人気の定食屋さん
とある町にある定食屋さん。
昼時は近所の工場で働いている人たちが押し寄せてきて、それが落ち着いてくると学校帰りの高校生やなんかがちらほらと入ってくる、地元ではそこそこ人気のある定食屋さん。
しかしこの定食屋さんには、他の定食屋さんとは違う人気の秘密があった。
「ありがとうございましたー!」
いつものように、最後のお客さんを見送ってから暖簾を外してシャッターを閉める。
これで一日の営業はほとんどが終わりとなる。
しかしこの定食屋さんでは、ここからが本番と言っても過言ではない。
「さてと。やりますか」
そう呟いた店主が向かったのは、店の裏口。
そしてそこに置いてあった座布団にあぐらをかくと、目を閉じて集中し始めた。
「大将は?」
「アレやってる」
「あー、またアレですか」
共に経営をしている奥さんと、アルバイトの女の子が呆れ顔でその店主の背中を見ていた。
「よくやりますよね」
「昔から変な人なのよ」
「とんちんかんちん言ってそうです」
「隣で木魚でも叩いてあげれば?」
「いいです。遠慮しておきます」
話のネタにはもってこいなのか、奥さんとアルバイトはクスクス笑いながら店主を見る。
と、店主の耳に届いたのか、チラッと不服そうな視線を向けたことで、二人は顔を見合わせて店内の後片付けをするために離れていった。
そしてうんうんと唸りながら、店主は首をコキコキと鳴らす。
そして3分後。
「閃いた!」
声を上げるなり、立ち上がって店内の片付けをしていた二人のもとへと駆け寄る。
「明日は『嘘っぱちのハンバーグ定食』だ!」
「うわっ! ネーミングセンス悪いですね」
「せっかく考えたのに!」
「それは私もちょっと…」
「お前まで…」
「どんな定食なんですか?」
「ハンバーグなのに肉を使わないハンバーグさ!」
「おから?」
「…うん」
ドヤ顔で言う店主の自信を、あっという間に打ち砕いた奥さんの一言。
がっくりと肩を落とす店主を見て、ケラケラと笑いながら後片付けを進めていく奥さんとアルバイト。
とある町の定食屋さん。
そこは地元ではそこそこ有名な定食屋さん。
人気の理由は、味はもちろんだが、一見すると内容が分からない名前の日替わり定食が人気なのだ。
博打気分で注文する工場の従業員や学生に人気がある。
そんな定食屋さんは、今日も明日も人気である。
近年稀に見るゴリ押しでした。ごめんなさい。