到着
最近忙しくて投稿時間まちまちだけど許してね。
何もないだだっ広い平原を一匹の魔獣が歩いていた。
良く見ると間抜けな顔をしているその熊の魔獣の背には3人の人間が乗っている。
「――――で俺達は魔獣討伐の依頼を受けてきたわけだがあえなく返り討ちにあったんだ」
「なるほどそれであの熊の魔獣を追っていたんですね」
魔獣の背に腰かけている男性、コルオンはまだ10代前半に見える少女、テトラと自分が腕を失う事になった経緯を話していた。
それと同時に自分達が国が請け負いきれない魔獣や害獣を倒して報酬を得る討伐屋だということも話していた。
「俺達がくるのがもう少し早ければ君の両親も救えたかもしれない。本当にすまない」
「いえ、良いんです。きっとそう言う定めだったのでしょう。たらればは止めましょう」
「テトラちゃん……」
頭を下げるコルオンからそっぽを向いたテトラを見てコルオンの相方のサリアはこの子は強がっているが両親の死を悲しんでいるのだろうと思ったがそうではなかった。
(おかしい。全然なんとも思わない……)
それは悲しくもなんともない真顔を見られるわけにはいかなかったからだ。
テトラは両親の死に対して今は何とも思っていない自分がいることに驚いた。
死んだその時は結構悲しかったはずなのだが今思い出してもテレビのニュースで見た他人の死位にしか思えない。
(思えば最近感情が薄くなってきているような気がする……危ういな)
前世の記憶に侵食されて混濁しているのかスライム化して人間性が失われているのかは分からないが最初に感じた気持ちを忘れずにいようとテトラは誓った。
もし忘れてしまえば本当に人間ではない別のなにかになってしまいそうだったから。
「あ! 見えてきた! テトラちゃん! ほら、あれがクトリカよ!」
「おー……城壁とかは無いんですね」
目の前にはから中央に行くにしたがって建物のグレードが上がって行っているような円状に広がる大きな街が見えてきていた。
その周囲に石塁を積み上げた城郭都市のような場所を想像していたのだが、案外普通な物だった。
こういう形をした都市なら日本の反対側の国にもあった気がするとテトラは過去の記憶を掘り返す。
「こんな広い範囲を囲うとか正気の沙汰じゃないわ。そらに今でも街は広がってるもの」
「へー……」
もっと空中都市とか魔法の障壁とかそういうファンタジーなものを期待していたテトラは期待外れだと言わんばかりに空返事をして広がる街を小高い丘から見下ろした。
例え世界が変わろうとも人の造るものと言うのはあまり変わらないのかもしれない。
そんなことを思いながら。
――――――――――――――――――――――
「それじゃあ俺たちは報告してくるが……テトラさんはどうする?」
商業都市クトリカについたテトラはコルオンにそう尋ねられた。
と言うのもコルオンとサリアが彼らを統括している組合へ誤魔化しながら討伐達成報告をする間テトラは暇になるのだ。
「一緒にくる?」
検問自体が無いためすんなり入る事が出来、珍品珍獣もそこかしこで売られていたためbobさんも特に気に止められることなく入ることができたこの街はとにかく雑多で活気があり一度はぐれたら再開は絶望的になること必至。
なのでサリアははぐれないように付いてくるのはどうかと提案した。
しかし付いてくるとなるとそれはそれで報告の時に見つかって変に勘繰られそうで難しいところであった。
彼らがテトラをどう動かせば良いのか苦心しているとテトラは問題ないと言わんばかりに首をふった。
「私は別にやることがあるのでどうぞ気にせず行ってきてください」
「でもはぐれたら大変だよ? 待ち合わせ場所を決めてもいいけど道わかる?」
「大丈夫です。これを持っておいてください」
「ぅわ……」
心配するサリアにテトラが積み荷から取り出して手渡したのは手のひらサイズのスライムだった。
慣れてはきたものの手のひらの上の冷たい水袋にサリアの顔がひきつる。
「それには私の体細胞を埋め込んでますので魔力を補充してやれば私の元へ来ようとします。その後をついていってください」
「えぇ……他に無いの?」
「まぁ、コルオンさんの腕でも良いんですけどね」
「えぇっ!?」
ずっとスライムをポケットに入れておくのも嫌だが仕方無いかと思っていたらテトラは何食わぬ顔で別の方法を言った。
「おっほんとだ。ほんの少しだけど引き寄せられる」
そしてそれは冗談でなく本当の事だと腕に魔力を込めたコルオン自身によって証明された。
「じゃあこれ要らないじゃないのよ!?」
サリアは思わず持っていた小さなスライムを叩きつけようとした。
そんなサリアをテトラは手で制した。
「まぁたぁサリアさんが迷子になった時用です」
「私子供扱いされてる!? 心外なんだけど!?」
「そうそうサリア、保険があるに越したことはないじゃないか」
「うぅ……一理在るのが悔しいわ」
サリアはコルオンにも説得され、振り上げた手を戻して渋々ポケットの中にスライムを仕舞った。
その実、ただのスライム嫌いな彼女に対する嫌がらせであったのだが。
「さて、始めますか」
サリアが文句を言いつつも彼らが去っていくのを見送るとテトラはbobさんを連れて人気のない裏路地へと入り込んだ。
そこには破れた指名手配のポスターや腐った木材などが散乱しており最近人が出入りした痕跡はない。
目的に沿う良い場所だった。
「さぁ! お仕事だよ!」
そして人がいないことを確認した彼女はbobさんの積み荷の封を一斉に解き放つ。
するとそこから溢れだした小さなスライムの大群がまるで蜘蛛の子を散らすように町中へと散っていった。
人間は人間だからね。




