小話. 俺様の話をしよう
5話同日投稿の一つ目です。完全なコメディでふざけた内容になっているので、あまり考えずに読んでください。
生まれ育った国を出て、早二年。
俺様は再び、故郷の土を踏んでいた。
「よっしゃあアイオライト!帰ってきたぜーっ!!」
王都の正門前にて仁王立ちする俺様。
よし、格好良く決まった。
おいおい門番、そんなに見つめても抱いてやんねーぞ?
いくら俺様の顔が完璧で筋肉が素晴らしいとしても、だ。
まいったな…屈強な門番をも夢中にさせてしまう俺様の魅力。
ん?そんなに強い力で引っ張られたら、無視は出来ねーな。
しょうがねー!
人生初の男は、お前らにしてやらない事もないぜ!
「いたたたた!そんなに慌てなくたって、二人まとめて可愛がってやるって!」
「何を訳の分からない事を…いいから来い!」
「あぁ?てめぇ、さてはこっちの男と俺様を取り合おうってーのか?落ち着けよ、俺様の愛は同時に百人はいける事を身をもって実証済みだぜ!だから安心してついてこいよ!」
「ついてくるのはお前だ!誰か公安部の人間を呼んでくれ!」
なんだよ、主導権は渡したくねーっつうのか。
けどなぁ…俺様も主導権は渡せないんだよな。
誰かに敷かれた道なんて、クソつまんねー!
なんたって俺様だからな!
「分かった分かった、宿屋までは大人しくしてやるよ!けどなぁ、着いた後は強烈な仕置きをしてやるから覚悟してろよ!」
「こいつか?不審者は…」
「ええ、意味の分からない事をブツブツと…すぐに公安部へ連行をお願いします」
「分かった、こちらで預かろう。さあ来い」
お?まだ他にも俺様に可愛がってもらいたい奴が居たのかよ。
今度の男も俺様の腕を掴んで離さねぇな。
しかも手錠で両手を拘束とはなぁ…。
そういうのも嫌いじゃないぜ!
仕方ねぇな、宿屋までだ!
そこまではお前達の好きにさせてやるぜ?
「アーッハッハッハッハ!!」
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「せ、先輩…俺、初めて変態を見ました」
「正に変態以外の何者でも無いな…あそこまで狂っている人間は、俺も見た事がない」
「念の為、総団長にも伝えておきましょうか?」
「そうだな、もしかすると仲間がいるかもしれない。警戒しておいて損は無いだろう」
「変態の仲間……先輩、不安になってきました!あいつを王都に入れてしまって良かったんでしょうか!?」
「公安部内にある牢ならば、脱走することは不可能だ。後は、あちらに任せよう」
「…分かりました、すぐに団長の所へ行ってきます!」
「出来る限り早く戻って来てくれよ。あんなのがうじゃうじゃと来れば、俺の精神がもたない」
「先輩…はい!すぐに戻って来ますから!」
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三人目の男に連れられて着いた所は、予想に反して牢屋だったぜ。
まさかこんな所でしたかったのかよ。
確かに毎回宿屋なんてつまんねーよな。
こう暗くジメっとした場所も、中々どうして悪くない。
だがおかしいな。
牢の中に残された俺様は、両手を拘束されたまま放置だ。
一体いつになったら俺様の子猫ちゃんはやってくるんだ?
いい加減、腹が減ってきたんだよな。
「おーい!誰かいねぇのかよ!飯を頼みてーんだけど!」
するとガシャガシャと音を鳴らして、剣を持った男達が俺様の牢の前に立った。
ん?また男が増えたのか。
いいけどなぁ、一人くらい女がいても良くねぇか?
つるぺたムキムキだけじゃあ、俺様の本気は出せねぇよ。
「お前が正門の前に居た不審者か」
「ん?不審者?誰が?」
「お前以外におるまい。名を言えるか」
「あ?俺様を知らないってーのか。しゃあねーな、聞いてビビんじゃねぇぞ?俺様の名前は…」
「アトラ様!!!」
「そう、俺様は四大貴族であるセレスト家次男!アトラ・セレストだ!だが貴族の坊っちゃんだって舐めんじゃねーぞ?俺様を縛り付けるものは貴族だろうがなんだろうが、全て踏み潰す!それが俺様だからな!」
「アトラ様、お変わりなく。私の主人が大変ご迷惑をお掛け致しました。こちらのお方は紛れもなく、セレスト家のご子息でございます。こちらが当主、ラリマーからの書状にございます。どうぞご確認下さい」
「おおっ?その顔はシトリンじゃねーか!久しぶりだなぁ!嫁子供は元気か?」
「…ラリマー様からの物と確認しました。しかし、こちらの方が本当にアトラ様で?」
「はい、このお方を見間違える訳がございませんから」
「確かに…あっいえ、分かりました、非礼をお許し下さい。如何様な罰も受けると、伝えていただけますか」
「ああ?罰が欲しいのはお前か!ハハッ!分かった分かった、遠慮しねーでこっちへ来い!」
「アトラ様、黙っていてください。公安部の皆様は、国民を守るために当たり前の行動をして下さいました。感謝と共に、一国民として大変安心致しました。ラリマー様からの書状にもあるように、ご迷惑をお掛けした事を改めて謝罪に伺いますが、本当に申し訳ございませんでした。まずは主に代わってお詫び致します」
「い、いや…」
「公安部長様にも、どうか謝罪を受けていただけますよう、お伝え願えますか?」
「…分かりました、伝えておきます。おい、鍵を開けろ」
なんだよ、結局外でやんのかよ。
所詮、汚ねー所じゃ嫌だってか。
まだまだケツの青いやつはこれだからダメだね!
俺様の手腕にかかれば、牢だって楽園に変えてやるのによ!
「さ、アトラ様。参りますよ」
「シトリン、相変わらず堅ぇな!どこに行くっつーんだ。俺様は腹が減ってんだよ」
俺様の腹の鳴る音を完全に無視をして、公安部から出ていく。
こいつが来たって事は親父の所へ行くしかねーか。
おお、シャバの空気は旨いね!
青空までもが俺様の帰還を祝福しているようだ!
「なーシトリン、どっかで飯食わねぇ?俺様朝から何にも食ってねーんだよ。親父ん所には後で行けばいいだろ?」
俺様に背を向けて歩いていたシトリンが、ゆっくりと振り向いた。
お?飯屋に着いたか?
「理解力、学習能力、洞察力、全てが底辺のアトラ様にも分かるよう、簡潔に申し上げます」
「あ?なんだって?なにりょく?」
「お父上がお待ちでございます。今すぐこちらの馬車で本邸へ向かいます」
さあお乗りください、ってその細っせぇ体のどこから出してんだか分からねぇ力で、俺様は馬車に押し込まれた。
畜生、飯は後回しかよ。
親父に会ったって腹は膨らまねーんだよなぁ。
けどめちゃくちゃ馬車を飛ばしてくれてんな。
俺様の空腹をわかってくれたのか?
そうだよな、よく考えりゃ親父んとこに行けばタダ飯が食えるぜ!
さすが俺様の執事なだけあるぜ!ん?兄貴の執事なんだっけか?
まあ俺様に執事なんて必要ねぇからな!俺様を縛るものは、俺様しかいない!
腹の音すら鳴らなくなった頃、ようやく実家へ着いた。
この門を潜るのも二年ぶりか。
よっこらせ、と長旅に疲れた体を動かして、家の扉の前に立つ。
ここでも仁王立ちが完璧に決まったな!
思い返せば二年前、ここから俺様の旅は始まった。
そう、あれはまだ雪の残る朝だった…
「アトラっ!この馬鹿息子がっ!!!」
俺様が遠い日の記憶を懐かしんでいたら、目の前の扉がいきなり開き、頭上に拳が降ってきた。
さすが親父、二年経っても腕が鈍っていない。
「よっ親父!元気そうだな?親父の拳骨も久しぶりだなぁ。相変わらず痛くねーよ」
「お前の馬鹿過ぎる頭には効かないだろう!一体どこで何をやっていたんだ!コランダムから報せをもらって青ざめたぞ!」
「あ?総団長には会ってねーけど?」
「正門の前で可笑しな言動をしていたんだろう!王都へ来る時には必ず先に連絡をしろと…あれ程きつく言ったのを忘れたのか!?」
「そうだっけか?そんな事よりさー、俺様腹が減ってんだよ。飯は出来てる?」
「お前という奴はっ!コーラル、アトラをいつもの部屋へ入れてくれ!決して外には出さないように!」
「畏まりました。アトラ坊っちゃん、お元気そうで何よりですなぁ。さ、お食事のご用意を致しますぞ、こちらへ」
「コーラルのオッサンもな!また太ったんじゃねーか?つぅかシトリンと本当に親子かよ?あいつの頭の堅さは誰に似たんだ?」
「そうでございますねぇ…確かに堅すぎるやもしれませんな」
だろ?全く、見たことねぇけど母親に似たのかね?
まぁどっちでもいいか!それよりも飯だ、飯!
意気揚々と歩く俺様が案内されたのは、本邸にある俺様専用の部屋。
何故か窓に鉄格子が嵌まっていて、鍵も外側からしか開けられないようになってんだよな。
親父の愛には、さすがの俺様も照れるぜ!
そうまでして、俺様にここに居て欲しいなんてな!
そうこうしている間に、旨そうな匂いが近づいてきたぜ!
ヒャッホゥ!久々のお袋の味!
って、飯作ってんの料理長だっつーの!あ?そういやお袋はいねーのか?
ま、その内会えんだろ。とりあえず飯に取り掛かるか!
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「コーラル、鍵はきちんと掛けたかい?」
「はい旦那様、三つ全てを掛けて参りましたぞ」
「ふぅ…これでしばらくは安心だねぇ。あいつを外に出したら最後、王都中に詫びを入れて回る事になる。公安部には迷惑をかけてしまったね…」
「アトラ坊っちゃんを真面目に相手をした門番達にも、気の毒な事をしてしまいましたなぁ」
「コランダムがすぐにアトラだと気づいてくれて、本当に助かったよ。彼等にも詫びの品を送っておいてくれるかい」
「畏まりました。しかし、奥様はまだアトラ坊っちゃんが帰ってきた事を知らないので?」
「ああ、ベリルは必ずアトラを逃がしてしまう。茶会から帰ってきても、何事も無かったように頼むよ」
「使用人一同、徹底致しますぞ。では」
「はぁ…アリーが発った後で本当に良かったねぇ」
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次から次へと運ばれてくる飯を綺麗に平らげた俺様は、気づけばぐっすりと眠っていた。
二年ぶりに帰ってきたにも関わらず、寝台がふかふかで気持ち良かったな。
今は夜中…ちょい前か?結構長い時間寝てたみてぇだなぁ。
よし、体も頭もスッキリした事だし、ちょっくら夜の街へ繰り出しますかね!
ここの鉄格子をこうやってちょいちょいっと……よし、外れたな。
親父の愛情は充分に受け取ったし、朝までに戻りゃ問題ないだろ。
さーてと、三階の窓からしか出来ない俺様唯一無二の技!
前転回転着地てーーん!!!いっよっと!決まった!
この技も久々だけど全く衰えてない所がさすが俺様!気づいた奴もいねぇな?
よっし、行きますか!待ってろ子猫ちゃん達!
もうすぐ夏が来るな、夜の寒さが気にならねぇ。
今夜は月が輝いていて、灯りにも困らねーし。
今すぐにでも子猫ちゃんを愛でに行きたいが、まずは一杯引っかけて行くか!
この時間で開いてる飲み屋は、っとあそこにするか。
「ちーっす!とりあえず強いの一杯貰える?」
「いらっしゃい、空いてる所へ座んな」
はいよーっと返事をして席を探すと、ふと見知った顔を見つけた。
あれは確か…
「ジャスパーか?久しぶりだなぁ!」
「…まさか、アトラ?」
「まさかでも幻でもねーよ?何だこんな所で。二年経ったら、飲み屋で酒を飲むようになったのか!」
「うるさいな!」
「だってお前、飲み屋は苦手だっつって一度も俺様についてきた事が無かったじゃねーか」
「そんな昔の話は忘れたよ」
「そうかぁ?まぁなんでもいいか!俺様との再会を祝して飲もうぜ!」
「はぁ?なんでアトラとなんか飲まなきゃならないんだよ、僕はもう帰るよ」
「水くせぇ事言うなって!おっちゃん、こいつにも同じ物をくれ!」
ああ、と頷いた酒場の親父が、すぐにジャスパーと俺様に酒を持ってきた。
ついでにつまみも何個か頼んで、改めてジャスパーの顔を見る。
「なんだよ、随分辛気くせぇツラしてんじゃねぇか」
「はぁ?アトラの勘違いだから」
「んー、おっ!そうか!さては女だな!?お前ぇは学院ん時は寄ってくる女達なんか見向きもしなかったよなぁ?どこの女だ?」
「女なんかじゃ無いし。あんなババア…」
「初心者の癖に歳上かよ!ジャスパーもやるじゃねぇか!」
「だから!違うってば。もういいから帰らせてよ」
「そんで他の男に持っていかれた、そんな所か!まぁ分かるぜ、俺様も歳上の女にのめり込んだっけな。世の中には歳上なんかあり得ねぇっつーバカがいるが、それは大間違いだ」
酸いも甘いも全てを知り尽くした女は、どこか影があって目が離せなくなる。
そこへきて重力に逆らえなくなった体は、たまんねぇ程の色気を放っているしな。
ジャスパーも厄介な女に惚れちまったもんだ。
一度歳上の女の魅力にハマっちまったら、脱け出すには相当な時間がかかるぞ!
「いいか、ジャスパー。恋っつーのはよ、忘れようとすればするほど益々のめり込んでいくもんなんだぜ?酒に逃げたって、他の女に手を出したって、なんの解決にもならねぇんだ」
「だから、勝手に話を進めないでくれる?」
「お!この炙りはうめぇな!でな、何が癒やしてくれるかっつーとな、時間だ。好きな間はいつまでも想ってりゃいいんだ。その内、思い出として綺麗な所だけが残っていく」
そう、あれはまだ俺様が旅に出て間もない頃だったか。
マラカイトの端っこにある小せぇ村で、俺様は未亡人だと言う女に一目で恋に落ちた。
あの時の衝撃は、いまだに忘れようったって無理だ。
歳上の女が好みだった訳じゃねぇが、全てを包み込んでくれる包容力、何もかも笑って許してくれる寛大な心、何より男がどうすれば喜ぶのかを知り尽くしていた!
そんな女を好きにならねぇ方がどうかしてる。
しかし、関係は長くは続かなかった。
俺様のたぎる血が、新しい土地を求めて止まなかった。
ついてこいとは言えずに、滅茶苦茶に傷つけて女の元を去った。
ああ、すっぺー思い出だな…だが後悔は無い!
なぜなら、俺様を縛る事は、たとえ誰であろうと不可能だからな!
「だからな、今は辛ぇかもしんねーけどよ、いつかは胸も痛まなくなる日が来るって事だ!これでお前ぇは、男として一皮剥けるんだぜ!その女に感謝しろよ!」
「…アトラと同じ事を言っていたよ」
ん?すっげー小せぇ声でなんて言った?
アトラがなんとか…そうか、俺様にも感謝してるって事か!
「ジャスパー、俺とお前の仲だろ?この位いいってことよ!だがそんなに感謝してるってんなら、この後は一緒に…」
「親父さん、どうせこいつは金を持っていないだろうから、多目に置いていくよ。足りない分はセレスト家宛に請求して。じゃあ僕はこれで」
「ああっ?おいおい、夜はこれからだろうが!」
「これ以上付き合っていたら、僕までバカだと思われるから勘弁して。そして二度と僕の前に顔を出さないでよ」
「まったく、ジャスパーも全っ然変わんねぇのな!それがお前の照れ隠しだって、俺様は分かってるからな!」
「違うし。はぁ…もういいよ、ずっと寝れなかったけれど、バカのお陰で今夜からぐっすり眠る事が出来そうだから。じゃあね」
お?なんだなんだ、やっぱり俺様に感謝してもしきれねーってか!
ジャスパーは昔っから素直じゃねーんだよな。
「しょうがねーな、親父!最後に一番きついのを頼むぜ!それ飲んだって、釣りはあんだろ?」
「あ、ああ。充分だが…行ってしまったよ?いいのかい?」
「あーいいっていいって!あいつとは学院からの付き合いだからな、会おうと思えばいつでも会えるしな!よし、それ飲んだら俺様も行くぜ」
「そうかい…」
やっぱりアイオライトの酒はきついな!
寒さを和らげるために、度数を上げてるって聞いた事がある。
さーてと、酒も飲んだし飯も食ったし。
本日のメインディッシュといきますかね!
「ごっそさん!じゃあな、おっちゃん!待ってろ俺様の子猫ちゃん!!」
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「セレスト家に請求って…まさかなぁ。貴族の世界は俺には分からんな…」
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「やっべぇ急げ俺様っ!」
飲み屋を後にした俺様は、真っ直ぐに女達の待つ店へと向かった。
雪国の女らしく、みんな透き通るような真っ白な肌で、さすがの俺様も久々に盛り上がりすぎちまったぜ。
おかげて、陽が昇る前に親父んとこへ戻ろうと思っていたが、すっげーギリギリだな。
お、門の前に誰かいる?
「アトラ!お帰りなさい!」
「お袋!」
「まあまあ、顔つきがしっかりして…少し頬が痩けたんじゃないの?旅の間はちゃんとご飯を食べていた?」
「もっちろん!毎日たらふく食ってたぜ!げっそりしてんのは別の問題だな!」
「あら、また何か問題を起こしたのね?ラリマーに心配かけては駄目よ。貴方はネリーと違って、真っ直ぐ過ぎる所があるんだから」
「そういや兄貴は別邸か?留学とやらは終わったんだろ?」
「ええ、お嫁さん候補と一緒よ。ぜひアトラにも紹介したいわ!しばらくはアイオライトにいるのでしょう?」
「兄貴もやるじゃねぇか!けどなぁ…俺様はもう行くぜ!」
「え?だって貴方、昨日着いたばかりなのでしょう?もう行くの?」
「だからなんだってんだ!俺様という男を誰よりも理解してんのは、お袋だろ?」
寝間着に一枚羽織っただけで俺様を待っていたお袋を、がっちりと抱き締めてやる。
こんなに冷たくなっちまって…親父は何をやってんだよ!
「アトラっ!!!」
俺様の真後ろから、またしても拳骨が落ちてきた。
おかしいな、なんで親父が門の外から来るんだよ?
おまけにシトリンまで真っ青な顔して突っ立ってんし。
馬がいるっつー事は街にでも行ってたのか?
「だから痛くねぇって。親父、お袋が冷たくなってんぞ?女を凍えさせるなんざ、いくら親父でもどうかと思うぜ?」
「お前が部屋に居ないからだろうっ!鉄格子を破壊して…こんな時間まで一体何処へ何をしに行っていた!ああ、言わなくていい。ベリル、一人にして悪かったね。さあ中へ入ろう。アンバー!すぐに湯の用意をしてくれ!」
「既にご用意致しております。さあ奥様、暖かいお飲み物もありますよ」
「アトラ…気を付けて行くのよ?旅の資金は足りている?コーラル、アトラに用立ててやってちょうだい」
「ベリル、それは私がやるからすぐに湯へ行きなさい」
「そう?じゃあ体に気を付けて、次の国へ着いたら便りをちょうだいね。行ってらっしゃい」
「ああ!お袋も達者でな!」
お袋も相変わらずだな。
昔っから俺様が可愛くて仕方がねぇんだ。
あと半日くらい居てやってもいいが…
お袋が家の中に入った途端、親父の顔が変わったぞ。
「なんだよ親父、ああ、金か?いいってそんなもんは!親父だって若くねぇんだから、大事に遣えよ!」
歳をとった親の心配をしてやる俺様。
こんなに親孝行な息子は、俺様以外にはいねぇな!
「誰がお前のような馬鹿息子に金などやるか!出て行くんならその馬をやるから、一刻も早くこの国から出て行くんだ!」
「え!この馬くれんの?ありがとよ、親父!」
俺様にかかりゃあ、馬なんか無くたってどこへでも行けるけどな!
でもまあ、くれるってんなら遠慮なく…よっこいせ。
「よっし、じゃあみんな!元気でな!」
何も今生の別れじゃねぇし、また顔を出してやるか。
だからそんなに悲しそうな顔すんなよ!
昨日俺様に言い寄ってきた門番に、通るぜと一言告げて、颯爽と王都を後にした。
そーいや、お袋からの手紙に三十の女を養子にしたとか書いてなかったか?
なんだよ、俺様の前に出て来れねぇほど照れちまったのか?
しょうがねーな、なんたって俺様だもんな!
まあいつか会えんだろ!
さて!次はどこへ行くかな!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「だっ旦那様!たった今、花街からこんな物がきましたぞ!」
「なんだって?花街?どういう事だ………請求書?」
「どうやらアトラ坊っちゃんは、昨夜あいていた女性を全て呼び、数十人を相手にしていたご様子で…中には一晩で、平民の一年分の給金を支払わねばならない者も居たようですな…」
「あの大馬鹿息子っ!!!なんという額を…セレストの名を使ったくせに、何が金はいらないだっ!!!コーラル、アンダルサイトの鍛冶屋に、世界一頑丈な檻の注文を出すんだ。次に帰ってきたなら、二度と外には出してはならない!!」
「畏まりました…」
「……花街への支払いも頼むよ。くれぐれもベリルの耳に入らないように」
「……心得ましたぞ」
「あとは、どうかアリーと鉢合わせ無いようにと願うばかりだねぇ」
作中には名前しか出せなかったので、やりたい放題してしまいました…普通の家族と思いきや、とんでもない爆弾を抱えてるという事ってあります…よね?w




