正体
戦闘描写は難しいけど楽しいよね。
「いや、誰?」
よくよく獸人の顔を確認するが全く見覚えがない。
一ミリも記憶に引っ掛からない。
「お前っ……! さんざん臭い臭い言っておいて……!」
「あぁもしかしてあのときの!」
テトラはクトリカでスライムが誤作動を起こして黒いローブの人を疑った事を思い出した。
思い返せば確かに背格好は似ている気がするが顔は全然見えなかったので気付けと言うのは無理があるだろう。
「やはり私たちの邪魔をしに来たのだな! 許さん!」
「うわっ!?」
彼女は問答無用で切りかかってくる。
何とかその初撃を間一髪で避けると背後の壁が抉れた。
「子供だと言って容赦はしない。次は当てるぞ」
「はは……すごいですね」
獸人は細身の剣を構え直す。
獣人と言えば後天的に半魔獣化したテトラたちより魔獣に近い存在。
この魔力量の少ない土地でこれほど軽やかに動けているのは不思議であった。
テトラの頬を冷や汗が流れる。
「先の大戦に敗れた我らは泥を啜りここまで来たのだ。誰にも邪魔をされるわけにはいかん」
「そうは言っても私たちには関係……ないですよっ!」
テトラは交渉の余地なしと判断し、迎撃することに決めると腕をスライム化させて獣人に飛ばした。
「チッ! やはりただの人間ではないな! 魔獣か悪魔の類か!?」
だが獣人は素早い足さばきでその飛沫の一滴も喰らうことなく避け切る。
「ミュー!」
「はいっす!」
そこに横から回り込んでいたミューが堅い甲羅を持つ魔獣の素材を噛み、瞬間強化で硬化した拳で殴りつける。
「なるほど。そうやって昨夜は狼に化けていたわけだ!」
「うわっ!」
だが素人の拳など獣人には止まって見えていた。
不安定な姿勢から一足で拳を避けるとそのまま腕をつかみ、地面に叩きつけた。
「かはっ……!」
「戦いは素人か……? ますますわからん。何なんだお前たち」
「多分あなたの勘違いなのでしょうがあえて言うなら――ただのスライムの飼い主ですよ」
「は? ……あ!?」
テトラに剣の切っ先を突き付けた獣人は足元を見て驚愕した。
なぜならそこには先ほど叩きつけたはずのミューが溶けていたからだ。
さらにその溶けたミューはちゃんと生きていて足元に絡みついてきている。
「くそっ! なんだこれは!?」
「うへへ……捕まえましたよぉ……」
足を引いて振りほどこうとするが粘性の液体の沼からは簡単に抜け出せない。
「ミュー、ナイス」
その間にテトラは狼の干し肉の切れ端を齧ると荷物の中から一枚の赤い鱗を取り出した。
それはクトリカで最初に買ったドラゴンの鱗らしきもの。
グッと強く握り手から直接吸収する。
すると瞬間的に複製された鱗の細胞は彼女の右手を強固な鱗で覆った。
「おりゃぁぁぁぁ!!」
テトラは狼の魔獣の脚で地を蹴り、ドラゴンの前足のようになった拳で動けない獣人に向かって殴りかかった。
「くっ……!」
さすがにこの一撃は避けられないと判断した獣人は剣の柄と刀身に手を当てて防御の構えを取る。
しかし踏ん張れない足での防御はテトラの渾身の突進を受け切れるはずはなく剣ごとテトラの拳が彼女の顔に打ち込まれた。
「ドラゴンブロォォォォォ!!」
拳はそのままの勢いで振り切られ、獣人は顔に剣の形の跡をつけると仰向けにのけぞって地面に倒れ伏した。
「わたしもスゥほどではないですがある程度自分の身体をコントロールできるようにはなったんです。舐めないでください」
テトラは予想以上に痛かった手をさすりながら決め台詞を吐いた。
本当は剣を折り、顔に直接拳を叩きこむつもりであった。
だが剣に全くダメージが入っていないところを見るにどうやら使った鱗はドラゴンの物などではなくトカゲか何かの紛い物だったらしい。
「ま、結果オーライだね」
結果が良ければ何だって良いのだ。
テトラはミューが元の形に戻るのを待ちながら、再び暴れられないよう目を回す獣人の手足を取り合えず縛っておいた。
ブロォって打とうとしたら風呂ぉって出たので早くお風呂シーンも入れろってことだなって思いました。
今のところ入れる予定はないですが。




