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頑張ってください

 無意識のうちに、何故か、息を止めていた。

 息をするのを忘れてしまったという方が正しいだろうか。

 聖さんの言葉が、俺のなかでガッチリ噛み合ったからだ。

 聖さん自身がそういう体験をしているからこその言葉なのだろうが、俺も、先輩もそんなことは考えもしなかった。

 何故か。

 原因が家族関係である以上、それをなんとかするべきだと思うからだ。なんとかできなくても、そこに原因があるのだから、無視するなんてもってのほかだと思うからだ。

 けれど、そうじゃない。

 思い返してみると、霧生木さんが相談した誰もが『難しい問題だから』と最後は口を濁していた。それは、霧生木さんから一歩退いている、ということだ。

 共感して欲しい、どんなことでもいいからはっきりとした意見が欲しいという霧生木さんにとって、それは最悪の対応ではないだろうか。家族問題だからという理由で強くなにかを言うことができず、遠慮してしまって、結果的に霧生木さんを一人ぼっちにしてしまった。

 なりふり構わず突っ込めということではない。

 ふざけた気持ちで意見すればいいというものではない。

 そうではなくて、真剣な気持ちで、真っ直ぐぶつかること。共感しようと努力すること。

 それが、大切なんじゃないだろうか。


 それで全ての謎が解ける。


 霧生木さんは、誰からも望んだ反応がもらえないことに絶望していたのだ。

 その絶望が、「関係ない」という言葉に表れていた。助けようとする俺や先輩を拒否したのは、相談したところで『話を聞く』程度で終わるだろうと思ったからだ。事実、先輩は一度失敗しているし、俺も飛び降り現場で「話くらいは聞ける」と言った。霧生木さんは、話を聞くという、優しく聞こえる絶望を知っていった。だから拒否した。怒ったのだ。

 反面、霧生木さんは望んだ反応をくれる人をずっと捜し求めていたはずだ。

 絶望しつつも、どこかでまだ望みを捨てきれていなかったのだ。それが、俺や先輩への態度に表れていた。飛び降りの件を知られているのを承知の上で、普通に接してきたのは、なにかが変わるかもしれないと思ったからだろう。周囲に変に思われないように、という以上に、自分のことを気にしてくれている俺たちに期待していたのだ。さらに、一度拒否した先輩と付かず離れずの距離にいたのは、尊敬する先輩なら、なにかに気づいてくれるかもしれないと思ったからだ。変な態度になってしまったのは、単純に拒否してしまったがために、距離感がつかめなかっただけだ。

 辻褄は、全て合う。

《サクヤ先輩》

「なに?」

《頑張ってくださいね》

 聖さんは、どこか柳先輩に似た口調で、励ましてくれた。

 他人事ではないなにかが、その言葉には含まれているような気がした。

「分かってるよ」

《あ、お姉ちゃ――サクヤ君》

「柳先輩?」

《この後、すぐにメールするよ。突破口は開けた。明日から行動開始しよう》

 柳先輩の声音にも、熱がこもっていた。

 根本から救うことはできなくても、霧生木さんのために、なにかができるかもしれない。そんな気持ちになっているのだろう。

 俺は、「了解しました」と、即答した。

 最後に、また返してだのなんだのという会話を聞きつつ、俺は通話を終了した。

「……」

 聖さんの助言で、突破口は開けた。

 だけど、まだ足りない。

 霧生木さんの悩み、苦しみに共感し、自分の意見をぶつけるためには、まずそれを話してもらわなければならない。関係ないの一点張りを続ける霧生木さんを、どう動かすか。

 最後に残った問題は、そこだけだ。

「ん……さっすが」

 通話終了してから一分も経たないうちに、先輩からメールが来た。

 誰かを助けるためとあらば、自分の時間を削る先輩らしい、凄まじいスピードだった。

 これから、最後の作戦会議だ。

 自分勝手な助けたいという気持ちを満たすためではなく、霧生木さんを本当の意味で助けるために、あともう少しだけ、頑張ろう。



 俺は、受信したメールを開いた。

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