだけで事を荒立てようとしていた。
すべてがうまくいっていれば自分達が侵略者になるところだったのだ。
「まぁ森の中に引き込もっとったらそうでしょうな。もうこの国に声を大にして貴女方を批判する者はいませんよ。中には歴史を紐解いて我々の方が侵略者ではないか。仲良くすべきだと唱える者もおりましょう」
「私たちはずっと一人相撲をしていたんですかね」
「いや、確かに王は貴女方を国の歴史の汚点だと目の敵にしていた。臣民はそれに従うことしかできない。だから我々が変わるには何かきっかけがあればよかったんだ。突然現れた化け物に王が食われてしまったとかな」
レイモンは親王派に聞かれたら袋叩きにされそうな事をしれっと言う。
それだけこの国にはあの王を慕うものは少ないのだろう。
これだけ士気があれば軍としては機能する。
だが相手はあのテトラだ。
「顔合わせは済みました。しかしいくら兵がいたところであれには勝てるとは思えません。何か策があるのですか?」
「もちろん。だから共闘を持ちかけたと言っても過言じゃない」
レイモンはニヤリと笑うと無茶苦茶な計画の概要を話した。
「正気ですか? そんなことが可能だと?」
「言ったでしょう? ちょっと先の未来が見えると。既に調べて招致している。クトリカのコルオンを」
レイモンはクトリカの方角を向いて言う。
もしそこに彼の事を知っている者がいたら「何であいつが?」と思っただろう。
さらに彼の最近の出来事を知っている者がいたら彼が重要参考人だと理解したはずだ。
「……」
だがすべて知っているはずのミューは相変わらず借りてきた猫のように大人しくレティアの後ろをついてくるだけで彼の名前を聞いてもピクリとも反応しなかった。
そんなミューの様子を見てレティアは話しかける。
「ミューちゃんはどうするの? 一緒にテトラちゃんを止める? それとも向こうにつく?」
「あたしは……」
ミューはどうしたらよいかわからなかった。
命令されるだけの人生だったのでその命令を下す主人が居なくなった今、自分で考えて行動しなければならない。
だが自分で考えることは苦手だ。
誰かに答えを教えてもらった方が楽だから。
「テトラちゃんの事、嫌い?」
「そんなことないっす!」
「じゃあ一緒にテトラちゃんを止めよう? それがあの子に罪をこれ以上背負わせないことになる。あの子のためになる」
「ご主人のために……」
大きな存在である主人に与えられるだけだったちっぽけな自分にできるのだろうか。
ミューは助けたい気持ちとどうせ無理だと言う心の声の間で葛藤する。
そこにレティアはだめ押しをした。
「暴走した主人を止めるのも部下の役目だよ?」
「……やってみるっす!」
ミューはここで初めて上を向いた。
久し振りに見上げた空は先程まで異形の魔獣が街を食らいつくそうとしていたことなど無かったことのように蒼く澄んでいた。
今日はアンラッキーデー。
こんな日もあるよね。
だからひょんなことで石油王と友達になることだってきっとあるはず。
あるよね。




