表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

始まり

ブラック神様に異世界に飛ばされ、修行してこいと突き放された。

持ち物は数枚の銅貨のみ。

さてどうやって生きていくか。

でもなんとかなるものです。

「いってきます」

 僕、高校二年生の加賀広は鞄を肩にかけて家を出た。

 五月になって、日差しがだいぶきつくなってきたけれど朝晩は涼しいので快適に登下校できる。

 制服のブレザーが今の気温にちょうどいい。

 うちの学校は五年前に少子化のあおりを食って生徒数獲得のため共学になり、その時から制服が学ランからブレザーに変わった。紺を基調にしたデザインに、男子は緑色のネクタイ、女子はリボンだ。

 電車に三十分ゆられて都心部の駅に降り立つ。駅にはビジネスマンや他校の学生がひしめいている。

そこからバスに乗る。バスが進むにつれて急激にビルの数が減り、木々の数が多くなる。

 僕が降り立ったバス停はほとんど周囲が林で、林の奥に学園が見えていた。バス停から、他の道から、紺のブレザーと緑色のネクタイ・リボンに身を包んだ男女が学園を目指す。

 私立白露学園。

 それが僕の通っている学園の名前だ。

 通学路には小学生と見まがうような小さな子から、どこぞのおっさんかと思うようないかつい人までが同じ制服を着て歩いている。

うちの学校は中高一貫校なので、こういう風景も普通だ。

 授業が終わった後、ラノベ仲間と最近のラノベやアニメについて話しつつ、ラノベを読みながら昼ご飯のお弁当を食べる。今日のおかずは鮭の塩焼きに梅干し、シイタケの煮物に人参のうま煮だ。

 全部片手の箸だけで食べやすいおかずなのが良い。ラノベを読むために片手がふさがるからだ。

 でもこうやって、学校で同じ趣味の仲間と、ご飯を笑って食べられるのがすごく嬉しい。

 最近はネットの小説にもはまってて、異世界冒険ものがお気に入りだ。学校で読みたいけど、僕はまだガラケーなので読めない。読めないことはないが読みづらい。家に帰ってパソコンを立ち上げて読むほうがいい。



 帰宅部なので学校が終わると家に帰って、すぐ宿題にとりかかる。中高一貫校なだけあってうちの学校はレベルが高く、さぼっているとすぐ留年になる。ほんとはラノベとかゲームとか、かん○れとかネット小説とかもっとやりたいけど、宿題終わらせてからやらないとずるずると流されるので我慢している。

 やっと宿題が終わったので、パソコンのスイッチを入れようとすると、

「お兄ちゃん、ごはんー」

 一階の食堂から妹が呼ぶ声が聞こえて来た。僕はパソコンから手を離し、部屋を出て階段を降りる。

食堂ではもうお父さん、お母さん、妹の呉羽が席についていた。

「ただいま」

「おかえり、お父さん」

「広も宿題終わった?」

「おかあさん、宿題の話はいいから早くご飯食べよーよ」

お父さんは今日は早めに仕事が終わったので一緒に御飯が食べられる。お母さんは忙しいお父さんの家での書類整理などを手伝いつつ、専業主婦をしている。

 最近、二人共白髪が増えて来たのが少し心配だ。

 でもそれは半ば、小さいころ相当苦労をかけた僕のせいだと思う。

 だから少しでも安心させてあげたい。

 食事の後か○これのレベリングをした後、お風呂に入った。我が家のお風呂に入る順番は決まっていて、お父さん、お母さん、僕、呉羽の順だ。

風呂から出た後、リビングで少女漫画を読んでいた呉羽に次に入るように伝える。

呉羽は僕より四つ年下で僕と同じ白露学園に通っている。

最近になってやっと出るところが出て引っ込むところが引っ込んできた。

発育の遅い子だと思っていたけど、やっと性徴、いや成長の兆しが見えてきた。お兄ちゃん嬉しいぞ。

 それからか○これの続きして、ネット小説の続きを読んだ。

 ランキングが下の方なのに意外に面白くて、読みふけってしまった。

やっぱり異世界ものは面白い。

 主人公が現代世界出身だから、読者と距離が近くて共感しやすいのが良い。

 この設定を考えた人、ほんとネ申だね!

明日に差し支えるので適当なところで切り上げた後、明日使う教科書とノートを鞄につめて布団に入った。目覚ましのセットは六時半だ。

 


 やけに眩しい光で、僕は目を覚ました。

 寝坊したかな? でも目覚ましが鳴ってないし……

 ひとまず時間を確認するために目覚ましに手を伸ばすが、どこにもない。ついでに布団の感触もない。

 部屋の中のはずなのに、緑の匂いのする風が吹きつけている。

 僕は嫌な予感をひしひしと感じながら、目を開けた。

 目が覚めると、そこは異世界であった。

 そうとしか形容しようがないぞ。

 目を開けると自宅の天井が目に入るはずなのに、目に入るのはぬけるような青空。首を左右にやると起伏のある草原が見渡す限り広がっていて、頭を起こすと足元の方に緑の濃い森が、頭の方には町らしきものが広がっている。

 これは夢だ。そう思って頬をつねってみた。

 フツ―に痛い。

 次に頭を叩いてみる。 

 さっきより痛い。

 現実逃避はやめにしてひとまず立ち上がると、頭上から声が聞こえてきた。

「私は神様だ。お前に用があって、この世界へ呼び寄せた」

 聞こえなかったことにする。

 僕は上を見るが、空しかない。空に人が浮かんでいるとか、周囲に拡声器があるとかでもない。晴れ渡った空全体から声が聞こえてくると言う感じだ。

「おーい、無視するなー」

 台詞はアレだが、声は洋画に出てくる神様の声に似ていて、荘厳という言葉がしっくりきた。

 うん、これは夢だな。痛みを感じる夢があってもおかしくない。

「話しが進まんから、勝手に進めるぞ。最近の若い者を見ていると世界の将来が心配になってなあ、」

 まあいわゆる「最近の若い者は……」ってやつだね。エジプトの壁画からそう言われていたらしいけど。でも若い者をろくに知らずに大人の視点と意見だけで説教垂れるのはよろしくないと思うんだ。

 でも寝心地は悪くない。夢の中でもいいから、もうひと眠りしよう。

 僕はそう思って横になる。

 うん、草の感触が気持ちいい。

「ランダムで異世界に送り込んで修業をさせているのだ」

 再び空から声がするが、 言っている内容が滅茶苦茶だ。でも聞いたことのあるワードが…… 異世界、神様、ってまさか?

「近頃はやりの異世界転生系? そんなのはネット小説の中だけで十分だ、すぐ元の世界に戻せ!」

 僕は起き上がって空に向かって言い返す。好きなワードが会話の中に入ってくると、急に話を聞く気になった。 

「貴様理解が早いな。普通はもっと混乱したり発狂したり現実逃避したりするものだが」

 空からの声が感心したような響きを帯びる。

「まあ最近小説で流行ってるからね」

 皮肉たっぷりに言ってやる。

「最近のネット小説とやらは、あれは元々初期に異世界に送り込んだ者が帰還して、体験をもとに描いたものだ。そのおかげで大勢の人間たちが楽しめておる」

「ってことは、ここも……」

「ああ。魔法があるファンタジー世界だ。証拠に、貴様に一つだけ魔法を与えておいた」

 魔法。ファンタジー。

 うん、聞くだけで心躍る言葉だ。

 魔法を与えてくれたって言うのは、ありがたい。

「修業って言うけど、なにをさせたいんだ?」

 ひとまず話しを聞いてみることにする。

 大体こういうのは自分では動けない神様が人を使って魔王と戦わせるとか、盤上のコマのように人を動かして楽しむとか、そういったたぐいだ。

「修業は修行だ。精一杯生きれば良い」

「……」

 なんというか、予想の斜め上を行く返答だった。

スポ根もののノリだ。

 というか、この神様カッコカリのしてることは人をいきなり拉致して見も知らぬ世界に放り出す、というどこかの独裁国家真っ青な所業だ。

「何をすべきか、目的は自分で見つけよ。目的を自分で見つけられない人間が近頃先進国の中に多くなった。指示待ち人間はいかんぞ。最近の若い者はこれだからなあ、日本の将来はどうなってしまうのかねえ」

 説教が始まった。

 いや、それはいいからさ。

「結局どうすれば帰れるの?」

 まだ読みかけの漫画と積みゲー二本があるのだ。

「気が向いたら帰す。それまで生きていたらな。それまではせいぜいこの世界を楽しむとよい。魔法も、使っているうちに強くなる。努力した者は報われる」

「いや、それはありがたいけど。すぐに帰してほしいんだけど」

 家族が心配してるだろう。小さい頃はさんざん迷惑かけたから、これ以上心配させたくない。

「大丈夫。貴様に関する情報や記憶、事実はすべて消しておいた。誰も心配してはおらん」

 それ以降、神様カッコカリから返事が返って来なくなった。

 途方に暮れた。

 感触は、これが夢でも幻聴でもなく現実だと伝えてくる。

青い空が、見渡す限りの草原が、心地よいはずの風が、全て不安を誘う。

 昨日までいた場所と、何もかも違うから。


冒頭を加筆修正いたしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ