第1話 -異界-
第一章開始です。
第一章はダンジョン攻略を用いた世界観説明なので少し物足りないかもしれません。
「へー、魔法ってこんな感じで使えるんだー」と思いつつざっと読んでもらえるとありがたいです。
「……はっ!?」
ふと目を覚ました。
薄暗い部屋だ。
……。やっぱり夢じゃなかった……。
もう一度寝ようかな……。
「……!?」
右手首に鎖がつながれている。脇腹の傷は治療されていた。
周りを見ると、同じように監禁されている人がたくさん居た。
それにしても誘拐に監禁か……。身代金目的かな?それにしては人数が多すぎるような…………。
ブゥンッ
機械の駆動音が聞こえた。目を凝らすと、通路の奥のほうに何か大きな機械が鎮座しているのが見える。
なんかSFみたいだな。
「空間接続。対象を【アトランティス】にセット。」
「【虫喰い穴】生成、固定を確認。【疑似霊道】の展開を確認。」
「転移準備完了!」
……うん。中二病が騒いでいるようにしか見えない。これはアレか。若気の至りってやつか。
「転移開始」
バツンッ
突然、あたりが電灯を消したときのように真っ暗になった。右手首の鎖の感触が消え、浮遊しているかのような感覚。足が地面につかない。
そもそも、体が動かない。
「なんだこれ……?」
あれ?これ、もしかして―――――本物?
「やぁ」
突然、声がした。
振り向こうとした。が、できない。
体が動かないんだった。
「君、面白い名前だね。【イラト】か。まさか名前も顔も同じなんて……。こんなこともあるんだなぁ……」
言っていることの意味が全く分からない。俺の名前がどうかしたのか?
「じゃあ、君にはコレをあげよう。君に面白い【運命】がありますように」
ズプリ
悪寒がした。と同時に何かが自分の中に侵入してくるような感触。
そして。
イラトの意識は再び吹き飛ばされた。
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私、美空キリカは部屋の中でそわそわしていた。
「もう、10時なのに…。」
イラト君が来ない。(私との)約束を破ったことなんか一度もないのに。
「そうだ!迎えに行ってあげよう!」
「膳」は急げって言うからね!配膳をはやくしないとご飯がさめちゃうってことだよね!
「イラト君を迎えに行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
父親に声をかけて、肌寒い外へ走り出す。
灰色の雲が空を支配していた。
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『ニュースの時間です。』
キリカの父親がテレビを見ている。
『昨日、世界中で150万人を超える人が一斉に失踪しましたことが発表されました。日本でも12万人を超える行方不明者を確認しており、警察は近隣に失踪者がいないかを確認するよう呼びかけています。』
「世の中物騒だなぁ…」
これが、2019年最後の大事件とされる「200万人誘拐事件」となることは、まだ誰も知らない。
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イラト君の家まで走って10分。
「ぴんぽーん」
声に出しながらインターフォンを押す。
「……あれ?」
イラト君が出てこない。……まだ寝てるのかな?
「あ、鍵が開いてる。」
ラッキー。でも、なんで開いてるんだろ?
「おじゃましまーす」
家の中はイラト君のにおいでいっぱい。
「すーーーーーっ」
めったに来ないから深呼吸しておこう。
イラトエネルギー満タンっ!
……誰も見てないよね?
「イラト君はどこかな……?」
寝ているとしたらこっちの部屋かな?
そっとドアを開ける。
「……?」
いない。布団をめくってみてもいない。
「どこ行っちゃったんだろう?」
ん?ベッドの下に何か赤黒いシミ…?
「これは――――」
そう、この鉄臭い匂いは。
「――――血?」
遠くからパトカーのサイレンが響いてくる。
「近隣の住民が失踪していないかを確認してください。」
嫌な予感がした。
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「……。」
ふと気づくと、目の前には見覚えのある町並みが広がっていた。ここは自分の家の裏の方にある丘の上…のはずだ。
そう。目の前にはだ。
後ろにはきれいな夕焼けと草原が広がっていた。ところどころに動く黒い点が見える。どこだここ?
「あなたは―――」
ぼーっと草原を眺めていると、急に後ろから声をかけられた。慌てて振り返ると、白髪の老人がニコニコしながらこちらを見ていた。
「あなたは『地球』を憶えていますか?」
「―――っ!?」
ヤバイ。
よく分からないがこのオジサンはヤバイ気がする。
しかし、表情はすでに読まれていたようだった。
「エラー個体を発見。記憶書き込み処理を開始」
頭を掴まれ、強引に地面に押し倒される。
「…ガァァァアアアァァぁぁぁあっっ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。脳を直接引っ掻いているかのように痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛ぁぁぁぁああ!?!?!?
「書き込み終了」
どれくらい経ったのだろうか?
「続いて、消却処理開始」
「っっっあああああああ!!!!!」
今度は鈍い痛み。消しゴムで脳をこすられているかのような痛み。
唐突に思い出したのはキリカの後ろ姿。
しかしそれはじわじわと薄れてゆく。
「嫌だ……!」
忘れたくない!
その時、頭の中で何かが動いた気がした。
「……?エラー発生。処理中……。現在、当機には第二位生物への介入権限はありません。対応プラン受信中…。」
痛みがひいていく。
「…た、すかっ、た……?」
「プラン展開。処理を実行します。」
老人の右手が白く光るのを、ズキズキと痛む頭に顔をしかめながら見た。
ジャキィンッ
とっさに右に転がると、さっきまで俺がいたところに剣が突き刺さった。
真っ白な剣だ。なんの抵抗もなく地面に突き刺さったぞ……。
「うおおぉぉ!?」
剣が再びこちらに振り下ろされる。再び右に転がる。
ジャキィィッ
地面が豆腐のように切り裂かれる。
「あ」
マズい、追い詰められた。下は崖だ。次の剣を避けたら崖から落ちて死ぬ。避けなかったら剣に切り裂かれて死ぬ。これは…詰んだな。
どちらにしろ腰が抜けて動けない。老人によって3度目の剣が振り下ろされる。
剣は俺の体を容易く切り裂く―――
―――はずだった。
ギィィィィンッ
剣は良人の目の前に割り込んできた赤髪の少女によって弾かれた。
「戦闘続行は無意味と判断。脱出します。」
老人の体が消えた。速すぎて見えなかったのでは無い…………と思う。
「大丈夫?」
赤髪少女が顔を覗き込んでくる。
ずっと走っていたのか、しっとりとかいた汗で体にシャツが張り付いている。うん、デカいな。キリカに負けないくらいだ。
……えっと、これは浮気に入らないよな?
「あ、ああ。助かった。ありがとう。」
すると、赤髪の少女は
「どういたしましてー。私、ちょっと忙しいから、じゃあね。」
と言って、あっという間に行ってしまった。
「あ、ちょ、えぇー……」
名前すら聞かせてもらえなかった…………。
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とりあえず日が沈んだので家に帰り(現実世界と同じ場所にあった)、ベッドで寝っ転がりながら考えごとをしていた。
「あのジジィ、俺に何かを書き込んで、記憶を消そうとしたところでおかしくなったんだよな………?」
何を書き込まれたのか?それは恐らく、偽物の記憶だろう。そして、本物の記憶を消せば俺は完全にこの世界の住人となる。
転移させるときに手違いで俺の記憶だけ書き換えられなかったんだろうな…。
…………。ラノベの読みすぎかな?
記憶を探ると、すぐに違和感があるのを感じた。これが……偽物の記憶だ。
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記憶の閲覧はスムーズに終わった。パソコンのファイルを開くようにすると、頭の中に鮮明な映像が見えるのだ。
ここはアトランティス大陸で、この世界にある唯一の大陸だ。何千年も前に異世界から転移してきたらしい。
……アトランティス大陸は沈んだんじゃなくて転移したのか!
この大陸にはオリハルコンと呼ばれる魔結晶があちこちにあり、魔力で満たされている。
「魔力…。魔法があるのか。」
ロマンですな。
まぁ、この世界のことはとりあえずどうでもいい。重要なのは自分の情報だ。
俺はイラト=シエル。親は冒険者でほとんど家に帰ってこない。学校は剣術専門で、かなり成績は優秀。ちょうど1年前の4月8日に卒業。
現実世界の俺は17歳だが、この世界では15歳。少し若返ったが、まぁほとんど誤差だろう。記憶にはほとんど剣術の修練をしている映像しかない。
「さて。これからどうするか……?」
この世界から脱出したい。と、いうよりキリカに会いたい。だから、この世界を探る必要があるだろう。となると、1番良い職業は……
「冒険者になるか……」
この世界にはモンスターと呼ばれる、人間を襲う魔物がいるらしい。つまり、戦闘能力がないといけない。自分の戦闘能力はどれくらいか確かめねば…。
あと、自分が魔法を使えるかどうかもだな。記憶によると、俺は魔法を試したこともないらしい。使えるといいなぁ…。
「ともかく、明日から忙しくなるぞ…」
俺は夕食(冷蔵庫にある食材を使用。食材は現実世界と変わらないらしい)を食べ、寝る。
まだ頭の片隅にチリチリと燻る違和感があったが探ろうとすると消えてしまった。…まぁ、いいか。
魔法っていいよね。