ふざけんな
俺が、霧生木さんの暗闇をどうにかできるとは思わない。
だが、なにもできないとは、思わない。
せめて、この場で霧生木さんの気持ちを少しでも良い方向に変えなければ。
「霧生木さん」
「今度は祭君? なに?」
ねめつけるような、黒々とした視線を送られた。
「霧生木さんの、今の気持ちを当ててみようか?」
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ」
あえて、挑発するような口調で、問いかける。
霧生木さんの望んでいることを実現するためには、これが一番の近道のはずだ。
「霧生木さんは、今、凄く不安になってるはずだよ。尊敬する柳先輩を、前回よりももっとキツイ言葉で拒否したんだからね。もし、これで先輩との関係が終わってしまったらってドキドキしてるに違いない」
ドキドキしてるのは俺の方だろうと思いながらも、ここでやめるわけにもいかず、なんとか口を動かし続ける。霧生木さんと、先輩を仲直りさせるためには、まず霧生木さんの本心を本人に認めさせて、その上で話を進めるのがベストのはずなのだ。
「霧生木さんは、ずっと先輩に気付いて欲しいと願っていた。だから的外れなことを言われてついイライラして言い返した。だけど、それは本心じゃないはずだよ。できれば、柳先輩にそうじゃないって言い返して欲しいんじゃないかな? そうやって、柳先輩と真正面からぶつかって、でも最後は元通りの関係になる。そんなことを、期待しているんじゃない?」
「……」
「違う?」
自信たっぷりに(見えるように)言ってやると、霧生木さんはぐっと奥歯をかみ締めてから、搾り出すような声音で「だったら、なに?」と返してくる。
「なにというか、それが本心なら、そのまま先輩に言えばいいじゃんって思っただけ。意地を張ってないで、素直に――」
「うるさい」
「うるさくない。それが霧生木さんの本心なら、隠す必要なんてない。そうすれば、霧生木さんが望んでいることだって、すぐにでも――」
「うるさいって言ってるの!」
吼えられて、さすがに、やめる。
「祭君、いい加減にして。それを他人から言ってもらって、ようやく気付く程度の気持ちしかないような人を、私は尊敬なんかしないし、したくない。祭君は私のためを思ってやってるつもりかもしれないけど、逆効果だよ。完全に、希望が絶たれた感じなんだけど」
「違う。霧生木さんが素直にならないのが悪い。家族問題だかなんだか知らないけど、この前から、距離を取り続けているのは霧生木さんの方じゃん。柳先輩とちゃんと、真剣に話したいなら、まず霧生木さんの方から近寄るべきだよ。なんでも人のせいにしてないで、自分から歩み寄ってみればいいだろ?」
歩み寄った結果、絶望しか得られず、今があるのは俺だって分かってる。
でも、今と一年前の先輩は違うことに、霧生木さんは気付くべきだ。
そう思っての言葉だったが、
「ふざけないで」
戻ってきた言葉は、否定の嵐。
「私が、人のせいにした? これまで、どれだけ私が一人で頑張ってきたのか、祭君は知らないでしょ? 家族問題だかなんだか知らないけど~、じゃないよ。何度も言ってるけど、事情を知らない人間が、綺麗ごとばかり言って踏み込んで来ないでよ!」
「その事情を霧生木さんは話してくれないでしょ? それなのに、事情を知らないもなにもないじゃん。俺はそうじゃなくて、霧生木さんが――」
「うっさい! 関わらないで!」
「なら、事情は話さなくていい。だからせめて、先輩と――」
「無理!」
「あの……」
「出て行って!」
「……」
ヒステリー状態で、聞く耳を持たないどころか、話をさせてくれない。
「えーっと、とりあえず、霧生木さん、事情を知らずに口出ししたのは謝るよ。ただ、そうじゃなくて……おい」
「……」
今度は耳を塞いで嫌々ポーズだ。
なんとか話を進めようと謝る形にしようとしたが、そもそも聞いてくれない。
「霧生木さん!」
「黙って!」
聞こえるように、大きな声を出したら黙れと一括される。
「……」
なんか、だんだん腹が立ってきた。
霧生木さんのして欲しいこと、望んでいることを忘れたわけじゃない。
でも、この態度はどうなのだろうか。助けようとしている人間を拒否して、なのに、退けば退いたでまた付かず離れずの距離を保ってくるのだろう。今の俺のやり方がミスだったとしても、なにか、違う気がする。ただ、助けようとする側に甘えているだけじゃないだろうか。
こっちは全力で助けようと動いているのに、話すら聞こうとしないこの態度はふざるけるなと言いたくなる。
「霧生木さん、あのさ、今のは俺が悪かったよ。俺は単純に、先輩が昔とは違うってことを言いたいだけで、対立する気はない。そこは理解してもらえるかな?」
「……」
「霧生木さん」
「……」
本当に聞こえてないのか、聞こえてない振りをしてるのか分からないが、返答がない。
「……はあ」
ため息一つ。
ごちゃごちゃ考えるのはやめた。
そっちがそういう態度なら、こっちだって同じ態度でいってやる。
「……え? なに?」
俺は今まで持ち続けていた傘を放り捨てて、霧生木さんとの距離を詰める。
耳を塞いだままの霧生木さんの目の前まで近づき、
「ふ・ざ・け・ん・なっ!」
大声で、怒鳴った。




