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独り立ち

その後、さらに剣の訓練、持久力の訓練、魔法戦闘から集団戦まで一通りこなし、訓練期間が過ぎた。

 ギルドの訓練場に全員が整列し、ザックさんの挨拶が始まる。

「よし、そろそろ実際のクエストを受けてもらう。クエストを受ける以上、貴様らは一人前だ。依頼の失敗はギルドの信用にかかわる。無論ランクや経験に応じ可能と思われるクエストしかギルドは紹介しないが、貴様ら個人の努力は不可欠だ」

「それにクエストによっては命がけになる。この中の何人かはクエストの途中で命を落とすだろう」

 ザックさんの言葉に、誰かが唾を飲み込んだ。

 これからは、訓練じゃない。実戦だ。

 訓練はきつくても、死ぬことは滅多にない。

 だが実戦では命の奪い合いになる。ゴブリン、ワイルドボア、デビルラット。みな僕たちに牙をむいてくる。

 僕は生きられるんだろうか。生きて、日本に帰れるんだろうか。

 ブラック神様は修行だって言っていたけど、死ぬリスクまで犯して修行することに何の意味があるんだろう。 

 死ねばそこですべて終わりじゃないか。



 講習会も終わったのでギルドの宿舎を出ることになった。といってもこっちの世界に来るときに来ていたブレザーをアイテムボックスに詰め込んで、ギルドからもらった革鎧や一振りの剣を身に着けて終わり。

 実にシンプルだ、

 ちなみに、剣や鎧はくれるわけではなくクエストを受けながらお金を払うシステムらしい。それはそうだよね。

 ちなみにエルマーは武器は自前、グレーテルはローブからロッドまで自前らしい。さすが魔法使いの家系。

 荷物を整えた後、食堂のおじさんなど、世話になった人たちに別れを告げる。美人のメイドさんは結局いなかった。

エルマーたちはこの町出身で知り合いや親戚がいるので、そこに住んで冒険者を続けるらしい。

 だが僕は知り合いなどいないので宿を探さないといけない。

 グレーテルはどうするのかと聞いたら、

「……宿を決めてある」

 と言って早々とそちらへ向かってしまった。

『わ、わたしが一緒について行ってあげてもいいのよ!』

 なんていうのを期待してたんだけどな。

 まあ同じリーマンの町だし、ギルドで顔を合わせることもあるだろう。

 ちなみに僕は全くの無一文だ。宿代も稼がないといけないので、宿へ行く前に受付のルーシーさんに頼んで今日一日でできるクエストを探す。

 ルーシーさんは机の上に置いてある台帳をめくりながらクエストを見繕ってくれた。

ゴブリン討伐(Dランク冒険者と同行)と言うクエストがあったので、それを受けることにした。

「Fランクの方はモンスター討伐のクエストは先輩と一緒じゃないと受けられないんです」 ということだった。

 もちろん給金も安いけど、仕方ない。

 というかいきなり一人で実戦なんて怖すぎる。ワイルドボアを仕留めたときは無我夢中だったし。

 ギルドの外に数人、冒険者が集まっていた。Dランクというだけあって僕より上等そうな鎧や剣をもっている。ローブをかぶっている人は、魔法使いだろう。

 男ばっかりで、眼光が鋭い。この中に入るのって、正直怖いなあ。

「お前が新入りのFランクか!」

「なんだかぱっとしねえなあ。そんなんじゃ冒険者としてやっていけねえぞ」

「そういうな、初めてのクエストでビビってんだろう。お前なんか足が震えてたじゃねえか」

「お、お前! 新入りの前でそれを言うか!」

 彼らの間に笑いが広がる。僕もそれにつられて笑った。

 よかった。ちょっと怖いけど、悪い人たちじゃなさそうだ。

「じゃあ行くか! 新入り、慣れねえだろうからまず俺たちの戦いを見とけ」



リーマンの町を出る。ギルド認定書があるので、それを見せるとすぐに通してくれた。同時に一週間の滞在証も返却しておく。守衛さんは頑張れよ、と応援してくれた。

一時間ほど歩いたところに村があった。

そこの村近くにゴブリンが出没し始めたので退治してほしい、というクエストだ。

 ゴブリンは個体としては弱いので、少数なら村人が退治してしまうことすらある。

 だが数が増え始めると危険だし、なにより冒険者の訓練としてはちょうどいい相手なので実戦練習もかねて格安でクエストを発行するらしい。

 街道から少し離れた森に入る。リーマンの町から北は草原が広がっているが、南には森が多くモンスターが住み着くことも多いらしい。

 森に入って五分ほどしたところで、リーダーの人が片手を上げた。

「来るぞ」

 僕にはわからない。きっと僕一人で来ていたら、奇襲を受けていただろう。

 葉擦れや下草を踏みしめる音とともに、ゴブリンが十体ほど、木の陰から出てきた。

 皆手に手に粗末な棍棒や弓、斧を持っている。

 マルガリータさんが作ってくれたモンスターとそっくりだけど、こいつらは命を奪いに来る。

 抜いた剣を握りしめる手に、自然と力がこもった。訓練時に素振りはこの真剣で行っていたので、手に馴染んでいる。

「おい新入り! お前はまずあの弓を持っている奴を魔法でつぶせ」

 リーダーの声に従って、体が勝手に動いた。

 自然と剣を持っていないほうの手が上がり、弓持ちゴブリンの方へ向く。

「ファイアアロー!」

 手のひらから出現した矢の形をした火が、一直線にそいつの方へ飛んでいく。そいつも弓につがえた矢を僕の方へ撃ってくるが、ファイアアローはゴブリンの矢を一瞬で燃やしつくしてゴブリン本体へ直撃し火だるまにした。

「やるな!」

 他の人たちも手にした剣や槍でゴブリンたちを切って捨てる。魔法使いの人は土魔法の使い手らしく、ロッドの先に出現した岩石をぶつけてゴブリンを近寄らせずに倒していく。

 見る間に十体近くいたゴブリンの数が減っていく。

 クエストってこんなに楽だったのか。いや、先輩たちがすごすぎるのか。

「新入り! 油断するな!」

 生き残っていた斧もちのゴブリンが僕に向かって斧を振り下ろそうとしていた。

 でも、ザックさんに比べるとのろい。エルマーと比べても全然だ。そう思うと落ち着いてくる。

 僕は余裕をもって剣をがら空きの胴体に打ち込んだ。

確かな手ごたえとともにゴブリンが倒れる。



「十体中二体倒して、斧や弓のドロップ。初陣としてはなかなかですね」

 ギルドに帰ってきた後、専門のカウンターで換金してもらった。認定書はルーシーに預けて今回の戦闘結果を書き込んでもらっている。

 どうやって書き込むのかと思ったけど、ギルド認定書専用の特殊な魔法があるらしくそれを使って書き込むそうだ。

 特殊な魔法によるものなので他者のデータ改ざんもほぼ不可能らしい。変なところでセキュリティが高いのはさすが異世界と言ったところか。

 ゴブリンの武器は二束三文の価値しかないが、金属部分は鍛冶屋に、柄の部分は薪として利用できるので一応は売れるらしい。

「はい、これが今日の報酬です。斧と弓のドロップ込みでの報酬になっております」

 ザックさんと話した限りでは、確か粗銅貨一枚で十円くらい、銅貨一枚で百円くらい、銀貨一枚で千円くらい、金貨一枚で一万円くらい、純金貨一枚で十万円くらいだった。

 そう考えると一万二千円か。日本でも結構な儲けじゃないだろうか。

 そう思っているとリーダーの人から声をかけられた。

「今回はうまくいったからな。だが実戦では武具が損傷することもあるし、怪我すればその分の治癒を回復魔法の使い手に頼む必要がある。その分の金をためておく必要があるからな、無駄遣いするなよ」

 危険手当込みっていうことか。


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