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一から造るスライム牧場  作者: 白井アレ
第3章 商業都市クトリカ
29/72

別れ

フラグの回収が急がれる。


 「そう言えばbobさんは?」 


 落ち着いたところで発言したサリアのその言葉でミューを除く全員がここまで乗ってきた大きな魔獣型スライムの存在を思い出して「あっ」と声をあげた。


 「回収しに向かいましょう」


 人気のない場所に待機させたとは言え流石に丸二日も置いておいたら荷物やbobさん自体を盗まれたりしている可能性がある。

 一行は回収に向かうことに決めた。


 「お? おぉ? 何かふわふわした感じっす」


 スゥの着ていたテトラの予備の服を着たミューは初めて再生した脚でベッドから床に降りた時にふらついた。


 「大丈夫? 歩ける?」

 「大丈夫っす! 何か前より体が軽いって感じっすから」


 サリアの心配は杞憂だったようでその後のミューはしっかりとした足取りで歩き始めた。

 それから宿屋を後にするとしばらく歩いてbobさんを待機させた路地裏へと着いた。

 しかし、そこで彼らが目にした光景は予想外のものだった。


 「どうなってんだこれ……」

 「bobさんが捕まえたみたいですね」


 そこにあったのはベトベトの粘液まみれにされた人間の姿だった。

 彼はbobさんに体を半分飲まれた形で力なく項垂れている。

 bobさんだって生き物だ。

 自らに害を為そうとする者に然るべき制裁を加えたのだろう。


 「い、生きてるわよね?」


 問題は彼が生きているかどうかだ。

 死んでいたら犯罪になる可能性があるし隠そうとしても処理が面倒である。


 「た、助けてくれ……」


 近づいて行くとテトラ達の存在に気づき助けを求めてきた。

 どうやら衰弱してはいるが生きているようだ。

 それならば助けてやる前にすることがある。


 「あなたは何故捕らわれているのですか?」

 「た、たまたま通りがかったら飲まれたんだ」

 「……本当のこと言わないのならこのまま帰りますね」

 「本当だ! だから早く出せって言ってんだろ! ぶっ殺すぞ!」


 やましいことがあるからか彼らは急に逆切れしてもがきはじめる。

 確かに彼の言い分を信じる事もできるがbobさんはただの荷運びようの魔獣ではない。

 テトラが本当か目線で聞くと首を横に振った。

 それだけで答えは明白だ。


 「そうですね。じゃあ解放してもいいですよ」

 「チッ。最初からそうしろってんだ」


 だがテトラは彼らをbobさんから引っ張って解放し始めた。

 もちろん考えあってのことであったが。


 「ただし逃がすかどうかは別問題です」

 「あぁ?」

 「ここにいる彼女と戦闘して勝ったらそのまま逃げてもいいですよ」

 「えっ!? あたしっすか!?」


 急にピンチヒッターに指名されたミューは面食らう。


 「何言ってんだお前?」


 盗賊達も意味が分からないといったように半笑いだ。


 「まぁそう言うわけですので頑張って」

 「えっ、えっ!? いや、急に言われても!」

 「そうよテトラちゃんいくら奴隷だからって病み上がりよ? 無理させたら……」

 「いいや、使えるかどうかの見極めをしないといけませんからミューにはここで戦ってもらいます」

 「……!?」


 テトラのその言葉にピクリと反応したミューは俄然やる気を出して構えた。


 「よっし! いっちょやってやります! かかってこいやぁ!」

 「ミューちゃん!?」

 「……後悔すんなよ」


 無事にbobさんから引っこ抜かれた盗賊たちも服はぬめぬめしていて恰好がつかないが短剣を取り出してやる気の様だ。


 「ちょっと! 武器は卑怯じゃない!」

 「そうだ! 相手は子どもだぞ!」

 「うるせぇ! こっちだって命かけてんだよ!」


 飛んでくる野次にもひるむことなく盗賊たちは武器を構えるが審判であるテトラは何も言わない。


 「っらぁ!」


 そして盗賊の先制攻撃からルール無用の殺し合いが始まった。


 「うっ……」

 「へっ……へへっ……」


 さすがはいくつもの修羅場を潜り抜けてきたであろう盗賊。

 耐重を乗せた素早い刺突は一瞬にしてミューの腹部へと吸い込まれた。

 その時点で決着がついたと誰もが思った。

 だが、ミューは倒れなかった。


 「うおりゃぁ!」

 「は? あがっ!」


 ミューは腹に短剣を刺したまま盗賊の身体を持ち上げてそのまま地面に叩きつけた。

 単純かつ暴力的な一撃は盗賊の肺から空気を押し出す。


 「痛くないしなんか体が軽いっすね」

 「な、なんだこいつっあばっ!」


 その後もマウントを取り殴り続ける。

 血しぶきが飛び、折れた歯が飛ぶ。

 自分の者ではない地で染められたミューの拳には傷一つついておらず、いつの間にか腹の傷も消えていた。


 「こ、降参だ……もうやめてくれ……」 

 「ん? そうっすか」


 そして盗賊は顔が腫れあがったころに白旗を上げた。

 馬乗りになっていたミューが降りると盗賊は息も絶え絶えに続ける。


 「お、お前らただの人間じゃねぇだろ……」

 「貴方に言う必要はありません。大人しく眠っていてください」

 「く……そっ……」


 盗賊はそれだけ言い残すと意識を手放した。


 「ご主人、どうっすか? 合格っすか?」

 「合格」

 「やった!」


 心配そうに尋ねてくるミューにテトラが親指を立ててやると嬉しそうにピョンピョンとはねた。

 見たところミューに人を殴ることの罪悪感や倫理観は微塵もない。

 実際にミューの心の内にあったのは一生懸命にやらなければ捨てらるという不安だけだった。


 (予想以上に良い買い物をしたかもしれないな……)


 玉石混合な人間達の中でも選りすぐりを見つけられた幸運にテトラは嬉しそうに口角を上げた。

 これならばどんな命令も忠実にこなせるだろう。

 コルオンなどとは違って。


 「ふぅ……思わぬ収穫だった」


 それから盗賊を憲兵に引き渡すと彼には懸賞金がかかっていた様でそこそこの金額を貰え、一石二鳥でほくほくしていた。


 「すっごい体軽かったっす! まるで生まれ変わったみたいだったっすよ!」

 「実際半分以上造り替えたしね」

 「さすがご主人っす! すごいっす!」

 「でしょー」


 盛り上がるテトラとミューだったが彼女たちに引いていた二人組はどうにも釈然としなかった。

 いくら小悪党相手とはいえやり過ぎ感が否めないからだ。


 「……擁護するつもりじゃないけどちょっとかわいそうだったわね」

 「女の子にぼこぼこに殴られるとか一生もんのトラウマだろうな……」


 なのでやり遂げた感を出すテトラとミューに対してちょっと意気消沈気味であった。


 「ニャァァン!」


 それから無事に助け出されたbobさんは久しぶりの主人と再会し嬉しそうにすり寄ってきた。

 テトラはその手綱を握ると乗り込む。


 「さて、じゃあもうすることも無いので王都に向かおうと思います」

 「え? 王都に? 急ね。もう人探しはいいの?」

 「えぇ。もう終わりましたので」


 偵察に出していたスライム達からは最初のローブの人物以降、何の反応も得られなかった。

 やはり最初のはただの誤報でここには探している「彼女」はいないという事。

 もうこの街に用事はなかった。


 「またずいぶんと早いわね……」

 「で、貴方がたはどうしますか?」

 「へ?」


 テトラの言葉にサリアは間抜けな声を出した。


 「私たちもついて行くんじゃないの?」

 「護衛は手に入りましたし王都への道も人に聞けば良いことです。それに無理はしないほうが良いと思ったので」


 そう言ってテトラはコルオンを見た。

 どういう事か悟ったコルオンは眉根を寄せる。


 「そうだな……俺たちは此処までとするか」

 「ちょ、コルオン!?」

 「その代りとは言っては何だがこれを持って行ってくれ」


 コルオンは懐からずっしりと重い袋を取り出してテトラに渡した。

 テトラがその中身を検めると中には金貨数枚と銀貨が十数枚入っていた。


 「これは魔獣討伐の報酬だ。本来は君がもらうべきだと思ってな」

 「ありがとうございます。貰っておきますね」

 「これで貸し借りなしだ」


 それは依頼を受けていないテトラでは受け取れなかった金だ。

 腕の治療代としては十分であり、これで彼らを縛るものはもう何もなくなった。


 「で、でも約束したじゃない! 行けるとこまで行くって!」

 「サリア、お前も見ただろ? テトラさんは俺たちとは根本的に考え方が違う。いつか衝突することは明白だ。それに先ほどのミュッコさんの力を見る限り俺たちは足手まといにしかならなさそうだしな」

 「さすが。サリアさんとは違い賢明で助かります」

 「ちょっと! 私が馬鹿みたいな感じになってない!?」


 暗に馬鹿にされたサリアは必死に釈明しようとするがもうそんな時間も無いようだった。


 「それでは」


 テトラはbobさんの背を蹴り、通りへと遠ざかって行く。


 「ご主人ー待って下さいよー」

 「あっ……」


 その後をミューが追いかけ、サリアも彼女に続いて足を一歩踏み出したが立ち止まった。

 ここから先は恐らく自分のような凡人が立ち入って良い領域ではないのだ。

 彼らには彼らのいるべき場所があるように自分には自分にあった場所がある。

 そのことを理解したからこそ足はそれ以上前へ進もうとはしなかった。

 やがて彼らの姿は人ごみに紛れ、見えなくなった。


 「……元気でね」


 出会いがあれば別れは必ず訪れる。

 それがちょっと早かっただけだ。

 でも、まるで妹ができたかのようで楽しかった一時はもう終わりだと思うと少しだけ鼻の奥が熱くなった。


異世界では一般的な平和なリハビリの光景です。


どうにも気が合わない人っていますよね。

でもその人の友達とは気が合うって言う。

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