良い人
19部のコルオンの発言に王都の描写を入れて整合性を取りました。(後付け)
3章最後なので結構がっつりと。
テトラたちは相変わらず人であふれる街の中をbobさんでモーゼの十戒のごとくかき分けながら進む。
だが、テトラは難しい顔をして眉根にしわが寄っていた。
それを心配したミューが下から問いかける。
「これで良かったんすか?」
「うん。変にこじれるよりこの方が良い。良かったんだ」
テトラは自分に言い聞かせるようにして後ろを振り返ることはなかった。
彼らとは合わなかっただけ。
方向性の違いと言うやつだ。
それにテトラはなるべく誰かに頼るわけにはいかなかった。
前世では「彼女」に頼りきりだったからそれを失った時、柱を無くした橋のように自分と言うものが瓦解した。
だから今の人生は何としても自分自身の力で生きて行かねばならない。
そんな使命感に狩られていた。
「……ところでなんで君は歩いてるのかな」
テトラは未だbobさんの足元をちょろちょろとついてくるミューに目を向けた。
「そりゃあ奴隷っすから。ご主人と同じ高さに登れないっす」
「別にいいから後ろ乗って。まるで私がいじめてるみたいじゃん」
「乗っていいっすか!? わぁい! やっぱご主人は良い人っす!」
ミューは最初から乗ってみたかったのか許しが出るや否やbobさんの横っ腹をよじ登るとテトラの後ろに座った。
道を歩く人たちを高いところから見下ろす優越感に浸り興奮したように鼻を鳴らしている。
「良い人……ね」
もう何が良いのかわからなかった。
正義は人それぞれである。
テトラだって良い人らしくありたい。
だがコルオンにとってテトラは目の前の怪我人を選別する悪人であり、ミューにとっては命の恩人で良い人なのである。
他の人を助けて回っていたら魔力不足に陥りミューは救えなかったかもしれない。
それでもコルオンにとってテトラにはすべて救えるはずだという幻想を抱いていたがため失望された。
「……良い人になるって難しいな」
そんなテトラの寂しそうな呟きは街の喧騒の中に掻き消えた。
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商業都市クトリカから王都へと向かう街道。
そこに一台の馬車が走っていた。
一見普通の商人が使うような安っぽい馬車だがそこに乗る御者や商人風の男の風格は歴戦の兵士のようであった。
彼らの目は外敵を見逃すまいと全方位に注意を向けている。
そしてその馬車の幌の中には街娘風の少女と傭兵風の女性が乗っていた。
しばらく沈黙を保っていたが傭兵風の女性が口を開く。
「お嬢様、計画の程は……」
「えぇ。滞りなく。私たちは予定通り動くだけですわ」
「それはよろしゅうございました」
街娘の言葉に傭兵は恭しく頭を下げる。
「ところでそちらの物は……?」
それからおずおずと街娘が膝に置く一匹の魔獣について尋ねる。
それはどこからどう見てもスライム。
森の掃除屋と呼ばれている雑食性の無害な魔獣だ。
すると彼女は頬に手を当ててほほ笑んだ。
「街中で拾ったの。私の荷物に飛び込んできて……可愛いでしょう?」
「えぇ……まぁ……」
主人がかわいいというのだ。
きっとそれは世の女性たちにとってはひどく可愛いものなのだろう。
世間に疎い傭兵の女は理解できないながらも生返事で肯定した。
「む……」
その時、傭兵は誰かの視線を感じて素早い動きで馬車の壁に張り付き小さな窓から外を覗く。
するとそこには同じ方向へと向かう熊の魔獣に乗った二人組の少女がいた。
そのうち前に乗っている少女が不思議そうにこちらを見ている。
そこに敵意は欠片もなかった。
「どうしたの?」
「あ、いえ、熊の魔獣のようなものに乗った輩が此方を見ていたので刺客かと。違ったようですが」
「熊の魔獣ですか! どこの国の物でしょうか?」
「さぁ……寡聞にして聞いたことはありませんが、ここは世界中の珍品が集まる場所ですのでそう言うものもありましょう」
「本当だわ! 熊さんの上に人が乗ってる! 私も乗ってみたいわ!」
傭兵は横にぴったりとくっついて窓から外を見てはしゃぐ主人の首根っこを摑まえると元の場所に座り直させた。
「なりませんよ? そんな理由で正体が露見して計画が水泡に帰してはあなたを支持する方々が一斉に敵にまわります」
「むぅ……分かっているわよ」
馬車は熊の魔獣に乗った二人組を追い越して王都への道を急ぐ。
吉報を彼らの支持者に伝えるために。
革命の種火に油を注ぐために。
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「ん……?」
街を出て街道を行っていたテトラは回収したはずの自分から分裂させたスライムの気配がした気がして近くを通りがかった馬車を訝しげに見ていた。
だがその気配は弱く、馬車がbobさんを抜いて走り去って行くと同時に消えていった。
「……ま、いっか」
恐らく商人の荷物に潜んだはいいが出られなくなってそのままになっていたスライムがいたのだろう。
そのうち干からびて死ぬか自浄作用で元の何の変哲もないスライムに戻るのだから気にするほどの事でもない。
そう判断して後ろで溶けたようにうつぶせになっているミューを見習って身体を前に倒す。
「あー……これは気持ちいい……」
bobさんの背中は太陽の匂いがした。
それからじわじわと身体の上と下の両方から染み込んでくる優しい温かさはごちゃごちゃした頭の中身を解いて行く。
今日は良く晴れていてこれ以上にないくらいの旅日和であった。
3章終りです!
まだまだ前半部分で手直し入れるべき個所はありますがぼちぼちと……。
それはさておき評価、感想お待ちしております!
すでに評価してくれてる兄貴たちはありがとうございます!
ほんと励みになります。
と言うか結構な方が入れてくださっていて感謝しかありません。
この評価に負けないように続きも書いて行く所存でごぜーます!




