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運命の日  作者: スカーレット
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第2話 初戦

 外へと出ると、時刻は夜を迎えており、深夜に突入したのか、人も少ない状態だった。レインとマイは、人通りが少ない道を歩いている。それほどまで自分は気を失っていたのか。考えるレインにマイから言葉が入る。


「あなた、もしかして深夜だから人が少ないとか、そんなこと考えているのかしら?」


「違うのか?」


「ええ、魔術大戦が始まって以降、なぜかこのアッシア地方だけ、夜が明けない街となってしまったの。だがら本当なら、今は朝かもしれないし、昼かも知れないわ」


 なんてことだ、そんなことになっていたとは……どうやら、自分が知らない間に随分とこのアッシア地方というのはとんでもないことになっていたようだ。


「……さっそく魔力反応ね。魔力がだだ漏れとみる限り、魔術に関しては、素人の可能性も出てきたわ」


「マイ、誘いということは?」


 このアッシア地方というところは、魔法などはまるで日常のように存在するものだ。そして魔力を過剰に出すことは、敵に居場所を伝えているようなものと同然、それは主に魔術に関して素人がやることが多いが、逆にそれを利用して敵の誘い込みなどに使われることも多い。


「……あえて誘いに乗って見ましょう、レイン。ここからは本当の闘い、巻き込まれた以上あがきなさい。じゃないと、本当に死ぬわよ」


 少女の言葉で気が引き締まる。パンドラの箱を巡る魔術大戦、そんな戦いで本当に生き残れるのだろうか。レインの頭には不安ばかりよぎる。なにしろ巻き込まれた戦い。不安が無いほうがおかしいだろう。足を進めるマイにレインはついていく。

 レインとマイが来たところは倉庫だった。様々な荷物が並べられた人の寄り付かない場所。魔力が漏れている場所はここで間違いないはず、だが人がいない。

 銀の剣を光より取りだし、手にそれを持つマイ。二人は周囲を見渡し、何が来てもいいように警戒態勢を取る。


「よくぞ参られました」


「!?」


その言葉にレインとマイは声がした方に構える。


「今日一日、この町を練り歩いてみたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり、私の誘いに応じた猛者は、あなただけです」


 物陰から現れたのは一本の槍を持つ少女。手に持つ槍は淡い水色のような光を帯びているが、なにやらその槍は黒い包帯のような物が巻かれ、色が黒く変色しているのが分かる。あの武器は封印されているのだろうか。

 黒い髪に、灰色のパーカーを羽織っており、赤いチェックのスカートを履いている少女であり、普通の女の子に見えるが、手に持つ槍を見る限り普通なのではないのだろう。なにしろ、彼女から発せられる魔力が、人間ではないことを示している。

 そしてその眼はしっかりとレインとマイ。二人をとらえている。


「光栄ね、こちらこそ初戦をこんなにもすぐできるなんて思わなかったわ、槍使いさん? しかし、あなたの主はどうしたのかしら。姿をみせないけど、まさか敵前逃亡とかそんな臆病なことはしてないでしょうね」


「まあ、我が魔術師はちょっと残念な人なんですけどね」


 苦笑を浮かべつつ、少女の挑発にそう返し、さらには手に持つ槍を巧みに回し、構える。おそらく敵の魔術師はここにはいない。レインの直感がそう告げている。


「レイン、くるわよ」


「わかってる、頼む」


 レインの言葉にうっすらと微笑むマイ。姿勢を低くし銀の剣を構え、目の前の少女を見る。


「武器は剣ですか……では、使い魔、アイテムマスター。『露雛繋花(つゆひなれんか)』。参ります!」


「頼む、勝ってくれ」


「私の魔術師の命令ぐらいなら聞いてあげてもいいわ。勝つ……ね、やればいいんでしょ?」


 宣言と共に走り出し、槍をマイに振るう繋花。まずはそれを剣の一振りで崩すマイ。その隙を逃さず、マイはすかさず追い打ちをかけるものの、それをまんまとくらう繋花ではない。咄嗟に槍を戻し、刃をぶつけ火花が飛び散る。


「なるほど、相当な腕があるとみます」


 回していた、水色の槍を勢いよく突き出す繋花。それを高く跳躍することで回避するマイ。

 彼女の槍捌きは本物だ。それこそ達人の域にでも達しているのではないかというほどの腕前。空中に逃げたマイを、繋花は槍を回し、すぐさま詠唱を始める。あの詠唱は魔術の詠唱だ。


「空中に逃げたのは失敗ですね!!」

 

 繋花の周囲に出現するのは大量の火の玉、周囲に留まっていたそれを繋花の合図によりマイに向けて打ち出される。

 マイに向けて大量に放たれる火の玉。それを数発弾くも一つが爆発、連鎖するかのように周りの火の玉が爆発する。

 その煙により、マイの周辺が見えなくなるものの、繋花は警戒を解かない。むしろ槍を煙が立ち込めるほうに向けている。


「来る……!!」


 立ち込める煙の真ん中に勢いよく穴が開く。恐らくあれは魔力をジェットエンジンのように足元で魔力を爆発させ、高速移動を可能しているのだろう。

 繋花へ青い閃光が走る。それを稲妻のごとき速さの突きにより応戦する繋花。閃光と稲妻、その二つがぶつかり合い火花が散り、周囲が爆発する。


「く……」


 煙で目を細めるレイン、煙の中でさえ飛び交う火花、実力は互角のように見えて若干マイが押されている。このままではマイが押し負け敗北する。


「なにか……なにか策は……!」


 なにか策はと考える、投げられるものでもいい、少しでもマイを助けたい。投げられるもの……剣……?

 不意に頭に流れ込んでくる剣の映像。これを使うしかない。レインの本能がそう告げる。


「『投刃』!!」


 手に握られていたのは短刀。何が起きたのか自分でもわからないが、恐らく自身の魔力で剣を作り出したのだろう。煙を見つけるレイン、狙うは繋花ただ一人。彼の持つ短刀に自身の魔力を込め、勢いよく繋花に投げるレイン。


「な、しまった!?」


 煙の中に入り込む短刀。それを槍で斬り裂くも、直後にマイが放った斬撃は防御できない。短刀を斬り裂き、急いで槍を戻し防御するも、繋花の左腕が大きく斬り裂かれる。


「ぐっ……!」


 大きく左腕が斬り裂かれた影響かバランスを崩す繋花。それを好機とばかりに剣を大きく振るうも、後退することでそれを避ける繋花。どうやらレインの補助により、繋花に傷を与えることに成功したようだ。


「あら、自慢の槍を使ってこの程度? 情けないわねあなた」


「参りましたね。まさかこれほどとは」


 だが、それにしては彼女の槍捌きは本物だ。恐らく師範などと勝負してもそれに引けを取らないぐらいだ。斬り裂かれた左腕を見て『やれやれ』と呟く繋花。


「まあ、初対面では全力でやるなと私のマスターに言われているので。『初戦は様子見、死なずに生還』これが命令ですからここで退かせてもらいますね」


 次は全力でやりましょう。そう言いつつ繋花は光の粒子となって消え去る。残ったのはレインと少女。そして静寂のみだ。


「いいサポートだったわ。初陣にしてはなかなかよ」


 こちら側に戻ってくる少女。主に男性が着るような服に身を包んでいるマイだが、華奢な体に不相応だと思っていた白いシャツに黒いコートも夜の景色には良く冴えてみえる。


「そうか?」


「自信を持ちなさい。まあ、私が見限っちゃえば契約なんて切り捨てられるんだけどね」


「まあ、頑張るよ」


 なにをさらりと怖い事を言い出すのだろうかこの子は。彼女の言葉に頭を抱えるも、直後に、繋花の言葉を思い出す。彼女のあれは自身の体を霊体化させ転移したのであろう。

 となると、再びどこかで再戦の可能性も高い。レインとマイは情報の再確認のため、自分たちの拠点へと戻ることにした。




「戻ったか、それにしては随分と酷い怪我だね」


 霊体化が戻り、帰還する繋花。だが戦う前とは姿は違い、魔力も出し切ったからか表情もあまりよろしくない。おまけに左腕は見事に深く斬り裂かれており、これでは動かす事すらままならないだろう。


「ごめんなさいマスター。私が、しくじらなければこんな……」


「いや、君はいい活躍をした。これは称賛に値することだと思うよ」


 繋花がマスターと呼んでいる人物、茶色の髪に茶色の瞳をした青年『檜 龍之介(ひのき りゅうのすけ)』は微笑みながら、繋花に対して治癒魔法をかける。見る見るうちに繋花の傷が見えなくなるぐらいにまで治る。


「しかし驚いた。いくら繋花に命令してたとはいえこんなに深い傷を与える相手がいたとは……これはちょっと誤算、かな?」


「マスター、次会うときはこの槍を解放しても……?」


「いや、その必要はない。彼らとの戦いは出来れば避けたい。そうだな、しばらくは様子見と行きたい気持ちもある」


 槍の開放を進めた繋花に対して檜は静かに口にする。出来れば戦いは避けたい。この言葉がなにを意味するのかは分からないが、マスターの言う事は大体が正しい。繋花はマスターである檜の指示を待つ。


「いや、彼らは最も脱落させてはいけない人間、いや、人間なのかもわからないがそういう存在だ繋花。次会うときは僕も一緒に合流しよう。それまでは敵の偵察、引き続き頼むよ」


「わかりました。では私は引き続き偵察に」


「待って、今日は終いだ。君も疲れただろう。部屋は離れたところに用意してあるから、君も休んでいいよ」


 予想外の檜の返答に繋花は、ぽかんと口を開ける。まさかの返答によって言葉が詰まる繋花だが、すかさず、それに返答する。


「いや、しかし」


「魔術で体を補強しようと君は人間だ。ベストコンディションを整えないと、いざというとき体が動かないよ?」


 ごもっともだ。微笑む檜に唖然とする繋花。改めて、この男は何を考えているかわからないが、自分の体力がかなり消耗していることを見抜かれている。返事をし、用意された自室へと向かう繋花。


「さて、僕も寝るかなぁ……正直、今日はいい収穫だったし。明日の事はまた明日考えよう」


 作業していた手を止め、大きく腕を上に伸ばし目を閉じる檜、戦いはまだ始まったばかりなのだ。そう焦らなくてもいい。焦っては余計なものを生むことだってある。だから今日の作業の手を止め、彼もまた休むことにした。

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