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運命の日  作者: スカーレット
10/25

第10話 敗北

 マイとレインは、昨日の情報を整理していた。

 昨日、襲撃してきた少女の名前は『ノワール・カイン・ドラッヘンロア』。あんまり関係ないが、直訳すれば『黒を統べる龍の王』という意味だ。だが、そんな名前となると彼女は龍族の血を引いているというのだろうか。


「……あの剣、想像以上に厄介ね」


 マイがいうことにレインも頷く、彼女の剣のうち、1本の『黒い剣』。

 あの剣の刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。つまり基本的には、魔術的防御を無効化させるための能力を持った剣。

 あの剣の前ではどんなに魔術を練られた防具、障壁でさえ無力、魔術的防御が効かない。これは所謂、魔術師にとって、あんまり相手にしたくない代物だ。

 そしてもう一点、彼女の能力に厄介なものをレインは見つけた。つまり『自動治癒魔法(リジェネ)』である。

 少し前までは脇腹に傷を負った際、敵の魔術師が治癒魔法をノワールにかけているのだろうかと思っていた。だが予想は違っていた。あの魔術師の言葉からするにノワールは独断で行動していたということ。

 つまり魔術師からの補助はないようなもの。つまりあの治癒はノワールがやっていたという事になる。

とりあえず、あのノワールの持っている能力を分かる範囲でまとめるとこんな感じとなった。自動治癒魔法(リジェネ)にあの黒い剣、どうやらあの黒い服の少女は想像以上に厄介な人物のようだ。

 そしてもう一つ……少し前の、あの死んでいた騎士の存在についてだ。これに関してはほとんど情報が分からない。精々、あの騎士に呪術関連の魔術が使われていたという事ぐらい。

 マイにあの時の騎士について尋ねてみる。


「死んでいた騎士の事? そうね、操っていた奴の正体なら、もしかしたら魔力源を辿ればわかる可能性があるわね」


「魔力源を辿る……?」


 思わぬ発言だ。マイの言葉に聞き耳を立てるレイン。できればあの騎士を操っていた存在を知っておきたい。正直、死体が襲い掛かってくるというのは、今後の障害となると彼は思ったからだ。


「そうね、あの残念魔術師と一緒に探索してみるのもいいんじゃない。そういう系統、あいつ得意かもしれないし」


 それが見事に外れていたら困るのだが……物は試しだ。レインはあらかじめ檜から教えてもらっていた魔力通信で連絡を取ってみることにした。







『よし、騎士がいた場所に来たね。なんでわかったかって? そりゃあもちろん、残留している魔力に変化があったからさ。では早速はじめようかな』


 檜の魔力通信が聞こえてくる。

 今、レインとマイは死んでいた騎士との戦闘があった場所に来ている。あの後、檜に連絡を取ったところ、彼らも操っていた者の正体を暴くのをやる予定だったらしい。その計画にレイン達は乗っかったということだ。

 檜が言うには、ここ最近、ここの魔物の動きが活発になってきており、それがレイン達があの騎士と出会ってからという事らしかった。

 檜からくれた端末を見るレイン。彼が言うにはこの端末には騎士の残存魔力を追跡する機能があり、それをたどれば手がかりがつかめるということらしかった。

 ぴたりと動きを止めるマイ。それに気付き、見つめるレインだがどうもおかしい。まるで自分を舐めるように見ているからだ。

 こんな場所でそのように見られるのはいささか気分が悪いが、マイだからよしとしよう。


「レイン、あなた確か、自分の魔力で短刀作れたわよね」


 レインは頷く。マイの補助で使っている短刀。目を閉じ彼女の補助に使った短刀、それをイメージし、目の前に作り出す。

 一見普通の短刀だが、それでもこれは魔力で作られた物。多少の傷ならつける事だって可能だ。

 だがなぜ今になってそれをマイが聞いたのだろうか。


「……使えそうね、それ……何本か私にくれない?」


 正直、自分では足止めにもならないと思っていた短刀。もしそれで彼女が戦術を広げられるというのなら大歓迎だ。

 彼は目を閉じ、なるべく精密に魔力を練り上げ、短刀を作り上げる。それを繰り返す。今までは戦闘中もあって、こういった精密に出来たものを作り上げた事がなかった。

 彼女がこれを見て思いついたのなら、雑なものは渡したくないという気持ちも少なからずはあるが……

 しかし、これを使えるようになったのは初めての戦いであった繋花の戦闘のとき、あの時なぜ不意に剣の映像を見たのかはわからない。

 だがおかげでマイにこうやって力になれているのだ。それだけでも十分だ。

 一通り練成して、マイに渡し、彼女はそれを懐へとしまう。


「こんなもんでいいわ。ありがとねレイン」


「その短刀がマイの力に慣れるなら俺も本望さ」


 ざっと10本作り上げたところで、この作業は終わり二人は再び歩き出す。端末が示すところはどこかの洞窟だった。


「マイ、この端末、この先を示している……」


「行ってみましょう。なにかわかるかもしれないわ」


 レインが見つめるのは洞窟のような場所、どうやらこの先の場所が死んでいた騎士が元いた場所へ繋がるのだろうか。

 彼らは洞窟へと足を進める。洞窟の中は思ったよりも明るい。この明るさならば明かりを灯す必要もないだろう。

 その入り口を潜り抜けると……


「……なにかしらここ」


 マイが辺りを見回す。そこはまるで洞窟とは思えない広さの場所であった。青く輝く岩のようなもので外側が覆われた洞窟、さながら水の中にいるような感じさえする外見のこの場所は、絶景であり、同時に恐怖すら感じるような場所であった。

 この洞窟は人工的ではなく、恐らく自然に出来た洞窟だろう。つまり天然洞窟というやつだ。

 マイが青い岩の一部分を剣で切り崩し、その岩を手に取る。


「この岩、微弱な魔力があるわ。それがびっしりってなると、この洞窟内には相当な魔力量になるわね」


 しかし、変だ。こんなにも魔力を感じる洞窟なら、なぜ今まで使われてなかったのかが疑問に残る。

 レインが疑問に思い、洞窟内を調べていると、檜から通信が入る。


『まずいな、さっきその近辺の魔力を調べたんだけど極めて大きい反応はない。これは隠蔽の魔術が使われているね。もちろん、第三者の手によってだ』


 檜の通信と彼が調べていたときに見つけた光景、それで彼は確信がついた。どう見ても天然とは思えない魔法陣が敷かれていたからだ。

 恐らくここを見つけた人は、ここの存在を第三者に知られないため隠蔽の魔術をかけ、この魔法陣を作っているに違いない。

 この洞窟の魔力全てを使ったら、恐らく国の一つぐらいは危険に晒されるぐらいには……


「……来たか」


「!?」


 突然の声にレインは振り向く、そこに立っているのは、その顔立ちはまるで美少年と言ってもいいだろう。黒い髪を揺らし、白いワイシャツのようなものに黒いズボン。そして肩に羽織るのは黒いコート、そしてまるで透き通ったような青い瞳。


『レイン! この魔力反応、近くに彼がいる。僕達を襲撃したやつだ!』


「ほう、檜と組んでいたか。そうか、これもまた必然というやつか」


 その青年はブラックとレインを見つめ、そのような事を口にする。剣を構えるマイ。その青年の魔力はマイにもレインにも覚えがあった。

 辺りは炎で包まれ自分の記憶すらもない。あの建物の中にいたとき、自分とマイを襲った人物だ。


「ああ、気に入らないわその魔力。全く、はしたない、ナンセンスにも程があるんじゃない? でもいいわ、笑って痛めつけてあげる」


 マイの挑発に応じる事はない青年。だが彼もまた大太刀を構える。

 間違いない。あの大太刀はあの時、襲われたときに彼が持っていた大太刀だ。

 端末が示す場所は、この先、この青年を示していた。ともなればこの青年が魔力源となる。だが、あの騎士は死んでいた。あれが魔術師とも使い魔とも考えられなかった。

 となればあの青年が使う魔術に関係しているというもの。


「俺はブラック。パンドラの箱に『争いのない世界』を願う者。そのために今度こそ、俺の手で葬ってやろう!」

 

 大太刀を構え、突進するブラック。開戦の火蓋は切って落とされた。

 開戦の一撃はマイの剣による一振りであった。鋭く迫る剣をブラックはその大太刀で受け止める。

 あの大太刀の恐ろしさは、レインもよく知っている。あの攻撃だけは食らってはならない。あの大太刀から感じる魔力。食らえばどうなるかわからない。

 つまり、ブラックの攻撃を全て防ぎ、彼に傷を負わせる。これが最も重要だ。

 それはとてつもなく難しいのだろう。だが不可能……ではない。それにはマイとのコンビネーションが不可欠。


「終わりにしてやろう! レイン! マイ!」


「!?」

 

 彼がなぜ自分達の名前を知っているのかわからない、彼と自分達はどこかで会ったのだろうか。

 ……その詳細は気になるが、今は目の前の敵を優先することにする。

 相手がブラックとなれば、今ある実力全てを発揮しなければ恐らく勝てないだろう。

 再びマイが剣を振るう直前、レインは『俊敏強化』を彼女にかける。

 瞬間的な速度を手に入れた剣が迫る。その速度に目を見開くがブラックは狼狽えてはいなかった。その動きに対応するかのように、大太刀で再び受け止める。


「甘い……お前が速度を上げれば、俺はその速度に対応すればいいのこと」


 姿をくらましたブラックはマイの死角へと回り込み。その大太刀を振るう。彼の大太刀を受けるわけにはいかない。あの大太刀の一撃ともなれば、一撃でマイの体を軽々と引き裂くに違いない。

 銀の剣を振るい斬撃を放つマイ。ブラックが自分を生き残らせる覚悟があるなら、この攻撃を止め、回避するしかない。

 マイの予想通り、大太刀を振るい、斬撃を切り裂くブラック。マイの剣を持たない左腕が動く、懐より取り出したのはレインが事前にマイに渡した短刀。彼女の腕が舞うように、3本の短刀を投げる。

 空気を裂きながら迫る短刀。ただの短刀の攻撃でも、マイの投げた短刀はレインのとは別物のように感じる。音速で迫る短刀、その一撃はもはや大砲の一撃にも匹敵するだろう。


「甘い!」


 迫り来る短刀を弾き飛ばすブラック。居合いのような仕草で一本、そのまま切り返し二本目、そして……切り返した反動で回転し一撃、最後の短刀を吹き飛ばす。

 俊敏強化により速さを増したマイは、弾かれ飛んだ短刀を回収し、ブラックに迫る。そして回収した短刀を再び音速で投げる。

 舞うような動きにレインは感心するが、それどころではない。今の状況は極めて悪い。正直、ブラックに押されている。

 彼の力強い一撃により、3本の短刀は一瞬で砕け散る。そのまま迫る大太刀を、銀の剣で防御、そのまま弾き、斬撃を放つマイ。


「くっ!?」


 直前で魔力障壁を展開、致命傷を防ぐブラック、至近距離で振るわれる剣と大太刀、その距離のリーチでは確実にマイのほうが不利であろう。だが、レインからの『腕力強化』『俊敏強化』この二つの強化術式を的確に彼がマイにかける事により、マイはブラックと互角の戦闘を繰り広げる事が出来る。

 二人以外の他の者の、介入を許さない戦闘。お互いに攻めるもの、守るものが交互に変わっているとさえ思う。

 自身の剣にありったけの魔力を込めるマイ、ブラックの戦闘において一撃をくらう事は『死』を意味する事。だから己の身を守る魔力全てを剣に込める。

 マイは自身の体重を乗せ、その強力な一撃をブラックに放つ。障壁では防御できない。彼は仕方なく、自身の大太刀で防御する。


「まだよ」


 レインの強化術式が幸いしたのか、じりじりと押し返されるブラック。少しの間、目を見開くブラックだが、なにを思いついたのか、そのまま後退する。

 彼の魔力が一瞬で高まるのを感じる。彼の魔力は自身の持つ『闇』を原動力にする。

 その力は少し使うだけでも対象者を一瞬で、空間転移の魔法を実現するほど。

 それを更に使用。彼の体は魔力の過剰ブーストを得たようなもの……一瞬で、まるで光の如くマイの視界から消失する。


「!?」


 その驚きはマイであった。振るわれる大太刀を防ぐも、その振動が腕に伝わる。常人ならその振動で一時的に腕が麻痺しているだろう。だがマイは使い魔、この程度で腕が麻痺するほどではない。

 後退し、さらに1本、短刀を投げるマイ。その短刀は彼の攻撃により粉々に砕け散るが、数秒の時間稼ぎは出来た。


「レイン、あなたの短刀さっそく全部使うわ」


 レインから貰った短刀は残り6本。マイはこの戦いで全てを使い切るつもりでいた。

 まずは短刀を2本、ブーメランの如くブラックに放つ。闇雲投げられたかのような軌道であるかのようなその動き。

 警戒を緩めずに、ブラックがその2本を払う。彼が短剣を振り払おうと気にせず、マイはもう一度、ブラックに向けて放つ。彼が接近すればマイは後退する。

 その投擲をさらに大太刀で払うブラック。何が目的なのだ。彼は考える。彼女のやっている事は単調だ。ただ短刀をブーメランのように投げただけだ。

 大太刀から響く金属が弾かれた音。三度目もブラックはマイの短剣の投擲を弾いた。


「見切れるかしら!」


 自身の持つ剣に魔力を込め、その切れ味を一層に高めブラックに突進を始めた。

 そこでブラックの纏う魔力がなにかを察知し、彼は自分のいた位置から勢いよく移動する。直後、先ほど弾き飛ばした短刀が戻ってきていたのだ。

 いいや、それだけではない。マイが投げた三組の短刀は、鋭く切れ味を高めながらブーメランの如く、ブラックの周りを囲うように戻って来ている。そういうことか……結論がわかったブラックは歯を食いしばる。

 彼女はあの短刀を全て自分の魔力で操作したのだ。まるでお互いの短刀が引かれ合うように……

 面白い戦術と彼はニヤリと笑う。彼女の攻撃を受け止めれば直後、全ての短刀が彼を容赦なく切り裂き、あの短刀を破壊、または弾く事に時間を取られれば、彼女に切り裂かれる。

 まさに回避不可能。敵を回避させないようにした必殺。

 だが……物事には例外が存在する。それは自分を生き残らせる覚悟があるにもあるにもかかわらず、特攻などによって解決する場合……


「だが、そんなことでやられん!」


「!?」


 その例外にマイは目を見開く。だがもう回避は出来ない。ブラックは短刀をその大太刀で薙ぎ払い、マイへ特攻を仕掛けたのだ。

 マイの一撃をブラックは貰う。だが同時にマイはブラックの一撃を貰っていた。自分への損傷を無視した本体への特攻。

 刹那の差だった、マイは心臓辺りに何かを打ち込まれるのを感じた。しかしそれだけでは終わらず、ブラックの鋭く放たれた蹴りがマイに直撃する。


「ぐ……ぅ……」


 吹っ飛ばされたマイの体は、抵抗することなく、転がり、動かなくなる。

 立とうとする。だけど、立てない。恐らく心臓辺りに打ち込まれた一撃が効いているのだろう。

 その結末を見たレインは、目を見開く。ブラック自身も傷を負っているが、マイに比べればまだマシだ。

 レインは歯を食いしばりブラックを見つめる。まだ手段はあるはずだ。こんなところで終わるわけにはいかない。

 突如、巨大な黒い『何か』が現れる。予期せぬ乱入者なのだろうか。いや、そもそもあれは者なのか……だが、レインはそれを見た瞬間に、体がこわばるのを感じた。

 あれに飲み込まれてはいけない。あれに触れてはいけない。あれは『闇』そのものだ。彼は禁忌とされている闇の魔術を扱う人物であった。

 ともなれば、死体を操っていたのも納得がいく。あの死んでいた騎士を操っていたのは彼であったのだ。だがわかったところでもう遅い。

 死んでいた騎士を操っていた正体はブラックだった。それだけで終わってしまう。

 その闇は覆いかぶさるが如くレインに迫る。逃げようにも足が動かない。

 ……やられる。

 そう思ったとき、彼の体が突如吹き飛んだ。ふわりと彼の視界に写った黒いコート。驚きで見つめると、そこには倒れていたはずの少女マイが、レインを突き飛ばしていた。

 目元は髪で隠れており、表情はよみとれない。だが飛び込むように手を突き出している姿から彼女はその闇から逃れる事が出来ないことを悟っていた。


「……面白い、ならば二人まとめて飲まれ、闇に朽ちろ!」


 範囲を広げ、飛んでいるレインに目掛けて闇が襲い掛かる。

 回避などできるはずがなかった。その闇は巨大化し、レインとマイ、二人の存在を飲み込んだ。

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