スゥ
章を作ろう。
「……はっ!」
ここ数日で2度目となる気絶から目覚めたテトラは襲い来る熊の魔獣が脳裏に浮かび目を覚ました。
しかし目の前に魔獣はおらず代わりに透き通るように青い空が視界一杯に広がっていた。
そして思い出す。
熊の魔獣を殺した夜の出来事を。
「夢じゃ……ないよね」
堅い地面で寝たため軋む体を起こすと少し離れた場所に熊の魔獣の死骸が転がっていてぎょっとした。
夢でもなんでもなく確かに魔獣を倒した。
その死体を前にして実感がじわじわと湧いてくる。
「……あれ? そういえば右腕……」
昨夜の戦いで魔獣に吹き飛ばされたはずの右腕を確認すると何故かちゃんとあるべき場所に生えていた。
握ったり開いたりしてちゃんと動くのを確認する。
夢と現実が曖昧になっているのかと思った矢先、テトラの左の腹から声が聞こえた。
「やどぬし、おきた?」
「スゥ……君も現実なのね……」
「んぅ……?」
ぬるりとテトラの身体から分離した小さいサイズのスゥは可愛らしく首をかしげた後テトラの右腕を触る。
「よかった。ちゃんとくっついた」
「……くっつけたの?」
「うん! くっつけた!」
「ははっ……くっついたんだ……」
どうやら右腕は吹き飛んだ物をスゥが拾ってくっ付けたらしい。
もちろん普通の人間だったらいくら縫合しようとも魔獣の爪で滅茶苦茶にされた断面がくっつくはずはない。
なんだかどんどん人間場馴れしていっているとテトラは苦笑いを浮かべた。
「まぁそれはそれとしてとりあえず当面の危機は去ったかな……」
本来、魔獣が現れたとなればその土地を離れなければならない事態になる。
なぜなら一度おいしい思いをした獣は必ず戻ってくるからだ。
そのせいで近隣の村では過去に幾人もの死者が出ている。
今回討伐できたのは本当に運が良かった。
それに思わぬ助っ人スゥのおかげだ。
「ありがとうね。スゥ」
「ん。やどぬし、しんだらこまるから」
もにゅもにゅとスゥの頭をなでてやるとスゥは気持ちよさそうに目を細めた。
どこまで人間をコピーしているのか。
仕草まで人間らしくてテトラの表情がほころんだ。
「ところでスゥ。君は私の身体と同化したあのスライムで良いんだよね?」
「うん」
「……でもなんでそんなに言葉を喋れるの?」
「んー……やどぬしのからだになるとき、やどぬしをまねした」
「でもここまで高度なことは……」
実験でもこれほどまで自我を持った個体は生まれていない。
ちょっと形が似ようともスライムはスライムだった。
だがスゥには人と同等の知能があるように思える。
そんな彼女の疑問にスゥは「んー……」と考えながら答えた。
「ごはんたくさんあって……いっぱいまねできた。から?」
「スゥのご飯と言うと……魔力と私の身体か……」
「うん」
つまり進化に必要な魔力と細胞が大量にあるテトラの身体を内側から貪っていたということだ。
そう考えるとなんか体の内側がむず痒くなってくる。
「ま、いいか……」
そんな些細ことは気にしていても仕方がない。
一度自殺した身として言うのはなんだか変な気分だが生きていれば万々歳なのだ。
生死を共にする頼もしい仲間ができたと考えれば良い。
「それに、またいろいろわかってきたし試さなきゃ」
テトラは立ち上がるとこれから始めるスライムの改造計画を頭の中で練り始めた。
まだ途中だったものもあるしやりたいことが多すぎる。
そんなチャレンジ精神は牧場経営をしていたこの世界での自分の記憶も大きく影響していた。
整然と整備された現代社会にはない自由な時間、生き物との付き合いの難しさ、大自然の恐ろしさ。
それらを身をもって体験しているからこそ入念な準備は怠らない。
前世のままだったら無鉄砲に『彼女』を探しに出て死んでいただろう。
「一から造ろう。スライム牧場を」
テトラは空を仰ぎ見て新しいスライムの時代の夜明けを感じていた。
既に『彼女』の事はあくまでこの世界に来た理由であり、今はスライムを育てて誰も知らない新事実を発見する方がいつのまにか楽しくなってきていることは気づかないまま。
「やどぬしー。これ、どうするの?」
「……どうしよ」
黄昏ていたテトラはスゥに指摘された魔獣の死骸を見て固まった。
素材としては大変美味しいが少女の細腕では到底運べる代物ではない。
かといって置いておくと腐って病気や臭いなどが怖い。
スライム牧場は開始早々一つ目の壁にぶち当たったようだった。
本格的に始まる感じの終わり方。
2章として次を書くよ。




