第4話 模擬戦
まどろみが徐々に覚醒し、レインは目覚める。
「ん、レイン……?」
同じタイミングでマイが起きる。寝ぼけ眼をこすりながら、欠伸をしているマイを見る。確か、自分は拠点にたどり着いて、思ったよりも消耗が激しくて、力尽きるように寝たような気がする。
「おはよう、マイ」
「レイン、今日はどうする?」
正直、昨日のアイテムマスターの仮説を立てたっきり、こちらは進歩していない状態だ。マイが言うには、恐らくは私たちのような陣営が、アイテムマスターの陣営含めあと3組はいるだろうとのことだ。その時だった……扉の前に魔力反応がしたのは……
マイが臨戦態勢と取り、構えるも扉の前から聞こえるのは男の声だった。
「いやー悪い悪い。こちらは、敵対心はないんだ。だから安心して欲しい」
「人のプライベートルームの場所をしっかり調べて? よく言えるわね。第一、非常識と思わないのかしら?」
「あはは、酷い罵倒だね。まあ無理もないか。んじゃあこうしよう。今から30分後、近くの公園に来てくれ。僕からの話は以上だ」
魔力の反応が消え、臨戦態勢を解くマイ。
「どうするレイン? 場所がばれた以上、どのみち、あの魔術師との戦いは避けられないわ」
マイの言うとおりだ。この部屋には魔術に対する防壁が張られている。それをいとも簡単に突破してきた魔術師。おそらく腕前としてはかなりの技量を持つに違いない。
「行くしかない。マイ、ここは素直にあの魔術師の言葉に従おう」
「アンタ、プライバシーって言葉知ってる? あなたのマスターはそれを出来ないほどに低脳なのかしら?」
「……檜さん最低です」
「何で僕が攻められなきゃならないんだい!? ちょっとまって、繋花までなんで僕の敵になっているんだい!?」
言われたとおりの時間に集まったものの、相手側の魔術師とその使い魔が現れた瞬間、即座にマイと繋花と言われた少女、見る限り一発触発は置きそうな雰囲気である。主に檜と言われた魔術師にだが……
「それで話ってなにかしら? まさか低脳を晒しに来ただけじゃないでしょ?」
「それはもちろん、この戦いで『負けない戦い』をするには苦労がかかるからね。自己紹介が遅れた。僕は『檜 龍之介』。この子は僕の使い魔である『露雛 繋花』。まあ、わけあって炎の魔術師お兄さんがひょんなところからこの大戦に参加することになったんだけど……」
少し思いつめたような表情の後、檜はなにやら魔方陣を書き込む。
「これから君たちにはある映像を見てもらいたい。脳内に送り込むからこれが盗聴されたりとかは心配はない。」
『そーれ』という言葉がけと同時に檜が魔方陣を起動。三人にある映像が写る。
それはある二人の闘いの映像であった。制服に身を包んだ眼鏡をかけた少女と黒の剣と白く透き通った剣で、黒い服に黒いコートを見に包んだ少女。対するのはゆったりとした着物を身に纏う青年に、その戦いを後ろで見ている青いローブの少女。
両者の戦いは圧倒的だった。少なくとも今のレインとマイでは到底勝ち目がない。それぐらいだ。
映像が終わったとき、檜は『やれやれ』と口にする。まるでとんでもないものを記録してしまったこ後悔してる感じに……
「これは昨日の夜の映像だ。ちょっくらカメラみたいな魔術に細工して魔力が大きく変化があった場合のみ、こうやって記録できるようにしたんだけど、正直、僕と繋花でもこれには勝てる気がしない。そこでだ。君達と協力関係を結びたい」
「協力関係?」
「そうとも。最も、実力が大体わかるのが君達だけ、というのもあるのだがね?」
「断ったら?」
「その時はその時、いずれ敵対する君達との対決のため、僕と繋花は、腕を磨こう」
マイの言葉にそう反応する檜。恐らくこの魔術師は本気なのだろう。だが今のままでは、あの陣営のどちらかに当たれば命はない。魔術に関してあまり知らないレインでもそれぐらいはわかる。
マイがこちらに顔を向ける。最終判断はあなたに任せる。彼女から向けられた視線は、そう語っているとレインは感じた。
「……わかった。手を組むことには賛成する。自己紹介しよう。俺はレイン。この子がマイだ」
レインとマイ。その名前を聞いたとき、なにやら檜が少し驚いたような表情をしたように見えたが、その顔は一瞬で戻り、いつもの表情へと戻る。そしてレイン、マイを交互に見つめ、頷く。
「レインにマイ……ね。よろしく、これからも世話になるよ」
「だがこれだけ教えてくれ。この同盟の最終目的は?」
「一応、目標はさっき映像で写したあの2組を倒すことかな。問題は様々あるけど、それはまあ生きていればどうにかなる問題さ」
しかし……と檜は付け加える。
「問題は着物を着た青年の方だ。あれはもはや剣聖の域だね」
「剣聖?」
レインの疑問を含んだ問いを檜に投げるが、彼は「まあいいや」といった表情をする。
剣聖といえば、剣の道に非常に優れてそれを極めた者の事。そう滅多に名乗れるものではないが、その着物を着た青年という人物は遠くの国などで言い伝えられている人物なのだろうか……
「ああそうさ。とはいってもここで考えてもしょうがないか。そこのところは追々考えようじゃないか。どうせ嫌でもわかってしまうんだから慌てない、慌てない。そんじゃあ少し実力確認を改めてしよう。今から僕の拠点にへ案内するからついてきてくれ」
確かに檜の言うとおりだ。今ここで考えても答えが出ないものはしょうがないのは明らかだ。レインとマイは檜達の後をつくために歩きだした。
「さて、お互いの実力の確認と言う名の模擬戦だ。この空間では死ぬことは絶対ないし、訓練が終われば傷は全て治る。だけど痛みは感じる。全力で行かないと文字通り痛い目を見るからね」
マイとレイン、そして檜と繋花はまるで、幻想的な海の中を模したフィールドの中にいた。珊瑚や熱帯魚が泳ぐ空間、そして静かに海の中を照らす光。それが海の中の幻想さを引き立てる。
こんな大規模な魔術空間を作れるとは、檜はかなり技量の高い魔術師と見る。そんな人が味方なのは心強い。だが今は模擬戦、この瞬間だけは檜陣営とレイン陣営、この両者は敵だ。
「……気が変わった、繋花。槍の開放、許可するよ。共に奏でようじゃないか」
「ここで槍の開放ですか。いいでしょう」
繋花が、輝きが封じられた槍を手に取り、それを前に突き出し、その手を放す。手から離れた槍は宙に浮いたままだが、巻かれた黒い包帯がボロボロと崩れていく。
そして現れるは水色の輝きを取り戻した1本の槍。それを手に取り、繋花はその体、そして槍を回す。その姿は見とれるほどに美しく、そして力強い。槍の先から雷のような魔力を放出しているのは、あの槍が雷属性の力を持っているのだろう。
「さあ力は解放した。どうだい? 雷槍『ブリューナク』の感想は」
「すごいですねこれ。ふふ、気持ちも高ぶってきました」
「な、ブリューナクですって……!?」
ブリューナク、ケルト神話の光神であるルーの投げ槍。稲妻のように光を放ちながら敵を貫く。その伝説は『必ず勝利できる』『投げると稲妻となって敵を焼き殺す』や『生きていて自我を持ち勝手に敵に向かって飛んで行く』など様々な伝説を残したとされる槍。
マイが光の中から銀色の剣を取出し、姿勢を低くし、戦いの構えを取る。
「いきますよ、今回はあの時のような力ではありません。あなたを倒します!!」
「マイ、勝つぞ」
「わかったわ。さあ、来なさい。その稲妻ごと消し飛ばしてあげる!!」
開幕の一撃は繋花の一撃であった。舞うような、されど最初の戦いとは比べ物にならないほどの速さ、重さ。
それをマイは回避し、繋花の懐に入り込み、手に持つ銀の剣を振るい、一撃を放つも今の繋花は効かない。檜の魔力の縛りを解放された繋花の動きは前に戦った時よりも比べ物にならないほどだった。
これが繋花の全力、表情を複雑に変えているマイを見ると、攻撃を回避するので精いっぱいなようだ。
繋花から放たれる2撃同時の攻撃を回避するマイ、だが反撃には移れていない。サポートしてどうか相手の隙を作らなければ……
「甘いよ、魔術同士の戦いも視野に入れなきゃ」
繋花に魔力の短刀を投げるも、それは檜の炎の魔術によりかき消される。こちらでは魔術師同士の戦いが展開されていた。
「戦いつつ自分の使い魔にサポート、それがこの戦いの基本だよ」
技術、技量の差は明らかに檜のほうが上だ。魔術による打ち合いを始める二人、被弾はこちらのほうが多かった。確実とはいかないが、こちらが徐々にダメージを受けている
「繋花、このあたりいじるよ。これで楽になるはずだ」
「ありがとうございます。マスター……!!」
「今のは……く!」
「よそ見してる場合ですか!!」
繋花の狙い済ました一撃、マイは剣でそれを防ぐも、ほぼ直撃といってもいいだろう。今のは、槍の技の一つだろう。狙い済ました一撃を加える強力な攻撃。だがその狙いを定める関係上、どうしてもあの技は後攻に回りやすい。
だが、檜はそれを『俊敏強化』により、先手での攻撃を可能にしたのだ。
「マイ!!」
隙を見て、繋花に短刀を投げながら、マイに治癒魔法をかける。傷が回復したマイは即座に繋花へと蹴りを放つ。
「相変わらずその短刀はめんどいですね!!」
マイの攻撃にあわせて短刀を飛ばすレイン。彼の短刀による攻撃によって一瞬の隙を出来ているところに、すかさずマイは繋花に一撃を叩き込む。
「『嘆願する火の鳥』!!」
放たれるマイの一撃。まるで引き上げるかのような後退しつつの攻撃に繋花は対応できず一撃を貰う。その剣に纏うのは灼熱の炎。
さらにそれだけではない、その一撃は切り裂かれた繋花の左腕に腕に深く火傷をつくりそして……
「ドレイン……!! 姑息な手を……」
「ごちそうさま。ふふふ、気持ちいいでしょ? 吸われるの」
「気持ちよくありません!! 熱いし痛いだけです!!」
さきほど繋花から受けた槍の技は、レインから治癒魔法をかけられたものの、完全には癒えていなかった。だがその傷がなくなっている。先ほどの攻撃は敵に当たればその体力の一部を奪い、自分のものに出来るようだ。
「おっと、これはまず……うお!?」
補助術式を使おうとした檜に短刀を投げ、詠唱を中断。そして間髪入れず、今度は繋花に短刀を投げる。
「くっ!」
左腕が使えない繋花にとって短刀の回避は大きな隙になる。動きが止まった繋花に……
「はぁ!!」
マイが力強い一撃を叩き込んだ。そのまま流れるようにマイは追撃を繋花にかける。
「あら? さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
「くっ、この、この!!」
だがマイの様子がおかしい。すこしばかり上気させた表情で繋花へ攻撃を加えている。しかし、それは段々単調なものになっている気がする。繋花の槍による相殺も段々、楽になってきている。
隙を見つけ、懐に左手を入れる繋花。恐らく、あれは別の武器を取りだす合図、だが今のマイには気づいていない、これでは……
「下がれマイ!!」
無意識にレインは叫んでいた。その言葉で咄嗟にマイがレインを守るように立つ。繋花の左に持つのは小さい短刀。それを突き出していた。後一歩でも遅かったら、マイはあの短刀に貫かれていただろう。
「む、君の使い魔は……なるほど」
「私をその辺の使い魔と一緒にしないでくれるかしら?」
「あはは、ごめんごめん、じゃあマイちゃんでどうだい?」
「もっと駄目ね。マイでいいわ」
檜の提案に、速攻で却下を入れるマイ、だが先ほどの攻撃で体力が回復したとはいえ、マイも結構なダメージだ。加えて繋花の左腕からして戦う時間はあまり長くないはず……
レインの予想が的中したのか、繋花が檜に対して声を掛ける。
「マスター、あれつかっても」
「うーん、まあいいよ。でも腕は壊さないように」
「できるだけ……では」
直後、繋花の足元に現れる巨大な魔方陣。さっきの返答は間違いなく切り札使用の許可を求めたのであろう。
そしてこの戦いの最中で、檜が打ち合いの中、用意していたものだ。目を見開いた繋花は空高く飛び上がる。
「いくわよ、この一撃。手向けとして受け取るがいい」
「レイン、来るわよ」
「わかってる」
声の波長も低くなり、狙いを定める繋花。狙うはレインそしてマイ。繋花は槍を投擲するつもりだ。
手に持つブリューナクに稲妻が走る。レインは術式を展開する。あれを投げられたら恐らくマイもレインもやられる。ならば……
今からでは間に合わない、だが先ほど目配せで準備はしてある。あの槍の一撃の隙を。マイは理解していたようだ。その体に十分な魔力がある。
「其れは咆哮にして荒天の兆候、稲妻に呼応するは雷神の化身!!」
槍の矛先がこちらに向けられる。切っ先から発せられる雷は槍全体を包み込み、黄色く輝く槍となる。その光景をレインとマイは見つめる。相手の切り札の一瞬の隙を突く、そうでなければ、こちらがやられる。
「穿て!! ブリューナク!!」
繋花のブリューナクの切り札の隙をつく。そして槍が放たれると同時に、マイは大きく剣を振るい、斬撃を放つ。
当然これではかなわない。同時に先ほどの術式『俊敏強化』をレインはマイに使う。そしてマイはその斬撃と共に突進した。斬撃と槍がぶつかり合い僅かなずれが生じる。
これをマイは逃さなかった。足先に魔力を貯め、足を守るように覆う。そしてマイは槍の上を飛び乗り、さらにそれを足場にし、さらなる突進をした。
「終わりよ」
くるりと空中で一回転し、狙いを定める少女。目標は零距離の繋花、彼女は予想外の攻撃に対応できず、止まっている状態だ。
「この一撃、手向けとして受け取りなさい!!」
振られた剣から放たれる斬撃、零距離から放たれたそれは繋花の腕、肩を容赦なく切り裂き、勝負を決める一撃となった。
「ぐ……は、はは……すい……ません」
決着、幻想的な海の中を模したフィールドが消えるので、それを察する。戦いは終わった。直後、4人の負っていた傷は消える。
「ははははは!! 僕もまだまだ未熟って事か。いやー勉強になった!!」
「すいませんマスター。私がもっと強ければ」
「いや、僕もまだまだだよ、繋花。もっと的確なサポートがあれば君を勝利に導いてやれたかもしれないけどねえ。これ自身は僕の実力不足だ」
謝罪する繋花に檜はそう言う。まるで敗北なんか気にしていないかのように……檜は負けたとは思えないほどに笑顔だった。
そんな檜の笑顔に影響されたのだろう。申し訳なさそうに檜を見ていた繋花が微笑む。
「さてレイン君、これで晴れて僕たちは同盟の仲間だけど、これからきっとつらいことはある。討ちたくないと思った相手を討たなければならないかもしれない。だけどその結果は受け入れなければならないんだ。きっと君は迷い、苦痛のときもあるかもしれない。だけどそれは決して悪いことではない」
「檜さん……」
檜の言葉を胸に刻むレイン。
「どんなことがあろうと結果を拒むのは駄目だ。それは後々未練を残す。君はなんのために強くなり、何のために負けられない戦いをする? その意味も可能ならばもって欲しい。僕はそう思うよ」
戦いに意味を……これはレインに対する檜の願いだった。
「ま、君にはお似合いのマイがいるじゃないか。きっとマイとならレイン。君はどんな敵であろうと勝てるはずだ。それが神様相手でもね」
「檜、なんで私とレインがお似合いとか勝手に言っているのかしら? これは後で屋上案件ね」
「マイ!? 僕を残念扱いしないでくれ!? いい事言ったと思ったのに!?」
明らかに不機嫌なマイに言われてしまう檜。結局、彼は最後の所で残念な部分があらわになってしまったのであった。




