第9話 連携
「……ふう、こんな感じかな?」
ある程度値段を調べ、買ってきた手ごろなインテリアを並べていく。やはり前にマイに殺風景といわれたのが今でも心に残っていたというのが原因でもあるが、ここまで人に言われると、グサリとくるものなのだろうか。
少なくとも、今までよりは外見は良くなった。ちゃんと人が住んでいる生活感みたいなのがちゃんとある。
あとはベッドが二つ、あくまで就寝用である。大事な事なのでもう一度言うがあくまで就寝用である。正直に話せば今までソファなどで寝たり、寝床が定まってなかったのだ。時にはマイにも休息が必要だと思い、ベッドは二つ、購入することとしたのだ。
値段をちゃんと調べたからか、出費も少なくて助かったが……そのインテリア達よりも遙かに上回った出費がある。
「ふふふふふ」
……その声で人形を撫でていると恐いですマイさん。
正直、インテリアよりも出費が上回ることなど思わなかった、個室にずらりと並べられた様々の人形。 こんなに大量に買うつもりはなかったが今はマイの説得という一番重要な目的がある。だがマイにこんなに買い与えてしまってよいのだろうかという心配事も残る。
しかし本当に餌付けしてしまった感があるが……すこし罪悪感も感じるレインだが、嬉しそうなマイの表情も見られたし、良しとしよう。
あと、レインが今思ったことなのだが、このマイという人物、笑顔がとてもかわいいのである。叶わぬ願いだが、もし叶うならずっと見ていたいと思うぐらいには……
現在の人形を撫でているマイの声は怖い、どこかのホラー映画にでる不気味な笑い声に似ている。だがこれ以上考えればまたあの変な金属の餌食になりかねないかもしれないのでここでやめておく。
とにかくここまで喜んでいるマイなら、協力の了承も得られるかもしれない。
「はぁ……餌付けされた気分ね。でもレイン、あんたこんなに、人形買ってくれたもの。意地でも連携の話、許可してほしいんでしょ」
「あ……それは……」
「いいわよ、あなたの必死の頑張りに少しは応えてあげる」
少し微笑みながらレインに言うマイ。
これは、人形に心を奪われての返答ではない。いたって真面目な顔で協力を了承していた。正直これで成功するとは思わなかったのだが、これはこれでよしとしよう。
だが本当にいいのだろうか、かたくなに連携を拒否していたマイから、こんなにも簡単に了承を取ってしまっていいのだろうかという不安は残る。
「どうしたの?」
「いや、さっきまで否定的だったのに、いきなり了承を得たから……」
それを聞いたマイはすこし考えた後、ため息をついてから、人形を置いてレインを見つめる。
「勘違いしないで、レインの必死な姿を見て、少しはいいかなって思っただけよ。あの残念魔術師にも恩はあるし、人間だけど、なぜだか繋花も嫌いではないわ。その手前、さっきは否定したけどね」
「そうなのか……?」
檜への恩、あの道具……う、頭が……あれを思い出すだけで、なんか釈然としない気持ちになるもののマイの了承は得られた。
あとは繋花とマイがどれくらい協力できるかによるが……
「マイ、一つ気になったんだが連携はどうやって……」
「知らないわよ、そんなもの。でも一つ考え付いた物があるわ。あの時の模擬戦の応用よ。そのためには繋花と息を合わせない限りわからないわ」
「つまり連携するまでわからない?」
レインの疑問に彼女は頷く、つまりマイからしてみれば、とりあえずやってみなきゃわからない、ということらしい。
「そういうこと、繋花の槍捌き、戦闘スタイル。その他諸々、それらをひっくるめて、いろいろ私も確認するわ。だから、私の考えたやつはそれまで楽しみにしてなさい。いわゆるみんなのロマン『合体技』ってやつよ。きっと度肝を抜かれると思うわ」
一通り言い終えた後、人形を再び愛で始めたマイに普段とのギャップを感じつつ、一日は過ぎていった。しかし、マイから合体技という言葉を聴けるなど思わなかった。その言葉にレインは少し楽しみにしてみることとした。
「繋花、敵をよく見て! 私が切り込む、あなたはきつい一撃、ぶちかましなさい!」
「はい!」
檜の使い魔である、繋花は協力する気が満々だったようで、マイとの協力には賛同してくれたようだ。現在、模擬戦にも使われたフィールドで繋花とマイ、二人は連携の確認をしている。
敵は檜の作った仮想敵の人形、だが実力は高い。油断すればマイも繋花も人形に倒されるぐらいにはだ。慢心禁物である。
「繋花、マイのスピードはおそらく君よりも早いだろう。ならば君は技量とブリューナクで押していく形になる」
檜の指示にうなずく繋花。敵はおそらく繋花やマイよりも断然に速度も早いし一撃も重い。ならばこちらは技量で攻めるしかない。
幸運なことに繋花のブリューナクは一撃の破壊力が高い。その威力を持っていることから、マイで翻弄し、繋花の重い一撃をあてることが重要になる。繋花の強化のタイミングはおそらく檜がやってくれるだろう。
檜の出した仮想敵を呼び出し戦闘、まだちぐはぐな部分があれど、連携は形になってきている。
「なかなかいい線、行ってるじゃないか、僕としても嬉しい限りだよ」
「ありがとうございます。マスター」
最初はどうなるかと思った連携。だが今では少しずつなれど、形になり最初は勝てなかった仮想敵にも勝ててきている。間違いない。彼女たちは間違いなく強くなってきている。
それはマイの魔術師であるレインも嬉しい限りであった。
ここでレインは気になっていた疑問を檜にぶつけてみる。繋花との戦いでレインが見つけた、推測による繋花の能力についてだ。
「檜さん、繋花のアイテムマスター……あらゆる道具を使いこなす能力ですか? あとは……陣とかも得意そうですけど……」
「……ご名答、よくわかったね」
レインが連携を賛同したのは、理由がきちんとある。繋花の能力、初戦で彼女が言った『アイテムマスター』の能力にもある。
あの繋花の槍捌きは、常人がやれば数年はかかるだろう。だが、彼女は軽々と平気で槍を舞うかのように使いこなしている。そして彼は一つの仮説にいきついた。
『アイテムマスター』、その能力の所持者は道具の『作成』また、あらゆる道具を持つだけで使いこなすことが出来るという能力だ。
恐らく繋花が師範並みの槍捌きであったのはアイテムマスターの力だろう。
当然、この能力の使える人物を呼び出せる魔術師もかなりの腕前を持つこと。またあらゆる場所へ設置する『陣』などに関するスキルも多い。
連携に『陣』などを取り込むことに成功すれば、それだけ戦術の幅を広げることが出来る。
この仮説を檜に説明すると、彼は『おぉ……』と感心した表情でレインを見つめる。
「……君の観察眼は素晴らしいね。全てが間違っていない。やっぱり君は敵にはまわしたくない」
「いえ、あの槍捌きから導きだした一つの答えなので、別にそんなことでも」
「たった2戦で繋花の能力をあてるのはすごいと思うけどなぁ」
そういいつつ、新たな敵を作り出す檜。彼の得意な炎の魔術によって作り出される。魔術の人形。所謂ドールを作り出し、繋花とマイの前に立たせる。
その存在を確認すると、改めて剣と槍を構えなおす繋花とマイ。今まで檜が呼んでた人形より力が強いのがわかる。目の前に佇む力、それは二人がドールに刃を合わせずとも伝わってくる。
「これで最後かしら、ふふ、最後を飾るにはふさわしい相手ね」
「えっと、なかなか強そうですけど……やってみます」
走り出すマイと繋花。前に躍り出たのはマイだった。自身の剣を振るい、人形を狙うも、その腕でいとも簡単に防ぐ人形。
次の人形の行動を、予測でその軌道を回避し、マイは至近距離から斬撃を放つ。
それを消えるように姿をくらました人形はマイに、死角からの一撃を放とうとする。敏捷もパワーも今までの人形とは桁違い。
マイは直後、繋花にアイコンタクト、それを受け取った繋花は槍を突き出すことにより、人形の攻撃を逸らす。
連携の優れるところは、自身で補えないところを補えるところである。現在では単体ではあの人形を相手にすれば、力不足なマイも繋花も、隙なく戦うことができればチャンスが訪れる可能性が僅かでもあるというもの。
さらに、あの二人は短時間で高度な戦術まで自分達のものにしている。武器の攻撃では大技を放てば、隙が生じるのは当然の事。その硬直時に後列の仲間が前に出る、所謂『交代』というやつだ。
それを行うことにより、技によって作り出された隙を最小限に抑えることができる。
だが、それはどちらかというとマイが繋花に合わせているようにも見える。前にレインにもいっていた繋花の槍捌き、戦闘スタイル。その他諸々、それらをひっくるめて、いろいろ確認し、状況に応じた戦術を可能としている。こんな短時間でそんなことができる彼女は一体何者なのだろうか……
レインがそう思った、その時だっただろうか、まるで殺意のこもった魔力を感じたのは、直後、檜の拠点の傍から大爆発が起きたのは……4人は急いで拠点から出て、その様子を見に行くことにした。
「……たのもー、なんてな」
外に出ると、地面にクレーターのような大穴ができているのが分かる。その向こうには黒の剣と白く透き通った剣で黒い服を着た、右目が隠れる髪型をした少女。
……間違いない、あの檜から見た映像で見た、黒い二刀流の少女だ。
「君は……」
「なぁに、魔術大戦があの剣聖野郎以外にもいるって知ってな、ちょいと挨拶に来たんだ」
檜の問いに黒服の少女はニヤリと笑いながら答える。レインが見てもわかる。あの少女は強い。少女から感じる魔力が違う。なんといえばいいのだろうか、オーラがあるのだ。あの少女には……
「さて、せっかくクレーターまで作って来てもらったんだ。少しばかり……いいよな?」
殺意のこもった魔力は彼女から発せられているようだ。2本の剣を構え、黒服の少女はゆっくりとこちらに向かって前進する。
「来ます!!」
「応戦だ!! 繋花、マイは連携を取ってあの少女に攻撃、僕とレインは補助をする!!」
檜の言葉に、二人は顔を向け頷き、黒服の少女に向かって突進。黒服の少女は足を止め黒の剣をレインたちへと向け、構える。
「アタシはノワール。『ノワール・カイン・ドラッヘンロア』。この2本の剣で、お前ら二人を纏めて相手しようじゃねえか!!」
黒い剣の切っ先を4人に向け、高らかに自身の名前を宣言するノワール。マイと繋花、二人はレイン達に顔を向け頷き、ノワールに向かって突進。剣を大きく振りかぶるマイ。
「その剣ごと纏めて、消えなさい!!」
マイが剣による斬撃を放つも、ノワールはそれを黒い剣の一振りで消し去る。マイの斬撃に合わせるかのように、それに続いて繋花の槍がノワールに目掛けて襲い掛かる。
だが槍による突きをノワールは黒の剣を勢いよく薙ぎ払い、繋花の体勢を崩す。
「お前の首、とらせてもらうぜ!!」
「させないわ」
襲い掛かる白の剣を、マイが割り込み防御。繋花の一撃が軽く薙ぎ払われる以上、長期戦は厳しい。なんとかして素早くノワールの隙を見つけなければならない。
一旦、ノワールから後退するマイと、繋花。二人の表情はあんまりよくない。
たった三撃、それだけでも高すぎる実力を持つ相手だというのが十分わかった。あの体から繰り出される一撃がなぜあんなに強いのかが、理解できないが、恐らく魔力などで補強しているのだろう。
「繋花、一瞬でもいい、あれ崩せないかしら」
「うーん、ノワールのスピードが遅いならいけるかもだけど。もし早かったら厳しいです」
「ならいいわ。一瞬だけあいつの隙を作る。お願いできるかしら?」
どうやらマイが何かを思いついたらしく、繋花に語りかける。それに応じる繋花。今は二人のコンビネーションが勝敗のカギだ。ここは二人に頼るしかない。
剣を構え直し、再び突進を仕掛けるマイ。レインは同時に身構える。
……先程、突進する直前、マイがレインに対してアイコンタクトを行ったのだ。あれが意味することは『大技の合図』……つまり、マイが合図したら、彼女にありったけの魔力を注ぎ込む事の事前確認でもある。
繋花との初戦が終わった時に、事前に話しておいた合図をまさかこんなところで使うことになるとは。
「どうした! さっきより勢いがねえな!!」
「さあ、どうかしら……ね!!」
マイが突撃し、彼女の攻撃をノワールが剣で受け止める。だがマイの戦い方は先程とは違っていた。
それは当然、闇雲に突撃してるのではない。まるで隙を探すかのように、マイは一瞬の機会を逃さないために様子を見つつ戦っているようだ。
ノワールの猛攻を必死に受け流すマイ。見る限りでは有効な攻撃を与えられる暇もなく、ただ押されているだけのように見える。
彼女の一撃をサマ―ソルトで受け流し、そのままバク転を連続して行い、後退するマイ。
その光景を見て、レインは目を見開いた。明らかにマイの手の付いた地面の魔力が変質している。
「いまよレイン!!」
「なっ!!」
そして変質した地面にノワールが踏み入れた瞬間、マイの指示によってありったけの魔力を注ぎ込むレイン。
地面がまるで泥状の液体のように変質し、ノワールがそれに足を取られる。マイが地面の魔力を書き換え、形状を変えたのだ。これに気付かぬまま足を踏み入れたノワールがバランスを崩す。
何を考えたのか、黒い剣を空中へ投げるノワール。今、彼女の持つ武器は白い剣しかない。そしてそれを見逃す繋花ではない。
「逃がしませんよ!!」
「てんめえ、姑息な手を……!」
繋花が作り出すのは炎の鞭のようなもの。それをを操り、抜け出そうとしたノワールを縛り上げる。動きは止めた。そして彼女が動けないことを、いいことにマイはノワールに突進する。
それを見て、表情を変える檜……
レインもなにかを察した。あれで、恐らく足止めできていない……!
「止めよ」
「マイ、下がれ!!」
さらなる一撃を加えようとするマイ。直前、レインがマイに呼びかけるが、もう遅い。彼女の剣はまっすぐとノワールを貫かんと迫る。
だが槍が好き刺さる直前のノワールは……笑っていた。
「は……足まで動けなくするのが……よかったな!」
その一言でノワールは跳躍、マイの放った剣撃をまるで嘲笑うかのように回避する。
そこに目掛け、ジャストのタイミングで先程、宙に投げた黒の剣が落ちてくる。その剣に身を重ね、彼女は縛られた炎の鞭のみを、黒の剣によって斬り裂かれせた。
「なっ……」
レインはその光景を見て、言葉を漏らす。落ちてくる剣は、落下速度もあり、確かに切り裂くのは容易なはずだ。だが、レインはあの剣に違和感を覚える。
彼が見た限りでは、あの剣は炎の鞭に触れたのみのような気がしたのだ。
それはまるで触れただけで瞬時に魔術を無効化したかのように……
マイは勢いよく飛び、一瞬でレインの隣へと戻り、ノワールは着地と同時に落ちてきた黒い剣を掴み、構えなおすノワール。
「……やっぱ、慣れねえことはするもんじゃねえな」
地面に降り立ち、顔をしかめるノワール、場所が悪かったのか、脇腹辺りから鮮血が流れ出しているのがわかる。
恐らく鞭を斬った時に一緒に斬ってしまったのだろう。だがそんなことはお構いなしとばかりにレイン達を見つめなおす。
ノワールを見つめるレイン。腕で脇腹を隠しているが何か変だ。よく見れば、脇腹の傷が徐々に癒えている。恐らく敵の魔術師が治癒魔法をかけているのだろうか。
「拘束魔法が弱かったのか? いや……」
レインが考えている間にマイが彼の近くへ戻り、ノワールを見つめるのは、槍を構えながら警戒を解かない繋花のみだ。彼女は、ノワールが持っている剣を見つめる。
少し考えたのち、繋花は一っ跳びで檜達の近くへ戻る。
「レインさん、もしかしてあの黒い剣……」
「ああ、推測だけど、あの黒の剣には魔力を断ち切る力がある」
繋花の疑問にレインが答える。マイと契約した直後に見たあの黒ローブの大太刀とはまた違った魔力を持つあの黒い剣。
あの剣の刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。つまり基本的には、魔術的防御を無効化させるための能力を持った剣だろう。
あの剣の前ではどんなに魔術を練られた防具、障壁でさえ無力、魔術的防御が効かないとなると、正直きつい武器だ。
「マイ、どうする」
「レイン……この先の事、考える必要ないみたいよ」
マイの言った言葉に対して、レインは首をかしげる。なにか策があるのか、そう考えているレインの考えはすぐに崩される。
黒い茨がノワールを囲むように、纏わり出したのだ。この光景に思い当たりがあるのか『やばい』と表情を変えるノワール。
黒い茨から逃げるように走り出してもなお、ノワールを捕らえようとその茨は迫るものの、彼女の背中から魔力で作ったのであろう簡易的な翼を出現させ、空高く飛び上がる。
『ノワール……なんてことしているんですか!! 私の許可なしで交戦するのは禁止って言ったはずですよ!! それで私が血を吐いたらどうするんですか!』
「くそぅ、やっべ……ばれちまった……!!」
ノワールに襲い掛かる黒い茨を、自身の身体能力を生かした飛行で軽々と避ける。右に左に、急降下しながら急上昇、その華麗に茨を避ける翼を生やした黒い服を着た少女の光景はレインが見る限り、意外に様になっている。
……いや、そんなことを考えている場合ではない。
「くそ、おいお前ら! 今度会ったときは容赦しねえからな!!」
まるで叱られた子供のような顔をしながら、勢いよく飛び上がり、一瞬で光となって消えるノワール。あまりの突然の中断の仕方に4人は口をぽかんと開ける。
「と、とにかく死ななかったんだ。それだけでも、きっといいはずだ」
それを仕切り直すかのように言う檜だが、彼も結構動揺している。言葉が少し震えているから、一瞬でわかってしまった。
ノワールによる襲撃。それは勝手なことをしたらしいノワールが叱られてしまった事によって、この一日は終わりを告げることとなった。




