予言
こんな時間ですいません。
糞眠いです。
「すいません間違えましたー……」
「まぁ待ちなさい半人半獣の子らよ」
「……」
そっと出て行こうとするが老人のその言葉でテトラの動きが止まった。
「なんのことでしょう?」
「誤魔化さずとも良い。昔君と同じような半魔獣に会ったことがあるものでな。ちょっとこっちへ来て話をしないか?」
「いえ、急ぐので」
「そう言わずに……な?」
「……っ!?」
老人は細い目を開いた。
それだけでテトラは蛇に睨まれた蛙のように体を動かせなくなる。
この老人はいったいどれ程の修羅場を潜り抜けてきたのか。
一歩でも動けば殺される。
結構強くなって自信がついていたテトラにそう思わせるだけの威圧感がその目には宿っていた。
「ご主人! ここは私が止めるから逃げてっ!」
「ミュー……!」
動けずにいたテトラの前に全身の毛を逆立てたミューが立ちはだかる。
先程の失態を取り戻そうとしたのだろうが足が震えていた。
彼女も例に漏れず恐怖しているのだ。
「ちと脅かしすぎたか」
老人は視線をはずして頭をかいた。
すると雰囲気が最初の柔和なものに戻る。
「なに、取って喰おうとは思っとらん。ちょっと話をしたいだけなんだ。この椅子に座りなさい」
「……はい」
テトラたちに拒否権はない。
顔を見合わせてから示された椅子に二人して緊張を崩さずに座る。
「さて、何用かな?」
「屋上に行きたいだけです」
「そうか……」
隠してもしょうがないので正直に言ったテトラを見ながら老人は白くなった髭を弄る。
「そうだな……呼び止めたのは勝手に入り込んだからと言うだけではない。単刀直入に言うとわしには未来が見える」
「未来が……?」
「おっと、そこいらのインチキまじない師と一緒にしてくれるなよ? これでもそれなりの地位に収まるくらいには信用されてるのでな?」
訝しげな顔をするテトラに老人は慌てて言い繕う。
だが見た目も相まってうん臭さは拭えない。
「おほん。そう言うわけで君にあまり良くないものが見えたものでな。引き留めたのだ」
「良くないもの、ですか」
「災厄の相だ」
「……はぁ」
テトラはもはやこの老人を信用していなかった。
先ほど感じた気配は恐らく気のせいだろう。
よくよく考えれば宗教施設にいる老人と言う時点で詐欺師紛いの何者かと言う気しかしなかった。
そんなテトラの気を察したのか老人は諦めたようにため息をつく。
「急いでいるようだし詳しくは聞かんがせっかくだ。行く前に何か聞いてみたいこととかないか?」
「あー……じゃあ私、人を探しているんですけど見つかると思いますか?」
「そうさなぁ……きっと見つかる。この王都は広いのだから」
「ありがとうございます。気休めでもそう言ってもらえるだけで元気になります。では」
テトラはこれ以上老人の戯言に付き合ってられないとそそくさと部屋から出て行こうとする。
「屋上へ行きたいのだったら正面から見て左の奥にある階段からいけるぞ」
「……ありがとうございます」
そこで来た思わぬ助言に目を丸くしたがすぐにこれも気まぐれかと思い直して部屋を出ると扉を閉じる。
「災厄か……こりゃあ一嵐来るかもなぁ……」
部屋にいた老人――レイモン・サバータは王都でも随一の魔術師である。
魔導を極めた末に変質したという彼の目はどんな些細な魔力の流れも読み取る。
これまでも火山の噴火や魔獣の大発生など人類に多大な被害をこうむる大災害をいくつも予言し、事前に食い止めた慧眼の持ち主だ。
そんな彼の目がテトラから読み取ったのは「災厄の芽」であった。
それはつまりテトラ自身が災厄になり得るということを意味する。
彼自身あんな小さな女の子が災厄を起こすなどと信じれるはずもなかったが見たものがすべてである。
「取り敢えず準備だけはしておくか」
レイモンは何があっても良いように備えるため、動き始めた。
がばってるかもしれないけど多少はね?
今日あたり整理しようかしら。




