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デザイナーズ  作者: やなぎ
第1章 激動の兆し
27/35

Film.027 メイド

 


──鳳龍の大宮殿──



 カリカリと万年筆が紙の上を走り文字が刻まれていく。

 デスクに向かって椅子に座り、ノートにつらつらと何かを書きこむデイヴィッド。


 そのノートはデイヴィッドが錬金術について記した研究ノートのようなもので、今は妖刀・黒鳳蝶(クロアゲハ)の製作結果を記録していたところだった。

 その記録が丁度ひと段落ついたところで部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「入って、どうぞ」


 デイヴィッドの返事の後ドアが開き、そこには【鳳龍】オリンクルシャが立っていた。

 オリンクルシャは普段はおろしているプラチナブロンドをポニーテールにしてピンクのエプロンをつけていた。


「デヴィくん、今いいかしら?」

「いいよ。どうしたの母さん?」


 デイヴィッドはオリンクルシャの服装からある程度の予想はついたがオリンクルシャにそう問いかけ、オリンクルシャは少しの沈黙の後にいつもより小さな声で言った。


「夕食のお手伝い……してくれないかしら?」


 返ってきた答えはデイヴィッドの予想通りで、そしてデイヴィッドはオリンクルシャの申し出を快諾した。


 オリンクルシャの家事スキルはずばり最低だ。

 力の権化のようなオリンクルシャには細かいことに向いていなかったし、普段からリネラ リーバスタビオがメイドとしてオリンクルシャの身の回りの世話は全てしていたため家事をする機会もなかったのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。

 とにかく、そういうわけで料理など全くできないオリンクルシャ。

 それがリネラはおろか、シグレナリア フォーもミルド カリリスもいなくなり誰も料理をする人がいない状況で、しかたなく自分でやろうとしたものの、台所の前に立った次にはなにをすればいいかわからなくなっていた。


 だからオリンクルシャは唯一頼れるデイヴィッドの元へやってきたのだ。

 デイヴィッドとしてもオリンクルシャ1人に料理を任せようなど、そんなハイリスクな賭けはしない。

 服すらリネラなしではまともに着れないオリンクルシャが料理をすれば、いったいなにが起こるかわからない。

 もちろんオリンクルシャはその強靭な身体ゆえ、包丁でケガをしたり火傷をしたりといったことは万に一つもありえないが、それでも気付けば鳳龍の大宮殿が大火事になっていた……なんてことは十分に考えられたし、食卓に食事可能な食べ物が並ぶとも思えなかった。


 そういう理由からオリンクルシャと共に台所へと向かったデイヴィッド。

 ちなみに台所は140階層、ドーム型天井の部屋と隣接した位置にある。

 本日の料理はウサギ肉を焼いたものとサラダ、そしてオニオンスープだった。

 台所はデイヴィッドが元いた世界と利便性は変わらないが、火や水は魔法で出したり消したりしている。

 デイヴィッドは手伝いのはずが8割以上の作業をデイヴィッドが行い立場が逆転していた。


 そして食卓。普段リネラが作っているものよりマズいオニオンスープを食べている時にオリンクルシャがふと思い出したようにデイヴィッドに提案した。


「そうだわデヴィくん。この後礎室にいってダンジョン改築するから一緒に来ない?」

「え、いいの? それじゃ行く」


 オリンクルシャの提案に、デイヴィッドは興奮気味にそう答えた。

 オリンクルシャがデイヴィッドを礎室に連れて行くことは珍しく、デイヴィッドが礎室に入った回数など片手で数えられるくらいしかなかった。

 それもここ最近のことで、初めて礎室へと連れて行かれたのは4歳のころ。

 デイヴィッドがダンジョンに潜り修行がしたいといった次の日、オリンクルシャはデイヴィッドを礎室へと連れて行きダンジョン内部の様子を見せた。


 デイヴィッドは自分の生活環境についてオリンクルシャに訊ねたことはなかった。

 ここがダンジョンであることやオリンクルシャがダンジョンマスターであることをデイヴィッドは知っていたし、それ以上のことを自ら踏み込もうとは思わなかったから。

 やがてオリンクルシャとデイヴィッドの間でダンジョンについての会話は普通のことになっていった。

 普通ならダンジョンという特別な場所の存在を疑問に思うはずなのだが、そこは赤子の頃から記憶のあるデイヴィッド。デイヴィッド自身普通とかけ離れていた。


 それはそうと、デイヴィッドとしては礎室でオリンクルシャがダンジョンマスターとして働く姿をもっと見たいと思っているのだがオリンクルシャは頻繁にはデイヴィッドを礎室に連れて行かなかった。

 だがら今回の提案をデイヴィッドは嬉々として受け入れたのだ。

 2人は夕食を食べ終えると礎室の前へと一瞬で転移した。

 ダンジョンマスターであるオリンクルシャは鳳龍の大宮殿内部ならば基本的にどこへでも転移可能で、オリンクルシャに触れている者も同様だ。

 そうして最深層へとやってきた2人は礎室へと入った。

 清潔な白色の味気ない部屋の中心に浮かぶ青黒い金属結晶のダンジョンコア。


『こんばんは。本日はどの様な御用件でお越し下さったのでしょうか?』

「改築よ、ダンジョンコアちゃん」

『畏まりました。今回の御用件は迷宮改築で宜しいでしょうか?』


 ダンジョンコアの無機質な声が辺りに響く。


「ええ、いいわよ」

『それでは迷宮改築設定表示を展開します。次いで改築施設一覧表示を展開します』


 その言葉に続き空中に浮かび上がるウィンドウ。2人はそれを覗き込んだ。


 現在、鳳龍の大宮殿のDPは4億6000万以上。

 不可侵協定破棄以前と比べれば異常とも思えるDP。

 何故これほど多くのDPを集めることができたかといえば、それはデイヴィッドのとある提案が発端だった。


 ダンジョンを拡げるには主に2つのやり方がある。

 階層の追加と既にある階層の拡大だ。

 階層とはいわば一種の独立した世界のようなものだ。

 他とは断絶しているため雪の降る極寒の階層の下にマグマの流れる灼熱の階層を作ることもできる。

 もちろんこのような環境の階層をつくるには相当なDPが必要だがそこはたとえ話だ。

 そして既存階層の拡大は領域の追加である。

 階層を拡げるにはDPを使用する。

 拡げたい領域を指定して登録するとその領域が階層に組み込まれ、階層の一部となる。

 階層の追加と拡大で大きく異なるのがこの点で、世界の追加と拡大と言い換えればいいかもしれない。

 さらに2つでは圧倒的にDPの使用量が違い、前者はバカ高いDPが必要だ。


 そして肝心の話。

 鳳龍の大宮殿のDPがなぜ4億6000万も溜まっているのかというと、デイヴィッドが地上にダンジョンを拡大させればいいのでは? とオリンクルシャに提案したからだ。

 それもただ拡大させるのではなく、網目状にしてだ。


 デイヴィッドがこんな提案をした理由はダンジョンのDP獲得システムにあった。

 DPは侵入者の撃滅、撃退、滞在で手に入り、この順で獲得できるDPの量が多い。

 そしてデイヴィッドはこの中から撃退に着目した。

 イール大森林の開拓計画があるとリネラがオリンクルシャに話しているのを聞いたデイヴィッドは、なら街ができる場所に網目状のダンジョンを仕掛ければ、その線をヒトが超えるたびに撃退したことになるのではと考えた。

 そうすれば単純にダンジョン領域を拡大するのと比べれば滞在と撃退で大きな差が出るし網目状にして領域の面積を減らせば使用するDPの量も減らせる。


 このアイディアにオリンクルシャは感心した。

 オリンクルシャにはそんなDPの集め方は思いもつかなかったからだ。

 これは歴史を見ても前例のない集め方だった。

 しかしデイヴィッドからすれば効率的なDPの集め方を考えた場合この考えを思いつくのはごく自然なことで、むしろなぜ今まで誰も実行しなかっのだろうと疑問に思った。

 確かにこの世界のダンジョン拡大システム上、このアイディアを思いついたものは多くいた。

 しかしそこはある条件から実行には移されなかったのだ。


 ダンジョン拡大は、その拡大する領域の100メートル以内にヒトがいないことが条件となる。

 となればすでに街のある場所にダンジョン領域を伸ばすことは不可能だし、ヒトがいないところでこの考えを実行しても頻繁にヒトが通らなければ全く意味がない。

 オリンクルシャはイール大森林の開拓計画を知っていたからこそ先行投資が出来たわけだ。


 とにかくそういうわけで鳳龍の大宮殿はDPに困らなくなった。

 オリンクルシャやリネラがダンジョンに美学を求めた構造ゆえに、撃滅した侵入者の数はあまり多くはないし毎度毎度機械種(エクスマキナ)は狩られまくりなだが、それもあまり痛手にはならなかった。

 それにオリンクルシャは別に、機械種(エクスマキナ)がただただ狩られるのを黙って見ているわけではないし、防衛をおろそかにしているわけでもなかった。

 現在、鳳龍の大宮殿に配置されている機械種(エクスマキナ)は57種。33階層までワナや魔物の配置が終了していた。


「それじゃあ34階層に配置する魔物を決めなきゃいけないわね。何がいいかしら……」


 オリンクルシャが機械種(エクスマキナ)一覧のウィンドウをスクロールしながらそう呟いた。

 機械種(エクスマキナ)の一覧に目を通すのはオリンクルシャの日課に近い作業だが、実際に新しい機械種(エクスマキナ)を配置することはあまりない。

 しかし11階層が開放された今、早いところ新しい機械種(エクスマキナ)を配置しようとオリンクルシャは考えた。


 オリンクルシャが機械種(エクスマキナ)一覧をスクロールするのを、デイヴィッドはウィンドウとオリンクルシャの間にもぐりこむようにして眺めていた。

 オリンクルシャは悩んでいるようで、なかなか配置する機械種(エクスマキナ)を決めずにあれこれ見ていた。

 その時デイヴィッドはある機械種(エクスマキナ)が目に止まり、オリンクルシャに提案した。


「ねぇ母さん。オートマタとかってどう?」

「オートマタ?」


 デイヴィッドが指差した機械種(エクスマキナ)の詳細をみようとようとオリンクルシャがオートマタの項目をタップする。


 オートマタ、つまり自動人形。

 アダマンタイトの骨格に収縮金繊維などのヒトに近い内部構造と有機カーボン外皮殻の皮膚を持っており見た目は人間種(アンスロポス)と区別がつかない。

 ただし尾骶骨(びていこつ)から延びる骨のような鋼の尻尾が機械種(エクスマキナ)であることを主張している。

 1体にかかるDPは500万DPとかなりの高額だ。

 もちろんそのぶん強力な力を持っており、有機カーボン外皮殻はヒトの皮膚と見分けがつかないにも関わらず、強度はミスリルを凌ぐ。

 そして最大の特徴は成長することである。電子結合脳機関という頭部にある管制機関で学習するのだ。


「そうねぇ……オートマタは個体によって強さがバラバラだし……どうかしら」


 オリンクルシャはデイヴィッドの提案に歯切れの悪い返事を返した。

 この世界には多くのRPGでいうところのレベルという概念は存在しない。

 そのため魔物の強さは同じ種族ならばほぼ均一で、オリンクルシャはその均一性を美徳と考えていた。

 オートマタの特性である学習はその均一性からはずれており、オリンクルシャはあまり乗り気ではなかったのだ。

 しかしデイヴィッドも食い下がる。


「いやいや逆に考えるだよ。むしろ強さが違うから面白いって。強い奴と当たったらドンマイだけど弱い奴ならラッキー、みたいなギャンブル性があった方がドキドキするじゃん?」


 デイヴィッドの主張にオリンクルシャは一理あると考えた。

 それでも渋るオリンクルシャにデイヴィッドはさらなる追い討ちをかける。


「それにオートマタなら家事とかできるよ? ほら、さっきみたいに夕食食べれずに苦労するなんてこともなくなるし」


 オートマタに家事をさせる、というデイヴィッドのアイディアにオリンクルシャの気持ちは相当揺れた。

 先の夕食作りの苦労とその苦労に見合わない味が思い起こされた。


「そうね、デヴィくんの言うとおりだわ。リネラもそろそろ人手が欲しいでしょうし、そうしましょ」


 そうしてオリンクルシャはオートマタを配置することを決めた。


『進言──オートマタは初期設定の変更が可能です。変更はDPを使用します』


 オリンクルシャの手がウィンドウに伸びた時にダンジョンコアの声が響いた。

 確かにオートマタの項目の右側には色々とスペックが表示されておりパラメータをいじることができた。

 試しにオリンクルシャは外見年齢と書かれた項目の数値をいじってみた。

 するとウィンドウが映し出していたオートマタの外見映像の年齢が高くなった。


「まぁ見た目は気にしなくてもいいわね、いじる必要はないわ。性格なんていうのもあるのね……ランダムのままでいいわ。性別は、おと──……」

「ちょっと待ったー‼︎」

「……? どうしたのデヴィくん。いきなり待ったなんて……」


 オートマタのスペックをいじっていたオリンクルシャに、突如そう叫んだデイヴィッド。


「え? ちょ、母さん……おと、男? 男にするの?」

「もちろんそうよ。その方が強そうだわ」


 オリンクルシャのセリフに、冗談じゃないとデイヴィッドは思った。

 せっかく新たな人外少女ゲットのチャンス、オートマタを使役するのに男性型なんてありえないと思った。


 デイヴィッドとしてはオートマタの存在を知った瞬間からメイド服姿のアンドロイド少女を想定していた。

 実際のところ、オリンクルシャに言った建前などどうでもよかった。

 メカ少女ゲットをわざわざ棒にふるって男を選ぶのはゲイくらいのものだとデイヴィッドは思った。デイヴィッドは正真正銘ノンケだ。


 しかしそんな思惑をオリンクルシャが理解しているわけがなくデイヴィッドを不思議そうな表情で眺めている。

 オリンクルシャとしてはダンジョンに配置する以上冒険者との戦闘が仕事になり、そのため戦闘において多数派な男を選んだだけなのだ。


「でもでもほら家事とかするならメイドかな〜って……」

「執事じゃダメなの?」

「うっ……」


 思いのほか頑ななオリンクルシャの前になすすべのなくなったデイヴィッドは言葉に詰まった。

 もはや諦めるしかないのかと、そうデイヴィッドの心が折れかけた時、希望の光が見えた。


『ねぇねぇオリンクルシャさま、私もオートマタはメイドさんにさんせーなの!』


 そう言ったのは今さっきまでデイヴィッドの胸ポケットで眠りこけていた青髪にコバルトブルーの瞳を眠そうな半顔から覗かせた小さな少女、精霊のナギサだった。

 いつのまにやら起きていたようで、2人の会話を聞いていたらしい。


 ちなみに人類では森艶種(エルフ)矮鉱種(ドワーフ)、それから優れた魔力察知能力を持つものにしか姿は視えず、声も聴こえない精霊種(エレメンタル)だが朧龍種(ドラゴニア)のオリンクルシャにはそんなことは関係なかった。


「どうしてかしら、ナギサちゃん?」


 オリンクルシャがナギサに訊いた。


『だってメイド服なら武器いっぱいかくせるの。それにオートマタのシッポ、目立つの。メイド服ならかくせるの』

「………………」


 ナギサの主張にオリンクルシャはしばらく黙っていた。

 デイヴィッドはというとオリンクルシャを期待の眼差しで見つめていた。


「……まぁそうね、もう女性型でいいわ。それじゃあダンジョンコアちゃんお願いね」


 そしてとうとうオリンクルシャが折れた。

 正直ナギサの理論に説得されたわけではなかったが、なにやら2人の並々ならぬ熱意を感じ、元々たいした問題でもなかったため折れたようなものだ。


 そうこうしていると3人の前にオートマタが全裸で現れた。

 姿は鋼色の尻尾を除けば人間種(アンスロポス)と全く同じ。16くらいの外見で整った顔立ち。金髪金眼で全裸ゆえに胸のまな板かげんがよくわかった。

 オートマタはオリンクルシャに向かって膝をつき忠誠を誓う騎士のような格好をとった。


『貴女がわたしをお呼びになった(マスター)ですありますね。わたしは貴女に忠誠を誓うであります』


 オートマタの誓いを満足げに見届け、オリンクルシャはオートマタに立つよう言った。


「そうありがとう。あなた……そうね名前をつけましょう。自動人形(オートマタ)だからドールちゃんとか──……」

「母さんは名付け禁止!」


 オリンクルシャのネーミングセンスの無さは周知の事実となっていた。

 しかし納得いかずにごねるオリンクルシャ。


「えぇ〜……デヴィくんのいじわる」

「母さんの名付けはロクじゃないからね。でも今回安直だけどかなりマシだし、ドーラとかで」


 ただ今回はかなりマシな部類であり、安直すぎではあるもののデイヴィッドもあまり気にならないレベルだった。

 オリンクルシャは珍しく全否定されずに多少の改変で済んだことに喜び嬉しそうにオートマタにいった。


「ドーラ、いいわね。あなたは今日からドーラよ。それでいいかしら?」

『はい、わたしごときに名前など……感謝の極みであります』


 こうして鳳龍の大宮殿に新たな仲間、オートマタのドーラが加わった。




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