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運命の日  作者: スカーレット
13/25

第13話 真実

 レインとマイが拠点から出て進んでいるところは見慣れた光景。かつてレインが目覚め、そしてブラックに襲われた場所であった建物であった。

 そこは既に、あの時に見た燃え盛る炎がおさまっていたものの、薄い意識の中でもしっかり視界に収めたあの外見だけは残っていた。

 そこをレインとマイが歩いている。先ほどから彼女は何も言わない。だがマイが先頭を歩き、レインを導くかのようにいる姿をみて、彼は何も言えなかった。


「レイン、これから先、あなたにとって残酷な現実が待っているかもしれない。それでもいいのかしら?」


 マイの言葉にレインは頷く。今さらどんな現実が待ってようと、自分は歩みを止めたりはしない。それが例えどんなに残酷でも、受け止めなくちゃいけない。

 建物の中に入るレインとマイ。建物の内部は、あらゆる場所が燃え尽きてはいたものの、かろうじてその原形をとどめてはいた。

 建物の中に入ったとき、レインは言いようのない奇妙な感覚に襲われていた。この建物に入るのはこれで2度目であったが、どうにもそんな感覚がしないのだ。

 まるで外に出るまではずっと、この中に住んでいた感覚のような……

 その感覚の正体が何かはわからないが、もしかしたらこの先に、マイの真実と共に自分の記憶もあるのではないのか……そんな気さえしてしまう。

 マイが頷いたレインを見て、少し顔を俯けたあと、銀色の剣を取りだす。

 そして足を踏み込み、一閃。巨大な台があった場所は簡単に砕け、レインは目を見開く。マイが台を破壊した先に、明らかに下に通じる通路があったのだ。

 そこを進むマイ。薄暗い闇の中、彼女の姿を見失わないように進むレイン。階段を降りつづける。自分が目覚めたところにこんな場所があるなんて思わなかった。

 だがマイはなぜこんなところを知っているのだろうか。こんな場所なんて知っている人物しか通れない場所だ。

 彼女はなにかを知っている。レインも知らない何かを……


「!?」


 目の前の動く物体を見つけ、二人は止まる。

 今まで見た事がない物体、青白いラインが通った機械のような何か。しかも、この機械は稼動している。その機械の赤く光る視線がレインとマイの二人を捉えると、青白い光を放つ剣を取りだす。

 その色には見覚えがあった。ブラックと出会ったあの洞窟。水の中にいるような感じさえする外見のあの場所は、絶景であり、同時に恐怖すら感じるような場所の洞窟、あそこにあった青白い鉱石の色だ。

 あの剣から微弱な魔力を感じるのも、あの剣があそこの洞窟の鉱石で作られた剣なのだろうというものを思い知らされる。


「へえ、防衛プログラム。まだ動いていたのね」


 剣を構えるマイ。あの機械の実力は未知数だが、倒さなければ進めないのなら、突き進むまでだ。マイは姿勢を低くし、戦闘体勢へと入る。

 だが、あれはなんだ。マイは防衛プログラムといっていたが、彼女はあの機械について何か知っているのだろうか……


「防衛プログラム? なんでそんなものが……」


「ええ、そうよ。この先はわけありで立ち入り禁止なの。だから無理矢理ここを通ろうとするとあれが動き出して迎撃してくるわ。関係者以外ならね」


 なるほど。マイの言葉で納得はした。だが……なんて、物騒なものが置かれているのだ。入ろうとしたら迎撃される機械なんて聞いた事がない。それほどまでにこの先は重要なものがあるのだろうか。

 いろいろ考えたい事はあるのだが。その暇はないらしい。防衛プログラムがマイに目掛け、動き出しているのがわかる。


「レイン、指示お願い」


 そう言い残し、防衛プログラムへ突進するマイ。最初の一撃はマイの一撃であった。防衛プログラムの剣とマイの剣、二つの剣がぶつかり合い、闇の中で火花を散らして交錯する。

 さすがは防衛プログラムなだけあるようだ。マイの動きを一瞬で認識、その行動にあわせた最適な防御をとっている。

 だが所詮は機械。その動作には曲線的なところがまるでない。これならは対処は容易だ。ノワールやブラックに比べればたいした事ではない。

 防衛プログラムの剣撃をマイが防いだ直後、『拘束』をメインに置いている魔術、光り輝く弾を防衛プログラムに投げるレイン。

 レインが放った光り輝く玉は防衛プログラムに直撃するとその動きが少しの間、止まる。防衛プログラム相手に効くか不安であったが、その不安はする必要なかったらしい。

 一瞬の動きを止めた防衛プログラムの隙を逃がすマイではない。彼女の銀の剣は、煌く軌跡を描き、吸い込まれるかのように、防衛プログラムの左腕に該当する部分を切り裂く。

 左腕が吹き飛び、糸をゆるめられた操り人形のように体がぎこちなくなる防衛プログラム。間違いなく腕を失ったせいだろう。

 今ならいける、レインは目を閉じる。あの時、ブラックの闇の中で叫んだ術式の名前。あれの正体はわからないが、あれを使ったとき、まるで数百人分の魔力が自分に流れ込んでくる感じがした。

 ただ使えばいずれその魔力に耐えきれなくなり、身を滅ぼすだろう。だがあの術式の使い方はなぜかすんなりと頭の中に入っているのだ。


「受け取れマイ……『結ばれし(アシミレイション・)キトリとバジル(エスポワール)』!!」


 流れ込んでくる魔力。あの時は、ただ流されるままに使っていたが、今なら使い方を工夫できる。

 まずその魔力の流れを数十人分に固定。これによって一気に魔力が流れ込んでくるのをせき止める。そして流れてくる魔力の大半をマイに流す。そして自身より湧き出て来る魔力をレインはマイへ徐々に魔力を込め始める。

 ゆっくり、ゆっくりと、徐々に流し込まれた魔力によって、マイの強さも徐々に変わる。つまり今のマイは段々と強くなっていく。

 マイはそれを感じているようだ。自身の現在の魔力に応じた動きをしている。やがて互角であった防衛プログラムが少しずつ劣勢になり始める。

 やがて防衛プログラムの剣を弾き飛ばすマイ。ここだ、レインの直感がそう告げている。マイに対して『腕力強化』の強化術式、そして……


「いまだマイ!」


 彼女に蓄積された魔力の全解放。それを了承したマイは、防衛プログラムに剣を振るうマイ。

 全魔力が乗せられた剣の一撃だ。剣の刃が防衛プログラムへと吸い込まれる。さらにマイは力を込める。機械に食い込み、その機能を割るのが感触として伝わってくる。

 横に薙いだ剣の光が、薄暗い場所を破るかのようにきらりと光る。

 小さな爆発を起こし、防衛プログラムは消滅した。それを見届けたマイは、静かに剣を収める。


「いい指示だったわレイン、怪我はない?」


 頷くレイン。この術式は強いが詳細が不明すぎる。檜に相談したほうがいいのだろうか。彼ならこの術式がどういう部類なのかも知ってそうだ。

 防衛プログラムを倒した二人は、更に奥へと進む。青白い光がこの空間が異質だというのを改めて感じさせる。

 奥の扉は半分空いていた。マイがその扉を完全に開ける。ドア横のプレートの文字は霞んで見えない。その先はなにかを研究しているような施設だった。

 ここは研究所だろうか。先ほどからレインの妙な胸騒ぎが止まらない。このような場所は知らない。だが、レインは前にここにいたような感覚が残っているのだ。

 不意に何かが落ちる音がした。その音は妙に高く室内に響く。レインは身を震わせその場所に視線を向ける。落ちたのはなにかのプレートのようだった。

 視線をマイに戻そうとしたが、その中に納まっていた名前を見てしまったのだ。

 マイがレインの驚愕に気付き、レインを見ている。

 震える手でそれを手に取ろうとする。だが体が震える。まるでこれを見てしまっては駄目だ。これを見たら自分は自分で要られなくなるような感覚さえしてしまう。

 だが、もし残酷な現実があっても、決して歩みを止めたくない。呼吸を整え、意を決してそのプレートを見た。


「っ……」


 目を背けたくなる。いや、なんとなくそんな気はしていた。


 ―――理解はしていた。


 自分にしては珍しかっただろう。でもこのプレートと写真が何を意味するのか一瞬で理解できた。口から出る言葉は何もなかった。

 実は、覚悟もしていた。だから驚きもあまりない。

 なぜだろうか。漠然と、やっぱりと……そう思っただけだ。


「俺が……なにかのプロトタイプだった……?」


 頭を抱えるレイン。そのとき、レインが持っていたプレートが甲高い音を上げ、地面へ数回転しながら横たわる。その中にはレインを証明するかのように写る自分の顔にそっくりな写真。文字のほとんどは霞んで見えないが、その横に書かれた『prototype(プロトタイプ)』と書かれた文字、そしてその横に書かれている自分の名前である『レイン』。

 そして剥がれ落ちたプレートの跡が残る割れた巨大な貯水槽のようなもの。


「ここは禁断の領域。神を自称した愚か者達の夢の跡さ。レイン君」


「!?」


 聞き覚えのある声がして、レインは先を見る。奥の闇に浮かび上がった男性がこちらに向かって歩いてくる。レインとマイは身を構える。だがその姿を見てレインは目を見開く。

 見間違えるはずがない。焦げ付いたような茶色の髪にその髪と同じような茶色の瞳をした青年。レインが同盟相手として、そしてレインが静かに尊敬していた人物……


「檜……さん?」


 その姿は紛れもなく『檜 龍之介』であった。なぜ彼がここに……彼は何かを知っているのだろうか。ともなればここにたどり着くなどまず不可能であろう。

 彼の持つ銀色の杖がドアから漏れる光に照らされ、きらりと輝く。

 姿がレイン達にも確認できるところで檜は足を止め、まるで懐かしむように周囲を見渡す。

 だがこの人は本当に檜なのだろうか。あの何を考えているかわからなくて、いつも笑っているような人物なのだろうか。彼の言っている事はまるで意味がわからない。


「君も知りたいだろう? 僕とブラックが追った夢の果て。進歩の果て……いや違うな。狂気の果てかな? それを追った男達の末路。君はその『prototype(プロトタイプ)』なのだから」


 檜はレインの正面に立ったまま話し続ける。

 彼が続けた言葉に驚愕するレイン。彼はなにかのプロトタイプだった。それをまるで知るが如く檜は言葉を続ける。

 この男は間違いなく真実を知っている。自分が記憶がない理由を。レインは真実を知りたかった。その結果、何を自分は何を負うのかは気付いている。

 だけど……それでも彼は知りたかったのだ。


「同盟を組んで君たちの名前を聞いた時、僕は目を疑ったよ。そんな事なんてあるはずがないってね。てっきり死んだものだと思っていたさレイン君にマイもね」

 

 檜のその言葉を聴き、マイは不機嫌な表情を浮かべている。彼女は檜が持っていた違和感に気付いていたのだろうか。彼が何かを知っている事にマイは気付いていたのだろうか……


「私がここにいた時は……あんた、顔隠しててうまく見えなかったけど、やっぱりあんたも『人工天使計画』に参加していたのね」


 全てを知ったかのようにそう言い、ため息をつくマイ。檜は二人をゆっくりと見つめ、やがて口を開く。

 彼の言葉は、レインとマイがまるでこの世にいてはいけない存在ではないもののような感じだ。

 体の震えが止まらないレイン。それに檜は笑みで返し、言葉を続けた。

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