鳥
まだ24時ですね(いつもの)
世界は広い。
世界のすべてを見た人間などいないだろう。
なぜなら世界は絶えず広がっているのだから。
閑散とした王国の外れの草原にいる獣人のアトゥアもまた新しい世界を見た者のひとりだった。
「何だこれは……どうなっている……」
彼女の目の前には白い鳥の翼の生えた少女が二人いる。
まるで絵画に描かれた祝福を告げる天使のようにはたまた遠い異国の地にいると言われている有翼人種が空めがけて飛び立つように白い羽をめいいっぱい広げ、羽ばたいた。
「第一回鳥人間コンテスト王都杯、行ってみようか」
「了解っす!」
二人で息を合わせて強く早くその翼を動かす。
そのたびに風が産まれ、アトゥアの髪を暴れさせる。
「おっ、おー?」
「行けそう! 行けそうっすよ!」
やがて彼女たちの身体は僅かに浮き始めかかとが地面から。
そして――――数分の時が流れた。
「……」
「浮かないっすね……」
結局それ以上の上昇はできず、羽は小さく萎んで消えてしまった。
二人の天使、テトラとミューは顔を見合わせる。
「体が重いんだと思う」
「確かにそうっすね」
「じゃあ……」
二人は頷くと四つん這いになり、喉に手を突っ込んだ。
「う、うえぇぇ……」
「おろろろろ……」
「え? 何? え?」
神話の一ページのような美しい光景から一転、深夜の飲み屋にいる親父のような嘔吐を始めた二人にアトゥアはただ戸惑う。
ちなみに彼女たちが口から出しているのはただの吐瀉物ではない。
半透明なゼリー状の物体になっている自身の体細胞とスライムの混合物を吐き出していた。
そうすることで体の体積が減りみるみるうちに二回りほど小さくなった。
「こんなもんでしょう」
「行けますかね?」
「取り敢えずやってみよう」
一通り吐いたテトラは口を拭うとミューの背中に拾った鳥の羽を刺し始めた。
数本刺し終わると次はミューがテトラの背中に同じ羽を刺す。
「んっ……」
それから力むと羽は一瞬にして何倍にも膨れ上がりさらに細い大きな手のような骨格が生えてきた。
やがてそれらは翼を形どり、大きな鷹のような茶色い羽をその背に携えたテトラとミューは再び羽ばたき始める。
「おっ、今度はいけそう」
すると先ほどの鈍重な動きとは打って変わって軽やかに浮き始めた。
これなら飛べそうだ。
「大丈夫っすかね……途中で落ちたりしないっすかね……」
「時間切れまでに急いで行くしかないね」
「じゃあ早速――」
「ちょ、ちょっとまってくれ!」
ただの人間ではないと分かっていたがあまりにも人間離れした姿を見せつけられて呆けていたアトゥアは飛び立とうとするテトラたちを慌てて止める。
「何ですか? 急ぐんですが」
「危ないみたいだしやっぱりやめないか!?」
「いや、行くことに変わり無いです。探してるのが王様と言う可能性も捨てきれませんし」
「そうはいってももし捕まったら情報が……!」
「いざというときは貴方に見せたような奥の手を使って混乱に乗じて逃げるので大丈夫ですよ」
「しかし……」
「ではー」
「あっ……」
だがテトラとミューはアトゥアの制止を聞くことなく生えた翼をはばたかせ、さっさと飛び立っていってしまった。
「一体なんなんだあいつらは……」
アトゥアは伸ばした手を下ろし王都の中心へ向かって不安定に飛んで行く彼女たちの姿を見送る。
大きな羽で青い空を飛ぶ彼女たちの姿は何にも縛られない自由を体現しているようで陽光の中、眩しく見えた。
だからだろうか彼女たちならば何か大きなことを成し遂げてくれそうだと思った。
「あっ」
それから間もなく、自由の羽を広げた希望の鳥は王都に付く前に錐もみ状態で墜落した。
桂ァ! 今何キロ!?




