街中
眠い!!
クトリカは商業都市と名前がつくだけあってかなりの活気があり、まるで祭りのようだった。
あちこちから聞こえてくる客呼びの声は秋の野にさざめく虫の声より多いのではないかと思うほどに途切れることはない。
「奥さんへの土産にブローチいかが?」
「大特価! 果物どれでも一つ銅貨一枚だよ!」
bobさんを裏路地の一角に待機させてきたテトラたちはそんな呼びかけを適度に聞き流しつつお目当ての品を探す。
「あ、あったあった」
テトラが脚を止めた場所は建物の魔物の素材を売る露天商の店だ。
そこには武器や防具に使う用に様々な種類の魔物の部位が売られている。
「これ下さい」
そしてテトラはその中から赤くて大きい鱗を指さした。
「銅8枚だよ」
「これ、傷物でしょ?」
店主の言う値段に対してケチをつけるように商品の傷を指摘した。
たしかにテトラの言うとおりその鱗には無数の小さい傷がついていた。
さらに傷物と言うのはその言葉通りの意味だけではない。
「……4枚」
その言葉には盗品ではないかと言う疑いの意味も込められていた。
テトラの目を見てわかって言っていると悟った店主はぼそりと半額を提示した。
「3」
「……良いだろ。銅貨3枚で売ってやる」
「どうも」
もう一声におされた店主は折れて言われた値段で売ることに決める。
そしてテトラはなけなしの懐事情の中からきっちり銅貨3枚を渡して鱗を手に入れた。
日の光にかざすと沈みかけの夕日のような綺麗な緋色が傷跡を反射して通して目に入ってくる。
「やどぬしー、それどうするの?」
ろくに武器などを扱えないテトラが買った鱗を見上げながらスゥが不思議そうに尋ねた。
「保険にしようと思ってね」
「ほけん?」
「そろそろ私もスゥみたいになれるかなって」
「……?」
首をかしげるスゥに笑いかけると歩を進めた。
スゥ達スライムは動植物の細胞からその特性を一時的に取り入れることが出来る。
スライム化が進行してきたテトラもスライムを経由せずともそろそろそれができるのではないかと考えたのだ。
そしてそれをドラゴンのものに違いないこの赤い鱗で試そうと言うのだ。
この程度の量では大して効果は得られないだろうが何かあった時の保険くらいにはなる。
「スゥみたいになると言えば、せっかく私がいろいろ食べたのにスゥばかり使い方分かってずるい……どうしてわかるの?」
スゥのように体の色を変えるというのはテトラも試してみたが全くうまくいかなかった。
自分はその魔物の特性を手に入れていないのではないかとも思ったがテトラが魔物を取り込んだスライムを食べた以上、テトラに備わっていないというのはおかしい。
テトラのその疑問にスゥは眉根を寄せて考える。
「んー……わかるっていうか……かん? みたいな?」
「野生の勘か……」
それはテトラにはない物であった。
やはりスライムとして生きてきた年月が違いすぎる。
「うん。やっぱ練習あるのみだ」
何事も経験と努力がものをいう。
農夫に伝説の剣を与えても魔物を倒せるわけではないのだ。
スゥとの違いを再認識したテトラは決意を新たに次なる面白そうな店を探しに出た。
「……ん?」
それからしばらく出店を回り、大体必要な素材を集めきった頃であった。
「この反応は……」
各所に配置したスライムのうちの一匹から反応があった。
とはいっても勘のようなものでどの方角にいるスライムがなんとなく懐かしい気配を感じたといった程度なのだが手掛かりは手掛かりだ。
「行くだけ行ってみよう」
テトラたちは反応があったスライムのいる方角へと小走りで向かった。




