治療
肉が腐る感覚ってどんな感じなんでしょうか。
「うわぁ……グロ……」
サリアとコルオンを納屋に案内したテトラは傷の治療をすると言うので裏の井戸から水を汲んできてやっている時に目にしたコルオンのひどい傷跡を見て思わず声をあげた。
仰向けに寝かせられた彼の左腕は千切れてからしばらく時間がたっているようでかなり化膿している。
恐らくそこから毒素が体に回っているのだろう。
かなり辛そうだ。
「酷いものでしょ……? 私のせいなの……」
「俺のミスだ」
サリアが今にも泣き出しそうな顔でぽつりとこぼした自責の言葉にコルオンはすかさず反論する。
「いや、私のせいよ。私があの時ちゃんと詠唱していればこんなことには……」
「やめろ。相棒だろ? お互いのミスは補いあうもんだ」
「コルオン……」
彼女達は信頼の置ける仲間同士なのだろう。
水桶を持つテトラをそっちのけで手を取り合う彼らの関係はそれ以上に見えるがテトラにとっては知ったこっちゃない。
「あのー治療しましょうか?」
部外者ならしばらく待つか出ていく淡いピンク色の雰囲気に真正面からぶつかっていく。
「治療、出来るの……?」
「まぁ、たぶん。ですけど」
「……」
サリアは半信半疑だった。
何せ相手は子供。
医者であるはずはないしこんな片田舎じゃ大した治療などで出来るはずもないからだ。
「……お願い」
「分かりました」
だがサリアは治療をお願いした。
自分に出来ることなど傷口を綺麗にすることくらいだ。
ならばこの少女に任せてしまってもよいと判断したのだ。
もしかしたらすごく効く民間療法があるかもしれない。
もはや藁にもすがる思いだった。
「じゃあちょっと『材料』を持って来ますね」
「うん……ん? 材料?」
何だか治療にしては相応しくない単語が聞こえた気がしたが治療の道具と言い間違えたのだろうと一人で納得した。
だが程なくして戻ってきたテトラが持って来たのは材料と呼ぶにふさわしいものだった。
「テトラちゃん……それ、スライムよね?」
「はい。まごうことなき正真正銘純粋なスライムです」
先程まで井戸水をいれていた水桶にたっぷりのスライムを詰め込めるだけ詰め込んできたテトラが頷く。
スライムと言えば最弱の魔物。
倒し難い上に倒しても旨味が全くないことから魔獣を相手にするサリア達にとっても路傍の石も同然の存在だ。
しかもサリアはそのぬるぬるがどうにも苦手で気持ち悪かったので道端にいたら避けてとおるくらいの存在である。
「それを治療に使うの?」
「はい。そりゃあもうどばぁっと」
「どばっと……冗談よね?」
「いえ。本気も本気。マジですよ」
そう言うとテトラはスライムをコルオンの傷口を中心にこれでもかと言うほどぶっかけた。
「ああぁぁ! 何てこと!」
サリアは頬を両手で挟んで叫んだ。
コルオンはすっかり全身スライムまみれでぬとぬとしている。
見ているだけで気持ち悪かった。
「あぁ……なんか気持ちいい……」
「えぇ……ないわぁ……」
心中とは裏腹に光悦とした表情を浮かべる仲間にサリアは引きぎみだ。
「当然です。普通のスライムは悪いお肉だけを食べるのですから」
「だ、大丈夫なの? それ?」
「大丈夫です……たぶん」
「ホントに大丈夫なの!?」
「……」
「なんとか言いなさいよ!?」
詰め寄るサリアに対してそっぽを向き、きゅっと口をつむんだテトラは治療と言う名の体の良い人体実験を強行する。
自分以外の者でもスライムがちゃんと腐肉を食べる事は確認し終えた。
問題はここから先だった。
それに先立ってやっておかねばならないことがある。
「えいっ」
「がっ……あっ!?」
「なっ……!?」
テトラは唐突に腰に下げていたナイフを抜くと逆手に持ち、コルオンを刺した。




