買い物
先立つものがないとね。
「それでテトラちゃん、この後はどうするの?」
「そうですねぇ……」
テトラ、サリア、コルオンの3人+スゥは街の中を歩いていた。
コルオン達の用事が終わり、大体必要な物も買い集めたということでこれからの行動方針は一応リーダーであるテトラが決める事となる。
そこでテトラが出した答えは予想外の物だった。
「奴隷を買いましょう」
「はぇ?」
何故今奴隷なのか。
確かに街では多くの奴隷が働いている。
昨日も商店で荷運びをしている姿をよく見かけた。
それを見て欲しくなったとでも言うのか。
「奴隷を売っているところまで案内してくれませんか?」
「……まぁあなたの言うことなんだから何か考えがあるんでしょうけど……確かこっちに市があるわ」
もはやテトラのする事に意味を見出だそうとすることを止めた。
自分達とは別の生き物なのだ。
理解することは不可能である。
「とは言っても私、奴隷市場ってあんまり好きじゃないのよね」
「俺も苦手だな」
向かう途中、サリアとコルオンは難色を示した。
民衆の中には彼らのように奴隷制度は倫理的に良くないと言う意見を持つものは一定数いる。
しかし制度の決定権を持つ者の殆んどは奴隷制度に賛成であり、この街の発展にも寄与しているところがあったので声を大にして言えないのが現状だ。
「着いたわ」
「おぉ……ここが……」
彼らの訪れた奴隷市場はこの街で一番大きい場所だ。
中央の大きな建物の回りに大小様々なテントや小屋が隙間なく建てられており、まるで群生したキノコのようだった。
その活気と性質を現すように多くの馬車が停まっており、中から出てきた裕福そうな人たちが高そうな奴隷商の店へ次々と入って行く。
そして買われた奴隷たちは張り付けた笑顔で買い手と共に馬車に乗り、去って行くのだ。
「良い人に貰われればいいんだけどね……」
「だな……」
連れていかれる奴隷たちの中には優しい人に貰われたのか救われたような顔をしている者もいる。
そうした偽善を趣味にした金持ちもいるようだった。
「私たちは向こうね」
金持ちたちの娯楽を観察していたテトラはサリアの示す先を見る。
「ちょっと小さいですね」
「あっちは金持ち御用達の店で会員制だし身分相応よ」
「むぅ……それもそうですね」
そこは金持ちたちの入っていた店の三分の一ほどの店だった。
金持ちたちの店にも入ってみたい気持ちはあったが確かにこっちの方が身分相応だ。
それに少々小汚ない方が目的の奴隷がいそうだったので大人しく従う。
向かった比較的小さいテントの入り口をくぐると直ぐに花のような良い匂いが鼻を刺激した。
どうやら人間の臭いを消すために香を焚いているらしい。
「いらっしゃいませ。奴隷をお買い求めですか?」
「えぇ」
そして奥から出てきて声をかけてきたのはこの店の管理人らしい黒のピチッとした洋服を着た男だった。
「では、どうぞこちらへ」
彼は恭しく礼をすると彼の店であるテントの中へとテトラたちを案内する。
中に入ると手足を鎖で固められた奴隷たちが整然と並べられていた。
彼らは皆清潔であり、ちゃんとした服を着ていて立つのに疲れたら座れるようなスペースもきちんと確保してある。
店の外見に反してしっかりと管理されているようだ。
だがやはり一番大きな店から出てきた奴隷たちとは容赦や体躯で見劣りする。
「お客様はどの様な奴隷をお買い求めで?」
「どうなの? テトラちゃん」
「ん……? そちらのお嬢さんがお選びになるのですか?」
「えぇ」
「ほぅ」
彼は職業柄かテトラが奴隷を選ぶことについてそれ以上深く詮索しようとしなかった。
それどころかテトラがどの様な奴隷を選ぶのか興味津々といった様子で短い髭を触る。
「この場所に私の欲しい奴隷はいません」
一通り奴隷たちを見終わったテトラが言ったのはそんな否定的な言葉であった。
ここにいる奴隷たちは健康的に過ぎるのだ。
だからもう一つ言葉を紡ぐ。
「『壊れた奴隷』を紹介していただけませんか?」
「ふむ……」
奴隷商はテトラの要求を聞いて実に面白そうに口角を歪めた。
「たまにいらっしゃるんですよね。そのようにおっしゃる方。確かにそれならば格安で提供できますが……紹介いたしかねます」
だが奴隷商は軽く笑いながら心底残念そうに首を横に振った。
「それは何故でしょうか?」
「『壊れた』奴隷の意味をきちんと理解しておられますか? 輸送の際の事故で欠損があったり死にかけであったり見るも無惨な状態の奴隷にございます。そのような奴隷たちの姿を見て『残酷だ!』だの『なんて酷いんだ!』などと思われて風評被害を流されても困るからです」
「ならこれでどうですか?」
と、言ってテトラは奴隷商に金貨を一枚握らせた。
それだけで嘲りの入っていた彼の目の色が変わり馬鹿にするような半笑いをピタリと止める。
「なるほど単なる怖いもの見たさの子どもではないと言うことですね……解りました。ご案内いたしましょう」
「現金な奴だな」
「商人ですので」
奴隷商はコルオンの皮肉もどこ吹く風といったように会釈して受け流すとテントの奥――表からは見えないようになっている建物とテントの背の間に案内した。
「うっ……」
するとそこに入った途端鼻をついたひどい臭いにサリアとコルオンは思わず手で口と鼻を覆った。
それはアルコールと死臭の臭い。
香を焚いていたはこのためだったのかと思わせるほどの誤魔化しきれないすえた臭いだった。
「なんだこれは……」
そして視線をその臭いの元へやるとそこには見るに耐えない奴隷たちの姿があった。
あるものはピンク色の蔵物をはみ出させ、またあるものは無くした片腕の付け根を押さえて呻いている。
そんな包帯を巻いて何とか延命しているような有様の奴隷たちの数は祐に十を超えており、治療に当たる奴隷商の人員が足りておらず護衛や他の奴隷たちの一部まで治療に当たっている様であった。
まさに地獄絵図てある。
「最近魔物の動きが活発でしょう? 私達は多くの人を遠方から運ぶため例に漏れず道中で襲われましてね。その際に多少犠牲が出てしまったのです」
「でもこんな……酷すぎる……」
「私らも損失はなるべく出したく無かったのですがこればかりは運がなかったとしか……」
「そんな人を物みたいに……」
「コルオンさん。彼らは望んで売られた者ばかりであり奴隷商にとってはただの商品です」
「そうよコルオン。気持ちはわかるけど割り切るしかないわ」
「しかし……!」
コルオンは味方であったはずのテトラとサリアにもたしなめられギリッと歯軋りをする。
正義心が強く人を守りたいから魔物を狩る仕事をしている彼にとって簡単に割り切れる事ではなかった。
そもそも奴隷なんて身分がなければ彼らは運ばれて危険な目に合うことも無く幸せな生涯を送れていたはずだ。
しかしこうなってしまっている以上、後の祭りである。
どうあがいても時間は戻らない。
「あっ……」
と、その時、あまりの惨状に目を逸らしうつむきかけたコルオンは自らの左腕を見て現状を打開する活路を見出した。
(そうだ! この腕みたいにテトラさんに直してもらえば……!)
何度もその考えに穴がないか反芻し、これは名案である確信したコルオンは顔を上げ嬉々としてテトラに詰め寄る。
「テトラさん! 君の力で――」
「コルオンさん、いい加減にしてもらえますか?」
「……っ!?」
「彼らを助けてくれ」という二の句を告げようとしたところでまるで首筋に刃物が当てられたかのような感覚に硬直する。
気が付けば柔和とまではいかないまでも可愛げのあったテトラの目が細く鋭く冷たい氷の刃のように網膜に刺ささりコルオンをその場に縫い留めていた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように一歩も動けない。
コルオンは思い出した。
目の前の存在が自分を超越した存在であると言うことを。
いつでも自分たちを殺せるということを。
それを証明するかのように彼女と手を繋ぐスライムが無表情のまま首をかしげた。
「やどぬしをこまらせるの?」
次の言動で自分の命運が決まる。
思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「自らの正義に酔って立場を忘れないで下さい」
「わ、わかった……熱くなり過ぎた。済まない」
「分かってくれればよいのです」
「むもんだい!」
なんとか錆のはいった機械のような身体を動かして頭を下げるとスッと彼女たちの眼光が和らいだ。
「さて、どれにしましょうかね……」
そしてもとの年相応な子供の顔だが興味の無さそうな無表情に戻るとコルオンから視線を外し、怪我をした奴隷たちを値踏みし始めた。
その瞬間、コルオンの汗腺から大量の汗がにじみ出てきた。
それは恐怖で止まっていた冷や汗。
先ほどの睨まれた一瞬で体が死の危険を感じていたのだ。
(気を付けねば、いかんな……)
仲間だと思って油断していたが相手は得体のしれない化物である。
だから自分たちは機嫌を損なわぬようけして逆らわず従順な駒であり続けなければならないと強く心に刻みつけた。
異世界といったら絶対にだしたい要素。
でもテンプレにはしたくない。
だから他とはちょっと違う展開になるよ。




