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運命の日  作者: スカーレット
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第7話 共闘関係3

 マイが魔力を感じる数分前、繋花と檜はとある場所の調査に来ていた。

 理由は単純、檜が繋花の武器を作るために、周辺の手ごろな魔力を武器に取り込もうと考えたからだ。

 彼の作成する武器には、最終的には大量の魔力を流し込むことで完成する武器がほとんどである。それには自分の魔力で代用することも可能ではあるがそれでは正直言って効率が悪い。

 これは魔術大戦、敵はいつ襲ってくるかわからない。だから適当な魔力の濃度が高い場所を選択、それを武器に取り込めば最小限の負担のみですむ。常に万全な体制を……それが檜の方針だ。


「この辺がいいだろう。繋花、周囲を見張っていてくれ。僕はここで魔力をこの武器に込めるとしよう」


「わかりました、マスター」

 

 いづれ彼女が使うであろう新たな槍を地面に突き刺す檜、この場所は普段でもあまり使われることのない場所。ここならば多少の魔力を吸い取っても問題ないだろう。

 そして檜を見守りながら、ブリューナクを構える繋花。周囲の魔力を感じ取り、索敵を開始する。

 武器に魔力が込められるまでまだ時間が掛かる。できれば誰とも遭遇せずに終わりたいものだ。


「おや、この『神聖なる場所』に人間が興味本位で立ち寄っていい場所ではない」


「なっ!?」


 突然の声に繋花は振り向く、そこに立っているのは、その顔立ちはまるで美少年と言ってもいいだろう。黒い髪を揺らし、白いワイシャツのようなものに黒いズボン。そして肩に羽織るのは黒いコート、そしてまるで透き通ったような青い瞳。

 その雰囲気からしてまともなのではないことは明らかだ。感じる魔力も、今まで感じたことがない魔力。そして……こいつはいったい何者だ。直前まで全く気配がなかった。


「檜さん、気を付けてください。こいつ、只者じゃありません……!」


「……わかってるさ」


 檜が顔を青年に向けると、その青年は目を細める。同時に檜は杖を、繋花も青年に対して槍を構える。青年の方もまた大太刀を抜き、構える。相手側にはどうやら交戦意思があるらしい。本当は穏便に済ませたかった檜だが、仕方ないと感じたのか、杖を振りかざし、青年を見つめる。

振りかかる火の粉は払うまでだ。檜はあらかじめ、繋花に対して魔術をかける。


「……『檜 龍之介』。お前が勝者になろうとするなら、俺はそれを止める!」


「な、マスターの名前を……!?」


 だが繋花の質問に答えることなく、その青年は二人に対して斬りかかる。僅かな隙を突き、繋花にかけておいた檜の『俊敏強化』が上手く働いてくれたのか、その大太刀の一撃を槍で弾く繋花。


「ああもう、話を聞いてください!!」


 自分の腕力、ブリューナクの破壊力を駆使して、突きを放つ。槍の突きは武器における基本にして強力の一撃。それ故に速く、対処が難しい一撃となるだろう。

 だがその稲妻のごとき一撃を、彼の大太刀は受け止めて見せる。


「甘い!!」


「く……!」


 危機を察知したのか、槍を即座に戻し、繋花に目掛けてくる大太刀を受け止め、繋花は青年から後退する。だがお構いなしに続けて青年が大太刀を振るう。一歩踏み込んでからの攻撃、通常の太刀なら届かない距離であるが、彼の持つ刀は五尺五寸……数字で言い表せば166cmぐらいの長さを持つ大太刀。そう……レインを襲ったあの時の大太刀だ。

 つまり、槍の使い手の距離すら、青年の距離となるのだ。


「終わりだ!」


 青年の大太刀が振るわれる。それが向かうは繋花の槍。彼の攻撃の目的は武装解除。彼女の槍を吹き飛ばすつもりだ。咄嗟の攻撃に防御の体勢を取る繋花。だが……


「……いつでも、君の考えていることは甘いね」


 青年が踏みしめた地面、そこに一つの魔方陣が出現し、吹き出す炎の柱が青年を飲み込む。檜もただ無策に繋花との闘いを見ているわけではない。

 彼女のサポートこそ、彼が最も得意とする仕事だ。繋花も飛び抜けて高い実力を持っているわけではない。

 唯一ブリューナクを持っているが、それだけでは恐らく彼に勝つことはできないだろう。的確に檜がサポートをしなければ繋花の敗北は目に見えている。

 炎の柱に包まれた青年、だがこれでやられるほど彼は甘くないだろう。案の定、柱の中から飛び出し、繋花に目掛けて大太刀を振るう。


「その程度で武装解除なんて出来ませんよ!」


 繋花が叫ぶ、檜が繋花にかけている『腕力強化』、それにより、繋花の槍は吹き飛ぶことなく青年の大太刀による攻撃をしっかりと受け止める。

 そして繋花の薙ぎ払い。檜の強化術式『腕力強化』によって強化された薙ぎ払いは、青年の大太刀を払い、彼を後退させる一撃となる。

 そして青年が後退したときに繋花の纏う魔力が変わる。彼女は全身に纏う魔力を槍のみに集約させたのだ。

 守りを捨てたインファイト……これで攻撃をくらえばただでは済まないだろう。


「覚悟してくださいね!」


 槍を地面へ刺し、そのまま抉るかのように勢いよく地上へと振るう。その一撃は先の地面を勢いよく抉りながら、青年へと迫る。

 顔をしかめ、それを跳躍することで避ける青年。地面へ着地したところで、檜と繋花を見つめる。

 槍を構え直す繋花、警戒は解かない。が、今の好機を見逃す手はない。襲い来る炎のごとく、繋花は青年へと接近し、槍の連撃を青年に放つ。


「やはり檜、お前の術式はめんどいな。掛けたものにこれほどの能力を与えるとは」


「さっきからなに秘密の会話みたいなこと言っているんですか!!」

 

 繋花が突っ込みのような台詞を言うが、彼には届いていないようだ。幾度の攻撃を大太刀で受け流しているが、青年の顔には焦りが見える。このままでは青年の体がいつ槍に貫かれてもおかしくないはずだ。だが……


「だが、甘いのはお前の方だ檜!」


「まずい! 繋花、避けろ!」

 

 表情を変えた檜が繋花に指示を入れる。それを聞き即座に後退する繋花。同時に左手に込めていた黒い魔力を青年は地面に放つ。突如として、地面は炎に包まれ、繋花と檜、青年と分断させる。檜の隣に立った繋花は次の行動に備えるべく槍を構える。


「……偵察の騎士がやられたか、今回はここまでか」


 だが彼は攻めることなく、遠いどこかを見つめ、静かに呟く。どうやら、彼と共に行動していた者がやられたのだろうか。だとすれば彼も恐らく魔術大戦へ参加している者の一人だろう。


「『ブラック』。君も魔術大戦の参加者とは……いや、これは必然なのかな?」


 『ブラック』、それがこの青年の名前なのだろう。なぜ敵の魔術師の名前を……繋花は疑問に思う。そもそもこの人とは初対面のはずだ。少なくとも、繋花がここに召喚されてからは、彼がこのブラックと出会ってはいなかった。

 ……となれば、彼とブラックは召喚される以前に出会っていたこととなる。


「マスター、彼を知っているのですか」


「彼とはちょっとした仲でね。まさか、ここで出会うとは思ってなかったけど」


「今回はここまでだ。檜、次会えば容赦はしない」


 ブラックと呼ばれた青年はなにかを詠唱、そのまま風と共に姿が消える。その消え方から察するに間違いなく転移魔法だろう。

 ここでの戦闘は終わった。だが繋花は引っ掛かる。

 偵察の騎士が使い魔の分類なら、彼は魔術大戦に敗北したはずだ。だが彼は次があるような台詞を言った。これは一体、どういうことなのだろうか。繋花の頭には不安のみが残る。なにか、とてつもなく大きなことが起こるのではないのだろうか、そんなことまで考えてしまう。

 そこに……恐らく、魔力の乱れを感じ、駆けつけてくれたのだろう。レインとマイ、そして見知らぬ二人が駆けつける。


「檜さん、繋花さん!」


「おや、駆けつけてくれたのかい? だが、一足遅かったね、相手は逃げてしまったよ」


 レインの言葉に対してそう返答する檜、後ろの着物の来た男性と青いローブの少女は、恐らく一時的にレインに協力しているのだろう。

 カグラが刀を振るい、それによって発生した突風で燃え盛る炎を消すと、レイン達は檜達へと合流する。


「ははは……僕としたことがまさか、敵に襲われるなんて思ってもいなかったよ。一応これでも安全確認はきちんとしたはずなんだけどね」


「でも、生き残れたのはとてもいいことなのではないでしょうか?」


 檜の言葉にセラがそう言う。実力が分からない敵であったのなら、確かにその初戦から生還するのは簡単なことではないだろう。最も、今回は檜にとっては実力が分かっている相手であり、それをレイン達に口にしていないのだが……


「ありがとう。小さいお嬢さん。君は心が綺麗だね。わかるとも」


 セラの言葉に微笑む檜、そう言ってそのままさりげなく、セラの頭を撫でようとした檜だが、直後に檜の目の前にカグラの刀が現れたのは言うまでもない……





「…………」


 どこかの拠点、水晶のような魔術の道具で外の世界を見つめている、黒い髪を揺らし、白いワイシャツのようなものに黒いズボン。そして肩に羽織るのは黒いコート、そしてまるで透き通ったような青い瞳をもつ、一人の青年がいた。ここが彼の拠点なのだろう、先程の繋花達との戦闘を終え、拠点で戦況を見ていたようだ。ある程度、外の世界を見たところで水晶のような魔術道具から映像を消す。


「……厄介だな」


 手に持つ漆黒に輝く大太刀を取出し、それを見つめる青年。この大太刀は、前に炎に包まれた館でレインとマイを倒そうとした際に使った大太刀、そのものであった。

 そう、彼もまた魔術大戦の参加者、彼もまたパンドラの箱を求め、参加している一人だ。その胸に『奇跡』を求めて、その箱を求める。彼のそのうちの一人に過ぎない。

 彼は目を閉じる。瞼を閉じれば今でも嫌というほど思い出す。灼熱に焼かれる国、横たわる物言わぬ竜人や魔人、それらすべては人間ではない者達であった。

 その炎の海の中に、ブラックはいた。紅蓮に包まれた国で一人、横たわる少女の手を握り、涙を流している。きっとその少女は、彼が愛していた人なのだろう。

 ……仲間は死んだ、皆、死んでいった。炎で焼かれ死んだ。剣で貫かれ死んだ。死んだ、死んだ、誰もが死んでいった。たった一人、この青年だけを除いては……

 そして目の前で……恋人は死んだ。なんて残酷なのだろう。彼に残されたのは燃え尽きる事のない憎悪の炎だけ。

 人間が憎い、この国を壊した人間が憎い。仲間を殺した人間が憎い、だから二度とこんな殺戮を人間にやらせるものか。誰も邪魔などさせない、目的のために進む自分を邪魔なんてさせない。

 ……これは復讐だ。自分達、人間ではない者達を殺した、人間への復讐なのだ。復讐を果たせば、きっと自分は昔の自分へと戻れる。またいつか、笑顔で過ごせる仲間が隣にいるはずだ。


 だから願おう……パンドラの箱へ『争いのない世界を作る』ことを……


 閉じていた目をゆっくりとあけるブラック。だが魔術大戦の勝者となるには障害が多すぎる。どうやら簡単には勝者にはさせてくれないことなど目に見えて分かっていた。


「……同盟、共闘関係。あの辺をどうにかしないといけない」


 ブラックは魔術を唱え、手にどす黒い『何か』を生み出す。アッシア地方では禁忌とされている魔術である、闇の魔術。

 これは『闇』そのもの、ひとたび飲み込まれればたちまちその者は、朽ち果てる。ブラックがそれを放つと、たちまちその『闇』は地面へと溶け、消えてなくなる。

 それを見たブラックは笑みを浮かべる。いきなり勝者へとなることはできない。勝者となるには段階が必要だ。今の『闇』はその一歩に過ぎない。


「さて、様子見は終わりだ。ここからは俺も動こう」


 拠点から光と共に、姿が消えるブラック。転移魔法で、また別の地へと向かったのだ。その拠点に残るのは、静寂のみ、それは彼がもうここに戻る事がないことを知らせる音、ここより先に彼が成し遂げるのは、勝利か敗北か、そして……

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