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落ちてません

 一人になれる時間が最近、少なくなっている。

 わたしは制服から部屋着に着替えて、ベッドに寝転がる。

 数分間目を閉じて、深呼吸を繰り返す。

 気持ちを落ち着けてから、

「っしょっと」

 スマホを取り出し、今日、新しく登録した彼のアドレスを眺める。

「学年一位様は、納得するまで突き詰めるタイプなのかな?」

 わたしも勉強はできる方ではあるが、やはり部活の片手間だ。

 さすがに学年一位には手が届かない。

 おそらく、彼が一年間、誰にもトップの座を譲らなかったのは、要領が良いとかではなく、分からないところはとことん突き詰めるというその性格にあるのだろう。

「……四葉ちゃんも、なにをしているんだか」

 次に、陸上部のエースである霧生木四葉のアドレスを表示してみる。

 今回、サクヤ君が例の相談を持ちかけてきたのは、彼女に原因がある。

 サクヤ君は『幻覚でも見ているかも』と言っていたが、



 わたしには、なにが起こったのか、分かっている。



 四葉ちゃんに無許可で話せる内容でもなかったし、内緒のことだ。

 サクヤ君の前では何も知らないという演技をさせてもらった。

 だが、全てを知っていたと言えば嘘になる。

 四葉ちゃんが飛び降りなんていう危険行為に及んでいたことは初めて知った。

 ある特別な理由によって、彼女は即死するような、強烈なダメージを負わない限り死ぬことはない。が、それでも即死なら、死ぬのだ。地上から何メートルかも分からない高所から落ちて死なない確率は一体どれくらいか。

「メール、してみようか」

 学校でシャワーは浴びてきたけれど、疲れまでは取れない。

 起き上がるのも億劫で、寝転がったまま、文字を打つ。

〈今日、四葉ちゃんと同じクラスのサクヤ君が来ていたのは知っているよね? 彼がどうも君が学校の屋上から落下したところを見たらしいんだよ。事実かどうかは分からないけれど、事実かもしれないと思えるだけの証言を得られている。もし、事実であるなら、教えてもらえないかな?〉

「んー」

 気遣いが足りていないかなと思い、少し文章をいじって、それから送信する。

 思いのほか、返信は早く来た。

〈その証言って、なんですか?〉

 事実かどうかを聞いたのに、この返答……。

 これはたぶん、誤魔化そうとしているな。

 まあ、いい。四葉ちゃんも頭の回る聡い子だ。ここはあえて乗ろう。

〈四葉ちゃんらしき人が落ちたのに、落下地点に誰もいなかったらしいよ。あいにく、わたしはお化けやら幽霊を信じない性質だからね。そんなことが起こり得るとしたら、四葉ちゃんしか考えられないよ〉

 面と向かっていれば、にやりと笑っていただろう。

 送信完了、と。

「うわっ、と……早いね」

 一分も経っていないのではないだろうか。

〈私は落ちてません〉

「言うタイミングが一歩遅いよ」

 声で返答して、メールを打つ。

〈なら本当に幽霊かお化けだったのかな? いや、それより、どうするつもりだい? 彼は四葉ちゃんのことを疑っているよ。事の運び方次第では、四葉ちゃんの体質を彼に話す必要が出てくるかもしれないけど?〉

〈体質のことは、先輩が言っていいと思ったなら言っても構いません。祭君なら口止めさえすれば広まることはほぼないでしょうし〉

〈了解だよ〉

 そう打ってから、ちょっと思考を巡らせて、書き足す。

〈もしも、サクヤ君の言うことが正しいのなら、落下しないことをオススメする。わたしは四葉ちゃんに死んで欲しくない。四葉ちゃんの体でも、即死クラスのダメージなら死ぬことはあるんだろう? 心配になるから、やめて欲しい。いいね〉

〈だから、落ちてません〉

 もしもと言っているだろうに。

 丸分かりだぞ。

「……ふむ」

 とはいえ、証拠はなにもない。

 四葉ちゃんの体質を考えれば当たり前だが、サクヤ君の証言以外には何も痕跡は残っていない。彼女が頑なに否定し続ける限り、落ちたことにはならないだろう。

 ……本人から許可が出たことだしね。

〈ちょっと、話したいことがある。明日の放課後、いいかな?〉

 彼のアドレスを引っ張り出し、メールを送信した。


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