策謀
暗い部屋の中、一人のキャスケット帽を被った少女が細い蝋燭の明かりだけを頼りに本を読んでいた。
ページを繰る彼女の表情は薄暗闇の中に紛れて曖昧であり、その本の内容を楽しんでいるかどうかはうかがい知れない。
「我らが星よ、円卓の準備が整いました」
そんな彼女の元に漆黒のフードを目深に被った者が音もなく現れて跪いた。
少女は暗闇が分離して出てきたかのようなその者に驚くことはなく静かに読んでいた本を閉じた。
「そうか……とうとう私たちの悲願が達成されるんだね……」
「やっとです……やっと我らが日の目を見ることが出来ます……。これもすべて我らが星の、貴方様のおかげでございます」
「未だ気が早いと思うけど……」
「貴方様なら各部族も確実に纏め上げられると確信しております故」
顔を上げずに絶対の信頼を寄せるその者に対しては何を言ったところで狂信的に自分を信じて疑わないだろうと知っている少女は小さくため息をついて「まぁいいか」とつぶやいた。
そして椅子を膝の裏で押して立ち上がる。
「本隊の準備を急がせましょうか?」
「まだいい。時間はある」
「かしこまりました。では私は予定通りクトリカへ向かいます」
「うん、よろしくね」
「ご武運を」
用件を伝えると黒い影は出てきたときと同じように闇の中に消えて行った。
「はぁ……私には荷が重いよ」
部屋に誰も居なくなったことを確認した少女は独り言を呟く。
今から始まるのは各部族の長を集めた円卓会議だ。
全員が自分より年下だとは言え頭の固い老人と顔を突き合わせて唾を飛ばし合う会議と言うものは気が滅入る。
好き好んで出たいものではなかった。
「これも夢のため。がんばろ!」
少女は両手で握りこぶしを作って気合を入れるとふと気づいたように視線を落として先ほどまで読んでいた本を手に取った。
「もう、いらないな」
すると唐突に冷たい表情になった少女の手の中で本が燃え始めた。
熱さをまるで感じていないのか少女は眉一つ動かさず、炎の揺らぎが映る目はじっと本の表紙を見つめている。
「まったく……愚かだよね。人間って」
燃え盛り灰となって踊るその本の表紙には金の箔押し文字で『イルテミス連合王国の偉大なる歴史』と書かれていた。
新しい勢力です。
中盤のキーパーソンになる予定。




