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夜の会話

 宿舎に帰り、風呂に入って部屋着に着替えた後に夕食になる。

 エルマーたち男子と一緒に風呂に入った。混浴でないのが残念。

風呂場では文字通り裸の付き合いで、筋肉を見せ合ったり冒険者を目指したきっかけを話しあったりしたが、僕はあまり話せないので聞き役に回った。

 話すのは苦手だけど聞くのは得意だからね!  

 ちなみに、外人さんは下の毛も上の毛と同じ色だった。

金髪だけでなく、映画に出てくるような赤い毛や、茶色い毛など色々な人がいた。

その中で僕の黒髪と黒い毛は目立つ。どこ出身かを色々と聞かれたけど、なんとかはぐらかした。

ちなみにギルドの宿舎備え付けの風呂は蒸し風呂だった。サウナ風呂みたいな感じで、初めて入ったけど悪くない。

 木で密閉した部屋に蒸気がたちこめていて、軽く垢を擦った後にお湯で体を流して終わり。薪を使ってもできるがギルドでは火魔法と水魔法を使っているらしい。

 火おこしのバイトでもないだろうか。

 季節を聞いてみたら、春らしい。これから暑くなるそうだ。

 どうやらここはイギリスなどと違い、日本のように四季がはっきりしているそうだ。

 部屋着に着替えた後、グレーテルと一緒に食堂へ行く。

 グレーテルも着替えたらしく、昨日のローブではなく大草○の小さな家で着るようなロングスカートとグリーンのブラウスというシンプルな服だ。

 でも……

「……どうしたの? 目線が泳いでいる」

 僕より頭一つ分背の低いグレーテルが不思議そうに僕を見上げてくるが、そうすると…… 目立つんだよ。

 ブラウスの下にある、豊満なバストが!

 ローブを着ている時はわからなかったけど、ここまでの隠れ巨乳だったとは。

 グレーテルは前も思ったけど、自分の色気に無頓着すぎる。もう少し気を使ってくれ。

 食堂に着く前にグレーテルには無理を言って、ブラウスの上からもう一枚大き目の上着を羽織ってもらった。これで大分目立たなくなるし、なにより他の男子たちの視線にグレーテルの色気をさらしたくない。

 彼女でもないのに、言う資格はないのかもしれないけど。でも嫌だ。

 食堂では冒険者候補たちが並んで飯を食う。基本的に朝と同じで、ライ麦みたいなパンにスープだ。でも夕飯は魚で、タラみたいな魚と野菜のスープだった。

 男子は猛訓練の後で腹が減ったのか、猛烈な勢いでかきこんでいく。

 その様は、まさに戦場。

 食べ終えてひとここちつくと、幹部用の一段高くなったテーブルでマルガリータとザックさんが酒を飲みながら食事をしていたのが見えた。

 マルガリータは琥珀色の酒、ザックさんは赤い酒だった。

 ウイスキーとワインだろうか? しかしウイスキーの方が強いお酒だったはずなのに、マルガリータの方が酒に強いのだろうか。なんとなく逆のイメージだったのだが。

実際、マルガリータは次々とグラスを空にしてボトルから手酌でついでいるのに、ザックさんはちびちびやっているだけだ。

「お、おれ、上がるわ。教官! お疲れ様です!」

「おつかれさまっす!」

「っす!」

 他のみんなは鬼教官を目にして、遠くからあいさつした後そそくさと部屋に戻っていく。

「お疲れさまでした」

 僕は45度背中を折って、深々と頭を下げる。あいさつはきっちりしないと、後が怖いものだ。

 グレーテルは挨拶しながら、その様子を見守っていた。

 何か珍しいのだろうか?

「……丁寧な礼」

 幕末に欧州を訪問した武士たちも似たような感想を持たれたそうだけど、やっぱり日本人は礼儀正しいのか。なんだか日本そのものがほめられた気がして、うれしい。

「おう、お前らこっちへ来い」

「い・ら・っしゃ~い。ふふふ」

 ザックさんとマルガリータが、手招きしてくる。

 さっと部屋に戻ればよかったかも、と思ったけれど、テーブルの上には僕たちのとは比べ物にならないほど豪華な料理が乗っている。

「……美味しそう」

 グレーテルの一言が、僕らのモチベーションの源泉を全て物語る。

 しょせん食欲には勝てないのだ。一品くらいなら分けてくれる気がする。

 それに他のみんなはどうか知らないけど、僕はなんだかんだとザックさんにはお世話になっている。

 そうひどいことはされないだろう。

 幹部用のテーブルにはEランクは座れない決まりなので、ザックさんたちが給仕に酒と料理、別のテーブルを運ばせて新しい席を作った。

 ちなみに給仕さんはオジサンだった。ギルドに雇われて、ここで食堂を切り盛りしているらしい。別に可愛いメイドさんが良かったなんて思ってないんだからね!


席に着いた後、一品ご相伴にあずかった。日本でいうサーモンとイクラのマリネみたいなものだけど魚が新鮮なのか、鮮度がすごくいいのか、とにかくおいしい。 

グレーテルにいたっては珍しくがっつくように食べ、それを僕が見ているのに気がつくとあわてたようにペースをゆっくりに戻した。

口元にソースが付いていたので。指摘すると顔を真っ赤にしてごしごしとぬぐっていた。

「そんなにおいしい?」

「……大好物」

 もし日本に来られたら、イクラ丼なんかごちそうしたらどういう目をするだろうか? 何しろ白いご飯にだいだい色のイクラが山盛りだからなああ。

おなかが膨れると、自然と会話が弾む。そこで、話は今日の稽古のことに移っていく。

「ヒ・ロ・シ君は剣の振りや突き蹴りはそこそこだけど、相手に当てる動きが悪いわねえ」

 そう言われると、そうかもしれない。相手が動くと、とたんにやりづらくなるのだ。止まっている的に剣を当てるならできるけど。

「わしとやった時も、有効な攻撃はわしが馬乗りになってからだったしな。動く相手に対して弱い」

 そういえばワイルドボアとやったときも、相手がとまってたし。

「ひょっとしたら、ほとんど一人でしか練習したことなかったんじゃな・い?」

「ええ、まあ……」

 中二病の練習は孤独だ。誰にも頼らず、教えを請わず、ただ己の力のみを頼りに技を磨き続けるのだ。

ぼっちとも言う。

「明日からは対人稽古だ。魔法使いでも接近されたときに身を守る手段がなければ命がない」

「わ・た・しは土魔法で疑似モンスターを作ってあげるわあ。ゴブリン、ワイルドボア、デビルラット、よりどりみどりよん」


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