勇者ボンバー!
剣と魔法の反物質世界『トロメア』。
かつては人族や妖精族の喜びの声に満ち溢れていた世界は、今では悲しみと怨嗟の声で満ち溢れていた。
そう、この世界に突如として現れた魔王率いる魔族の軍団の手によって。
そこで人族は魔王に対抗するための最後の手段を行使することを決めた。
すなわち、『勇者召喚』を。
世界でも有数の大国『アケロン』。
この国でも、魔道師カロンの主導の下で勇者召喚の試みがなされようとしていた。
古文書によれば、古の大賢者は精神通話の魔術により『日本』という名の異世界の国の人間との接触に成功した。その人物を介して異世界を調べた大賢者は、異世界の人間は途轍もない力を持っている事に気付いたという。
異世界の人間を召喚する試みがなされたことは歴史上ないが、成功すれば魔王に対抗することもできるかもしれない。
その一縷の希望に縋って、世界中の国で勇者召喚の研究がされていた。しかし、そうする内にもいくつもの国が一夜にして焼け野原となり、魔王により滅ばされるのが先か、勇者召喚に成功するのが先か、世界の未来はそこに託されていた。
そしてとうとう、魔道師カロンは勇者召喚の魔術を編み出したのだ。
その日、世界の希望を背負って勇者召喚がなされた。
夕日に照らされた小道を、一人の少年が歩いていた。
彼の名は『御堂 聖』。
剣道部の稽古が終わって下校している最中だった。眠そうな顔をしているので、どこかパッとしない見た目だが、よく見れば顔立ちは整っており、その瞳の奥には強い意志が秘められていた。
彼が小腹が空いたのでコンビニで肉まんでも買おうかと考えていると、背後から名前を呼ばれ振り返った。
手を振りながら駆け寄ってきたのは、彼の幼馴染の『清水 優奈』だ。彼女はテニス部で今日は早目に部活が終わったので、友人と一緒にファーストフードに寄っていた。その帰り道、幼馴染の少年の姿を見かけ、急いで追いかけたのだ。
少年が彼女に答えて気だるげな態度で片手を挙げた時・・・
少年の足元に巨大な魔方陣が浮かび上がった。
急に足元に不可思議な模様が生まれた事に少年少女が目を剥いた次の瞬間、少年の姿が消えた。足元の魔方陣と共に。
少女が少年の名前を叫び、彼の居た筈の場所に駆け寄ったが、そこには少年がいたという痕跡は何一つ残っていなかった。
少女は必死に彼を探したが、彼の姿はどこにもなかった。
少年はもう、この世界にはいなかったのだ。
アケロン国の王城の地下。極秘裏に作られた勇者召喚の魔方陣が光を放った。
勇者召喚を行った魔道師カロンが、勇者召喚を見届けるために集まった国王とその一人娘である絶世の美少女と呼ばれる王女、国の大臣や騎士団長たちが、一斉に魔方陣の中央に注目した。
光の中、御堂聖という名の少年が召喚され、ふわりと床に降り立った。
その次の瞬間・・・
魔方陣の設置された地下室が、いや、アケロン王城そのものが閃光に包まれた。
「魔王陛下。アケロンの王都が消滅しました」
アケロン国より遥か東、魔王城の玉座の間に駆け込んできた伝令の声が響き渡った。
「・・・そうか」
魔王城の玉座に座する絶対者、すなわち魔王が鷹揚に頷く。
身長3m近い巨体は、鋼のような漆黒の筋肉を備えた肉体美を体現していた。
光のない漆黒の双眸が目の前ではないどこかを射抜くような凄まじい眼光を放っていた。
「これで、人族の領域の三分の一以上が焦土と化しました」
「・・・」
魔王は玉座からゆっくりと立ち上がると、バルコニーを出て人族の国がある筈の西方を睨み付けた。
流石にここからでは遠く離れたアケロン国の空は見えない。
それでも魔王は、腕を組んで睨み続けた。
「一体、何が起きている?」
人族が勇者召喚を試みている事は魔王も知っていた。
だが、人族はおろか魔王でさえも知らなかった。
この世界が、『日本』という国がある異世界の物質とは正反対の存在である反物質でできている事を。
召喚された勇者が降り立った瞬間、勇者の肉体と床が対消滅を起こし、全質量がエネルギーに変換され核爆発が起きた事を。
「うぅむ・・・」
魔王の全く知らないところで世界は滅亡の危機に瀕していた。
とある国。
国王と国の重鎮たちが、深刻な顔で顔をつき合せていた。
「これが、世界を救う最後の希望なのだな」
そうして今日も、元気に勇者召喚が行われる。
無から有は生まれません。エネルギーから物質を作ろうとすると物質と反物質が生まれ、この二つが接触するとエネルギーに戻ってしまいます。
この世界ができたとき物質と反物質が生まれ、反物質より物質の方が多かったため、この世界ができたといいます(何で対になる筈なのに差があったんでしょう?)。
もし反物質の方が多かったら、世界は反物質でできていたかもしれません。




