能力
能力とは言ってもあくまで研究と試行の産物です。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思ったっす……」
「さすがに……ヤバかった……」
スライム1――テトラはスライム2であるミューと借りた部屋の中でドアを背にして荒い息を吐いていた。
「まさか初日から奥の手を使うことになろうとはね……」
「いや……運が悪かっただけっすよ。あの眼はヤバかったっすもん」
ミューはドアの隙間から見えたテトラに剣を突き付けた女性の目を思い出して震える。
彼女たちの使った奥の手は瞬間強化の効果を強引に全身に行き渡らせたものだ。
一時的に別の魔獣の姿を取って逃げることで犯人像を絞り込めなくするという目的で作り出した技。
そのため少しでも吸収効率をよくするために自らの腹を裂いてクトリカで買っていた狼の魔獣の干し肉を吸収したのだった。
「はぁ……でも、これで一応全部試せたね……」
「もう奥の手は二度と使いたくないっすけどね……」
緊急変化は奥の手と言うだけあってそう易々と使えるものではない。
何しろ一回の変化当たりの効果時間は短いうえに自傷行為を伴う。
彼女たちの身体は半分スライムなので傷はすぐに癒えるとはいえ多少の痛みは伴うし自らの腹を裂くなんてよっぽどの覚悟がないとできないことであった。
特にスライム人間になりたてのミューには慣れておらず厳しかっただろう。
「ミューはすごいよ。変化もすぐに習得したしあの緊急時にもよくついてこれたと思う」
「へへ……あたしはご主人の下僕っすから」
「助けて良かった……」
ミューの有能さにテトラはやはり自分の行動に間違いはなかったのだと再認識する。
「……寝るか」
「そっすね」
危機を脱し、安心すると急に眠気が襲ってきた。
それはミューも同じようで眠そうに目を擦っている。
今日の所はこれにて盗賊ごっこは終了。
明日に備えて寝ることにした。
「ご主人と同じベッドで寝てもいいっすか?」
「ふぇっ!?」
それからそれぞれのベッドに向かおうとしたとき、唐突にミューがそんなことを言ってきた。
「……なんで下僕と一緒に寝ないといけないの……」
「ダメっすか……?」
「うっ……ダメとは言わないけど……」
「わぁい! ご主人と一緒だー!」
うるうるとした目で迫ってきたミューに否定の言葉をかけられずにいたら肯定と受け取られた様でミューはテトラが寝る予定だったベッドにスライディングするように潜り込んだ。
「……ま、いっか」
ミューも奴隷と言う立場に落ちたからにはそれなりに辛い目に合っているはずだ。
だから人のぬくもりが欲しいのかもしれない。
テトラは「仕方ないなぁ」とは思いながらも彼女自身人肌に飢えていた。
ミューと並んでベッドに入ると他人のぬくもりが肌を通して心にまで染み込んできてとても気持ちよかったのだ。
「えへへ……あったかいっすね」
「……そうだね」
少し怖い目にも合ったし誰かがそばにいると言うだけでこんなにも安心できる。
今日は良い夢が見られそうだった。
彼らはまるで悪戯をしてきた子供の様に満足そうな顔で眠った。
みなさんイベントは走り終えましたか……?




