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運命の日  作者: スカーレット
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第1話 出会い

「終わりだ、魔術師」


声が聞こえる……


「仕方が無い。魔術師。ほんとはやりたくないのだが、お前も『魔術大戦』を知った身だ。俺の手で、葬ろう」


 ここはどこだろうか……辺りは炎で包まれ自分の記憶すらもない。自分が何をしていたのかも、なんでここにいるのかも。

 冷たく放たれる言葉にはなんの情も感じられない。まるで人ではない何かを見るような目をしている事だけは分かる。だけどその言葉に何の反抗も抵抗もできない。否定することもできなく、ただぼんやりと床を見つめることしかできない。

 目の前のローブをかぶった黒い何かが自分に剣を振りかぶる。

 このままでいいのだろうか……抵抗なく自分は諦めるしかないのか。諦めればこの痛みからは逃れることができるだろう。だけど本当にそれでいいのだろうか。眼を閉じればきっと夢のように弾け、自分という存在は消えてなくなるのだろう。


「……いやだ」


「む……?」


 まだ諦めたくない。全身に力を込め、立ち上がる。激しい痛みによって苦痛に表情を浮かべるもあきらめない。

 なぜ自分がここにいるのか、なんでこんな満身創痍な姿になっているかなどわからない。わかるのはただ一つ。このままでは俺は死ぬ。

 ここでくたばるわけにはいかない。あがくなら最期まで、この命が燃え尽きてもあがいてやる。

 それが俺だ。最後の最後まであがくのが俺というただひとつの人間だ……!


「そんな状態で、よくくたばらないのね、あなた」


 どこからか聞こえた女性の声。それが俺の思考を一瞬停止させた。透き通るような女性の声。その言葉は間違いなく俺自身に向けられていた。


「まあいいわ。苦痛に歪むあなたの表情。そそるわ、ずっと見ていたい、いや、むしろもっと痛めつけて悲鳴も聞きたいぐらいね」


「……!? その声は!?」


 驚愕したローブを着た黒い何かが即座に剣を俺に振り下ろす。が、その男の行動は遅かった。その剣が俺の身を裂く前に青白い一閃によりその剣が吹き飛ぶ。それと同時に恐らく先程の声を発した人物だろう。それが俺の目の前にふわりと足をつく。

 黒色のポニーテールをし、華奢な小さな身体に不相応な黒いマントを羽織った少女。後ろに少しばかり顔を向ければ、少女らしい顔つきに青色の瞳をしているのが分かる。


「ちょうどいいわ。とてもいい、ふふ、私を呼んだのはあなたかしら魔術師さん?」


『ふふ』っと口元をゆるませてからポニーテールの少女は言葉を続ける


「じゃあそこの、死にかけな魔術師さん。一度しか言わないわ。私は『マイ』。気まぐれであなたの剣になってあげるわ。だから……私の下僕のように答えなさい。あなたが私の契約者だって」


 下僕とかなんとかはわからないが、この少女はこちらに味方してくれるのだろう。俺は頷いた。

そして直後に響く謎の胸の痛み、膨大な魔力が流れ込むのを感じる。必死に抑えるも倒れるわけにはいかない。倒れたらそれこそ、そこまでだ。

 目の前にたたずむ少女の背中は人間とは変わらない、だが彼から見てもわかる。この少女は人間ではない。膨大な魔力の量がそれを嫌というほど示していた。


「魔力が繋がったようね。へえ、新米にしては十分な魔力じゃない」


 黒いローブの魔術師が、即座に後退し詠唱、それが終わると同時に複数の火の玉を放つ。狙いは目の前の少女だ。


「遅いわ」


 まるで失望したとばかりに、少女はその火の玉を斬り裂く。彼女の右手には一振りの剣が握られている。そのまま少女は黒ローブの剣士と思われる人物へ剣を振るう。それを取りだした短刀で防御する黒ローブの剣士。鍔迫り合いが起き火花が散る。


「お前は、いずれ障害となりえる人物。ここで消えてもらう!」


「させないわ、せっかく私が手に入れた魔術師(人形)だもの。こんなところで手放すわけには行かないわ」


 短刀を投げ捨て、黒ローブの男が手に新たな刀を持つ。その色は漆黒、まるで芸術的にも最高峰の物であるといってもいいのではないのだろうか。それほどまでに、その漆黒の刀には見るものを吸い込ませる力があるように感じる……

 マイといわれた少女が、彼女を呼んだ彼の前で剣を構え、様子を探る。あの刀は恐らく五尺五寸……数字で言い表せば166cmぐらいの長さを持つ大太刀。

 さらにはあの太刀から感じる魔力、あれは彼が持つ魔力ではない。あの太刀独自の魔力だ。苦痛によって表情が歪むぐらいの痛む体を、動かし、彼はマイに言う。


「攻撃を……くらうな」

「……そのつもりよ。改めて、忠告どうも」


 黒ローブの男がマイに突っ込んでくる。まずは一振り、長すぎる大太刀から発せられる一撃をマイは剣を振るい弾く。更に一撃、それをまた弾く。


「見切れるかしら?」


 だが、ただ弾いているマイではない。今いるところは火に包まれた屋敷のようなもの、ここもあと数時間あれば全てが崩れ、瓦礫へと埋もれるだろう。

 ……つまり、障害物すらも利用すればチャンスはある。マイの放った斬撃は、今にも崩れそうな照明へと直撃。ガラスの割れるような音と共に巨大な照明が勢いよく落ちる。


「くっ……」


 後退しつつその照明を回避する黒ローブの男。照明が落ち、更なる炎を吹き上げたところで、黒ローブの男は、口元をしかめる


「くそ……これは予想外だ。一回撤退するか」


 照明が落ち、この屋敷も長くないことを察すると、黒ローブの剣士は何かを詠唱。直後、少女の前から消えていなくなる。


「あら、もう終わり? 意外に呆気ないのね。もうちょっと抵抗してくると思ったのに。まあいいわ、あいつのあの表情が見られたおかげで多少の溜飲が下がったものよ」


 俺の方へと歩いて来る少女。少女が剣を光にし、消滅させたところを確認し、最早限界だったのだろう。俺の意識はそこで途絶えた。




 どれくらい寝てたのだろうか。自分は部屋で横たわっていた。先程の見たあの光景、あれは夢だったのだろうか。

起き上がろうとして自分の胸の痛みに気付く、魔力が流れている感覚のこの痛み、これがさっきまでの夢のような出来事を現実だと言い聞かされる。だが、ここは自分の部屋だ。一体誰が……


「お目覚めかしら? 私の魔術師さん?」


 聞き覚えのある声と共に、奥から黒いポニーテールをした黒いコートを羽織っている少女が歩いてきた。間違いない、ぼんやりする意識の中でわずかに見た少女と同じだ。


「まあいいわ。あなたもこの戦いに選ばれた最後の人間。あいつは障害を少なくしようとあなたを殺そうとしたけど、あなたにとっては危機一髪ってところかしら」


「戦い……?」


自分のその言葉を聞いて目を丸くする少女だが、すぐに元の表情に戻る。


「……あんなことがあったものね。記憶が錯乱してもしょうがないわ。いいわ、教えてあげる」


 この世界、アッシア地方では現在、あらゆる願いを叶える万能の願望機『パンドラの箱』を求め、様々な魔術師がそれを手に入れるべく戦いが起きている。中には魔術師の魂を、呼び出された存在『使い魔』へと繋げ契約する者までいるらしく、その使い魔のほとんどは無名の人間だが、中には魔術と契約した際、歴史に記された英霊と同等の武器を持つことが可能になるという。人々はそれを『魔術大戦』と呼ぶ。


「理解できたかしら?」


「まあ何とか……じゃあ君も、使い魔ってことでいいのか?」


「勘違いしないで、私とあなたは利害が一致していただけ。私を使い魔なんて思わないでよね、おバカな魔術師さん?」


 自分の言った発言に、触れてはいけないところに触れてしまったのか、少し不機嫌になる少女。なんというか、めんどくさい子だ。


「でも契約してしまった以上、戦わなければならない。この魔術大戦に参加してしまった場合、抜け出せる方法は死ぬか、勝ち続けるかだけ。さあ、覚えているなら私の名前を言いなさい」


 なんとなくだが少女から殺気があるのを感じる。なんで名前を言う前に自分はこんな殺気を浴びなければならないのだろうか。うろ覚えながらも、彼女の名前を口にする。


「マイ……だっけ?」


「正解。言った後にこんなこと言うのもあれだけど、あんな状況で良く覚えていられたもんね。それであなたの名は?」


「俺……?」


「そうよ、私は名乗ったけど、あなたはまだでしょう?」


「俺は……」


 そこで彼は止まる。なにより自分の名前が思い出せない。なぜだろうか、今では元々自分の名前なんてなかったような気さえする。だが少しの間の後、自分の思考をフル回転させ答える。


「レイン……そうだ、俺の名前はレインだ」


「……あなた、自分の名前も忘れてなかった?」


『あはは』と笑うレイン。鋭いと彼は感じる。まさか自分の名前まで忘れてしまっているとは、これも記憶が錯乱している影響なのだろうか。


「まあいいわ、行きましょう。長居は禁物よ。ここだっていつ襲われるかわからないんだから」


「襲われる……?」


「馬鹿な魔術師ね、同じところにいれば狙われやすくなるのは当然の事でしょ? まあ、ここは若干、魔術に対して防壁が張ってあるから、許されるかもだけどいつまでも、もつとは限らないわ」


横たわっていた場所から降り、身体が動くことを確認すると、レインは目の前の少女の体を見る。

 本当に外見は普通の人間と変わらない。だがこの力の差は何なのだろうか。まるで彼女に触れてしまったらそれこそ、その魔力で自分が溶けてしまいそうな、それぐらいの力を彼女は持っている。

 彼女はいったい何者なのだろうか、もしかしたら彼女は人間であって人間ではない存在なのかもしれない……


「……なにじろじろ見てるのかしら、この変態」


「いやそんなに見てないから」


 だがこの先、彼女とやっていくにはなかなかに苦労が必要かもしれない。レインは心の中でそう思った。

どうも、みなさん、おはこんばんちは。スカーレットです。


このたびは一次創作を書いてみようと思い、筆記を始めてみました。

書き溜めがなくなると気分で更新になる人間ですが、これからもよろしくお願いします

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