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第9話 新入生エキシビジョンマッチ 1

 手を振り下ろすと同時に、宙に浮かんでいたゴーレムが地面に叩きつけられ、二度と行動できないほどにバラバラに砕け散った。


 一息つく間もなくすぐ後ろで巻き起こった土煙の中から、新たなゴーレムが拳を振りかぶった姿勢で飛び掛ってくる。


「ちっ!」


 振り向き様に右手を前に突き出し、魔法を発動する。

 次の瞬間、ゴーレムは見えない何かに掴まれたかのように宙でピタリと動きを止めた。


 そのまま右手を振り下ろし、先の一体同様思いっきり地面に叩きつける。


「はい、そこまでです!」


 二体目のゴーレムも動かなくなったのを確認しながら次を警戒していると、紫藤先輩がパンパンと両手を打ち鳴らした。


「凄いですね千頭君。うちの学年でもここまでの人は中々いませんよ?」


「ありがとうございます。……ところで先輩、最後のやつ本気じゃないですか?」


 教え子の成長が嬉しいのか、うんうんと頷く先輩に、俺は思いっきりジト目を向けた。


「そ、そんなことありませんよ?」


 否定しつつも思いっきり動揺しながら、慌ててゴーレムの残骸を蹴り潰す先輩。

 訓練を始めて最初の頃はただの泥人形だった見た目は、徐々に格好がスリムになってきて、今のなんて全身に鎧を着込んだ、まさにゴーレムと呼ぶに相応しい出で立ちをしていた。


 そのまま証拠を隠滅している先輩に無言の抗議を続けていると、何故か先輩は顔を真っ赤にして怒り出した。


「だ、だって、千頭君の魔法、反則じゃないですか!? 何ですか、本当にこれただのサイコキネシスなんですか? 視界に入った物をあんなに自在に動かせるなんて、ずるいですよ!」


 そんなこと言われても、と楓たちの方に助けを求めるように視線を向けても。


「うーん、確かにあれはないよね」

「チートだね、チート!」


 と片や苦笑いを浮かべる楓に、片やビシリと擬音の鳴りそうな勢いで俺を指差すハンナ。白木さんも控えめながらもしっかりと首を上下させていて、誰も味方をしてくれる気配がない。


「今までサイコキネシスを使うマギは何人も見てきましたが、千頭君のは規格外です。一時的にゴーレムの動きを止めるだけならまだしも、壊れるくらい勢い良く叩きつけられるなんて初めての経験ですよ」


 今度は下を向いてブツブツと呟き始めていた先輩だったが、しばらくすると回復して俺たちの方に向き直った。


「さて、明日は本番ですし、ちょっと早いですがこれで終わりにしましょう。大丈夫。本番でもこの調子でしたら、皆きっと優勝できますよ。お疲れ様!」


「「「「ありがとうございました」」」」


 一週間監督者役を引き受けてくれた紫藤先輩に、全員で頭を下げる。

 この訓練のお陰で全員魔力の制御に磨きがかかったし、明日の作戦もばっちりだ。


 優勝経験者のお墨付きも貰えたことだし、今日は言われた通りに早めに休もうと思っていると、グラウンドの隅にいた集団が駆け寄ってきた。


「お疲れ様! タオルどうぞ!」「いよいよ明日だね。頑張って!」「喉渇いてない? スポーツドリンクあるよ!」「さあさあ、マッサージしてあげるよ!」


 あっという間に囲まれて、揉みくちゃにされる。訓練を見学していたクラスメイト達だ。


 実は今までも遠くから見学している子は何人かいたのだが、いよいよ本番前日ということでいつもより大勢のクラスメイトが応援に来てくれていたのだ。


 ホームルームの時に何故か目の血走った佐久間先生にも強く肩を握られながら激励されたし、よく見ると遠くで練習している他のクラスの選手らしき人達もかなりの人数に囲まれている。

 有名な一族の当主であるリーゼのお姉さんも見に来るみたいだし、思っているのよりももっと注目度の高いイベントなのかもしれない。中学の頃にやった球技大会の延長みたいなものだと考えていた。


「わ、わ、わ……」


 楓とハンナはにこやかに対応しているが、白木さんは完全にテンパっている。大勢に囲まれるのは苦手なようだ。


「ありがとう。でもそろそろ明日に備えて休んでおきたいし、また明日試合が終わってからお願いしていいかな?」


 プレッシャーにも強くなさそうだし、明日の試合に影響があったら困る。

 俺は出来るだけ自然に皆と白木さんの前に体を割り込ませると、角が立たないよう笑顔でお願いした。


「あ、ご、ごめん。そうだよね、明日は本番だもんね。早めに休まないと」


 俺の顔を見て目の前にいた女子は何故かビクッと体を震わせると、納得したように体を引いてくれた。別に謝る必要はないんだけどな。


 そのまま解散の流れになったので、全員でゾロゾロと寮のほうへ向かって歩く。


「それじゃあ千頭君、また明日」「遅刻しないようにねー」「お疲れー」


 当然男女で寮は違うので、集団の中で唯一の男子である俺は途中で皆と別れることになる。

 最後まで手を降って挨拶してくれるクラスメイト達に手を振り返し、一人で男子寮の方へと足を向ける。


 実にいい感じだ。性別は違えど、クラスメイト達との距離は確実に縮まってきている。これは目標達成どころかクラスの全員と友人になるというのも夢じゃないかもしれない、と考えていると背中をクイクイと誰かに引っ張られた。


「ん?」


 振り返ると、後ろに白木さんが立っていた。

 何だろう、別に忘れ物もないはずだけど。


 俺が不思議そうな顔で見つめていると、白木さんは言うべきかどうするか悩むように視線を周囲に彷徨わせる。


「あ、あの……。そ、その……ありがとう」


 結局数秒の逡巡の後、沈みかけの太陽のせいでは説明できないほど耳を真っ赤に染めて、下を向いたままそれだけを言った白木さんは、戸惑った俺が返事を返す前に皆のほうに走っていってしまった。


 もしかしてさっきのお礼か? 別に気にしなくていいのに。




   ◇




 土曜。エキシビジョンマッチ当日。

 昨晩は早めに寝たお陰で、今日の体長はすこぶる良好だ。


 このイベントに入場行進や選手宣誓といった面倒くさいプログラムはないらしく、開会式は選手抜きで行われ、その後すぐに試合が始まるらしい。


 多くの生徒たちが寮を出て会場であるドームの入り口へと向かい、より良い席を取ろうと足早に歩く中、俺は選手用の控え室のほうに足を向けていた。こっちに用があるのは選手と一部のスタッフのみなので、通路に他の人の姿は見当たらない。


 まだ試合は始まってもいないのに、どこからか歓声が聞こえてくる。まるでドーム全体が熱気に包まれているみたいだ。

 まだ春先だっていうのに、額にジワリと汗が浮く。気にしていないつもりだったけど、俺も結構緊張しているみたいだ。


「よう、調子はどうだ?」


 軽い喉の乾きを感じて途中の自動販売機で飲み物を買っていると、後ろから声をかけられた。


「凪か。観客席に行かなくていいのか? いい席埋まっちまうぞ」


「女子率が高すぎる。後ろのほうで、他のクラスの男子とでも一緒に応援してるさ」


 もうすぐ開会式が始まる時間だというのに特に慌てた様子もなく、苦笑を浮かべた凪が横に並ぶ。


 そう言えば俺は他のクラスの連中とほとんど面識がない。凪は中学の時からマギ用の教育機関に通っていたらしいし、その頃の知り合いでもいるのだろうか。


「昨日の練習にも応援に行きたかったんだが、流石に女子に囲まれて応援っていうのは性に合わなくてな。で、どうだ? 勝算はあるのか?」


「一応な。個人的な目的もあるし、最低でも優勝しないといけない」


 実力を示してギースベルト家に認めてもらう。

 じゃないと本当にギースベルト家に嫌われていた場合、権力を使って就職先を潰されたりするかもしれない。

 気になって軽く調べてみたら、マギ関連については本当に巨大な権力を持っているみたいだ。俺一人の内定を取り消させるくらいわけないだろう。ないとは思うが、直接的な嫌がらせを受ける可能性もある。


 今日の結果に俺の将来がかかっているかもしれない。そう考えると緊張のあまりお腹が痛くなりそうだ。


「大きく出たな。じゃあそろそろ俺は行くよ。頑張れ」


 俺の言葉に凪は驚いたように目を見開くと、軽く肩をたたいて観客席の方へ行ってしまった。ここと観客席は真逆の方向にあるのに、わざわざ激励のためだけに来てくれたらしい。


「ああ、頑張るよ。絶対に負けないさ」


 誰もいなくなった通路で俺は一人で呟いた。


 大丈夫、楽勝で勝てるはずだ。このルールなら。

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