協力
まだ今日だ。
25時は今日だ(強引)
薄暗い屋根裏に動く影が一つ。
梁から梁へ素早く移動するが足音は無く、まるでムササビのように駆けてゆく。
かなり良い身分の者の家なのか屋根は高いが怖気づく様子など微塵も見られない。
「あれか……」
そしてある場所で立ち止まる。
その眼下には幸せそうな地主の一家が団らんしていた。
「これから大騒動になるって言うのに呑気なもんだな」
包帯を顔中に巻いた怪しげな格好をしたその者はため息を一つついて腰の物入れから何かを取り出した。
「本当にこんなもんでわかるのか……?」
それはただの小さなスライムのように見える。
魔力量が少ないせいかだいぶしょぼくれたそのスライムは小さく震えるとすぐに水をしみださせて干からびてしまった。
後に残ったのは玉葱の薄皮のようになったスライムの残骸だけ。
「……まぁいい。言われたことはやった。帰ろう」
彼女はテトラに負けた獣人だ。
なぜかスライムを使ってテトラの手伝いをしていた。
その理由は数時間前――テトラたちに負けて捕まっていた時に遡る。
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「王国転覆に協力するだぁ!?」
テトラの突飛な提案に獣人の女は思わず声を荒げた。
「声が大きいですよ」
「あ、すまん……じゃなくて! 人間であるお前たちがそう言ったところで簡単に信用できるか!」
「半分ほど人間じゃないですよ?」
「それは……まぁ、そうかもしれないが……」
確かにテトラたちは明らかに人間ではない身体と動きをしていた。
見たものは否定はできない。
「だが協力するというからには何か見返りを求めているのだろう?」
「話が早いですね。端的にいうとそちらを手伝うから私の方も手伝ってほしいと言う事です」
「……具体的には何を手伝えば良い?」
国家転覆を手伝うというのだから無茶な要求をして来るのだろうと意気込んだが帰ってきたのはこれまた突拍子もないものであった。
「ただの人探しですよ」
「人探し……?」
単に誰かを探しているのならそう言うことを専門でやっているところに頼めば良い。
そうしないのはそれだけの理由があるのだろう。
そんな獣人のその考えは当たっていた。
「探しているのは多分貴族とか組合会長とかそういう偉い人なんです」
「多分とはまたずいぶんと曖昧だな……」
「まぁこれを持って家に忍び込んできてくれるだけで良いので」
「これは……スライムか?」
「はい」
テトラが掌の上に作り出したのは一匹のスライム。
彼女の身体から切り離した小さな個体であった。
だが元気がなくしわしわだ。
「この辺りは魔力量が少ないみたいなのですぐにしぼんじゃいますが……ていうか確か獣人って体内生成魔力量は人間の何分の一かでしたよね? どうしてこの王都のうっすい魔力濃度の中でそんなに元気なんですか?」
「え? お前たちそんなことも知らずにいたのか? 普通にしてるからてっきり知っているものかと思ってたが……」
思い出したように言うテトラに獣人は驚く。
そして小物入れから一つの半透明な石を取り出した。
「魔力結晶。この王都でのみ製造されている特殊な石だ」
それから眉を顰め一呼吸おいてつづけた。
「この街の周辺、および人々から吸収した魔力を集めてできている」
気づいたらこんな時間だった。




