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3. この世界でのお仕事

今日は午後から、私の職場である外交部へ向かうことになる。


こちらでの私の主な仕事は、他国との通訳から文書の翻訳、さらに一番重要なのが自身の帰還方法を調べること。

外交関係の仕事が無い日には王宮内にある図書館に籠って、私のような人が過去にいなかったかどうかを調べている。



この世界はアデュレリアと言う。

やって来てしまってすぐは地球のどこか知らない所なのかと思っていたが、一番最初に話した人が日本語を喋っていた。


だが、正確には日本語ではなくアデュレリアと言う世界のアイオライト王国のアイオラ語だったらしい。

どう見ても顔の造りが日本人離れしているし、村だって日本の田舎とは全く違っていて、石造りの小さな家が何軒か建っていた。


けれど、どう聞いても完璧な日本語だったから、随分流暢な日本語ですね?日本に住んでいた事があるんですか~?

なんて呑気に聞いてしまった。


すぐに村人さんは、この世界にニホンなんて言う国はない、と教えてくれ、むしろこの国では珍しい見た目の私こそ綺麗な発音でアイオラ語を話していると褒められた。


まさか、と思ったけれど…

必死に今私がいる場所と、できる限りこの世界の事を教えてもらった私は愕然とした。


この世界はアデュレリア、五つの大陸と五つの国がある。

その中の四つの国は東西南北に分かれていて、東と北、南とは大きな橋が架かっていて行き来出来るが西に行くには北か南を回って行くしかない。


逆もまた然り。

南北も行き来するには東西を回らなければたどり着かない。


それぞれ橋の入口には関所をかねた街があって、貿易の拠点になっているらしい。

通るためには通行許可証が必要になり、自国の公安部で様々な審査を通り発行される。


そこで私のような黒目黒髪の国はあるのかと聞いたら、五つ目のフローライトという国にはよくある見た目だと教えてくれた。

ただ、フローライト国は東西南北の国の下の方にある群島諸国で、船でなければたどり着かないそうで…。


フローライト国から来たんじゃないのか?と訪ねられて固まること約一分。

そんな国生まれて始めて聞いた私は嘘をついてもボロが出ると思い、洗いざらい自分の状況を話した。


仕事先に向かう途中に目の前が真っ暗になり、倒れると思った瞬間強烈な目眩がしたと思ったら、次に目を開けたら草原の真っ只中だったこと。

寝ぼけているのかと思い、遠くに見えたこの村?を目指して来たこと。


どうやら、この世界の人間ではないこと。

記憶喪失や頭がおかしくなったわけでもなく、本当に何もわからない、と切実に話をした。


ポカン、として私の話を聞いていた村人さんはイマイチ信じられないようではあったけど。

それでもこのまま知らんぷりは出来ないと、自分の家にあげてくれた。


そして公安部の人に頼んで保護をしてもらうと言い、隣の街まで連れて行ってくれることに。

その道中わかる範囲でこの世界や国のことを教えてもらえた事に何より救われた。


そのまま隣街の公安部に預けられて、村人さんの時と全く同じ話をしたのだが、公安部の人はその目眩のせいで記憶を失ってしまったんだろうと。

とりあえず一晩ゆっくり休めと綺麗なほうの牢屋の一室を貸してくれた。


まさかの牢屋…

綺麗ったって鉄格子はまってるし、ベッドはあるけど板つなげただけだし、トイレが部屋の隅っこにあるし、勿論窓もない。


生まれてかれこれ二十九年。

生きているうちに牢屋に入ることになるとは思わなかった…


入口は開けてくれているけどさ、他に捕まってる人もいないけどさ、確かに怪しすぎるとは思うけど!

こんなんだったら村人さんちに泊めてもらえば良かった!


親切がこんな結果って、私の悲しみはどこへぶつけたらいいのだろう…

品行方正、真面目に人生歩んできたのにあんまりだ…。


なーんてしばらくの間しくしくやっていたら、一人の紳士が声をかけてきた。

白髪混じりの茶髪にちょっと太めな体型で、カーキのジャケットを着たおじさん。


優しそうなおっちゃんだ~と思っていたら、それが今の上司であるアイオライト王国外交部の部長、ラリマーさんだった。

どうやら、私が群島諸国の見た目であるにも関わらずアイオラ語が堪能だという情報を耳にしたらしい。


話を聞けば、今度フローライトに行く予定があるのだが、通訳を頼んでいた人の都合が悪くなったらしい。

そのため代わりの人物をさがしていたようだ。


藁にもすがる思い…というか一刻も早く牢屋とオサラバしたい私はとっさにフローライトの言葉もわかる、と言ってしまったのだ。

これがラリマーさんとの長い付き合いの始まりだった。




「ではお嬢さん、試しにフローラ語で何か喋ってみてはくれないかな?これでも挨拶程度はわかるんだよ。」


しまった!と思った時にはもう遅かった。

だって今現在ですらアイオラ語を話しているつもりはなく、私自身は日本語を口に出しているだけである。


本当に話せるかどうか、喋ってみろと言われるに決まっている。

通訳を探してるんだから。


やけくそになった私は、頭のなかにフローラ語フローラ語と、見も聞きもしたことのない国を思いながら自己紹介をした。

脂汗をだらだら流しながら。


『わ、私の名前はありさです。か、か、家族構成は父と母と猫のおはぎと金魚のしらすです。年齢は、成人して約ン年というぼかした表現でごめんなさい。仕事は事務職を…』


「あぁ、もう大丈夫!こんなに綺麗な発音で話せるのなら問題はない。しかし猫のおはぎとは…?金魚とはフローライトの魚かね?」


通じたよ!まじで!?と叫ばなかった当時の自分を頭よしよししてキスしてハグしてやりたい。

あと年齢スルーのインパクトを与えてくれたおはぎとしらすに感謝します。


未だに頭の中のシステムがどうなっているのかはわからないけれど、国の名前がわかればその国を意識するだけで、言葉が自動的に変化して相手に聞こえるらしい。

こんなこと誰にも相談出来ないから、とりあえずバイリンガルを越えて五つの国の言葉が堪能、と言う才女もどきの仮面を被っている。


ただし、言葉がわかる以外は記憶喪失ということで、まわりから勝手に納得された。

私だってなぜこの世界に来てしまったのかなんて説明出来ないから、しぶしぶそういう事にしておくしかなかったんだけど。


「じゃ、アリサさん。身元は私の預かりにしておくから、一緒に来てく」


「行きます!ラリマー様、どうぞよろしくお願いいたします!」


「…ま、牢屋よりは我が家の方が居心地が良いだろうねぇ。」





そんな訳で、後に五か国の言葉が堪能ということを買われて、アイオライト王国の外交部で働かせてもらえることになったのだ。

全ては村人さんのおかげである。


あの人が公安部に引き渡してくれたからこそ、私のこの能力がわかった。

たとえ結果的には半日ほど牢屋に入れられたとしても。


…うん、牢屋のことだけはちょっとだけ文句言いたいな。

もちろん公安部の人にな!


乙女の心に傷を作った罪は、決して軽くはない!

いくら三十を目前にしていたとしても乙女の心は健在じゃ!


知ってるか!

かの有名な青春のシンボルであるニキビだって、三十を越えたら吹き出物って言うんだぞ!


うわぁぁんっ!

華の二十代が散々な状態で終わって行く…



「アリー、また白目になってるねぇ」


「はっ!す、すみませんラリマーさん」


午前中のんびりごろごろ過ごしたあと、午後に軽食を取って、外交部へ行くために部屋着から着替えた私は、仕事中にも関わらず白目をむいていた。

こ、これは老化防止の眼球運動です、キリッ


とかやっている間に、終業時間が迫ってきていた。

あぁ、どうか夕食の話が流れますように。(2回目)



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