襲撃
全部かいてたらだれるから実験したことのダイジェスト。
ポーションスライムの作成を諦めたテトラだったがめげずにスライムにさらなる実験を施した。
その結果から様々なことがわかった。
「スライムは暗くてじめじめしたところが好きで、分裂は大体10センチくらいが限度、と」
そして今回判明した最大の発見。
それは――――
「なんか可愛くなったな」
そう言ってテトラが持ち上げたのはまだまだ丸っぽいが吸収した餌の元となった生物の形に似てきたスライム達だった。
餌をあげ続けていた個体となるそれらは元となる生物の姿を見たわけでもないのにその姿を取っている。
つまりDNAなどの生体情報を細胞から入手していると考察できる。
自然界においてこの姿が確認できていないのはよほどのことがない限り同じ種類のものを長期間食べ続けることなどないからだろう。
「んー……でもポーションスライムとかはどうなってんだろ……? 複数混ぜたら初期化されちゃうし……やっぱ存在しないのかなぁ……」
一種類ならここまで育つが複数となるとリセットされ、ただのスライムに戻ってしまう。
そのことは実証済みだ。
きっと何らかの方法があるのだろう。
「ま、そのうち分かるでしょ」
いくら考えたところで実際に実験してみないと分からない。
テトラは問題を投げると鮮やかな緑色をした葉っぱの進化系のスライムをちぎって口に入れた。
「ぅぇ……やっぱまずい……」
姿かたちが変わっても味は相変わらずのようだ。
ちなみに干からびていたグループ1のスライムは水をかけたらもとに戻ったので家の中でうねうねしている。
水をかけた時、まるで塩をかけられたナメクジのようだとテトラは思ったという。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ん……?」
その夜、テトラは家の外から聞こえる物音で目を覚ました。
耳を澄ますと何かを探すようなガサゴソと言う音が納屋の方から聞こえてくる。
スライムは夜の間はおとなしいので違うだろう。
「ま、まさかお父さんとお母さんの亡霊じゃないよね……それともゾンビ……!?」
テトラは子供でも使える簡単な火おこし魔法でろうそくに火をつけると上着を羽織り、護身用の短剣を持って迎撃準備を整える。
だが一人じゃ心細いので最初に分割させた片割れのスライムを頭にのせながら納屋へと向かう。
ここは人里から離れており、しかも電気など存在しない世界。
月明かりと手元の蝋燭だけが頼りで視界の先は真っ暗闇だ。
「だれかいるー?」
そこに向かって呼びかけるが返事はなく急に物音一つしなくなった納屋はかえって不気味でテトラは身震いした。
「誰もいないなら閉めますねー……」
テトラは外側から鍵をかけてしまおうと開いていた扉に手をかけた。
その時だった。
「グォァァ!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!」
暗闇に突然現れた金色の双眸が納屋の中からテトラに襲いかかったのだ。
それは閉めかけた扉にぶつかり、驚いたテトラは後ろに飛びのく。
そしてその衝撃でベキバキと音を立てて納屋の扉が壊れ、金色の目をした者の正体が月明かりに照らされて明らかになった。
その正体は2メートルを超える熊のような恐ろしげな魔獣だった。
両手に伸びる爪は長く鋭く地を穿ち、剥きだしの牙の隙間からは涎が光る。
そしてその体躯は非常に筋肉質で引き締まっており、がっちりとしていた。
「グァァ!」
熊の魔獣はテトラに逃げる間も与えず大きな爪を大きく振りかぶる。
死神の鎌のようなその爪は月光に反射して命を刈り取らんと煌めいた。
「く、来るなー!」
思わずテトラは目をつむって身を引きながら短剣を抜いてやたらめったらに振り回した。
「ギャン!」
すると運よく短剣が油断して近づいていた熊の魔獣の目に当たり、驚いた魔獣は一目散に逃げて行った。
「ひっ……はっ……た、たすかった……?」
少し過呼吸になったテトラはその場にへたり込んで魔獣の去った方角を茫然と見つめる。
一瞬の邂逅だったが身体を駆け巡った恐怖から解放されたテトラは全身から脂汗を流した。
おそらくあの熊の魔獣が家畜を襲った魔物の正体なのだろう。
餌が豊富にあった記憶と納屋に残った人の匂いを嗅ぎつけてやってきたのだ。
「ん……?」
そこでテトラはなぜか左のわき腹がとても熱いのに気が付く。
蝋燭の火でもついたかと思うが蝋燭は驚いた拍子に地面を転がっている。
なら何がこんなに熱いのかとその箇所を触った。
するとぬめりとしたまるできめの細かい泥でも触っているかのような感触が掌に伝わった。
「あ……れ……?」
その手を月明かりに照すとそこには赤黒い液体が一面にべっとりとついていた。
熊のつめってめちゃくちゃ怖いよ。
かすっただけで死ぬ自信あります。
もちろん腹を切り裂かれれば確実に死ねますね!