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しかしはっきりと

《もしもし?》

「はいはい聖さんの方だね。なに?」

《なんんですかそのてきとーな反応は》

「姉妹喧嘩は電話中じゃない時にして欲しいと思ってね」

《通話料はこっちも持ちになるんですから、良いじゃないですか》

 そういう問題じゃないんだが。

「で、用はなに?」

《あ、そうでした! ええと、あの時以来、なにも連絡していなかったので、そのお礼をば、と思いまして》

「……」

《あれ? どうしました?》

「や、意外と律儀だなと思って……」

《サクヤ君! 人の妹をなんだと――お姉ちゃんは黙ってて!》

 いや、だから通話中に喧嘩するなと。

 というか、柳先輩、いつまでそこにいるんですか。

《とにかく、ありがとうございました! 先輩のおかげで、無事、仲直りできましたし、お兄ちゃんもお母さんに見返せたって喜んでましたよ》

 弾んだ声音で、本当に喜んでいることが分かる。

 あの時は、深刻そうな表情ばかりしか見られなかったけれど、聖さんは本来こんな調子なのだろう。

「わざわざお礼なんて、別にいいよ。俺もシュンに教えてる最中にいろいろ勉強になって、点数伸びたし、お互い様だよ」

《いえいえ、お礼は言わせてください。助かったのは事実ですから》

「そう?」

《はい。お兄ちゃんもお姉ちゃんも、仲直りした後、あたしに助言してくれたのが先輩って聞いて、すっごい驚いてました。お姉ちゃんは家に来るところまでは予想してたみたいですけど、あまり先輩のことを評価していな――聖! いつわたしがそんなことを言った!》

 ごそごそと向こうでなにやら動きがあり、

《サクヤ君! 今のは聖の勝手な憶測だよ。驚いたのは事実だけど、君のことをそこまで過小評価していない。むしろ、頼りにしているくらいだ!》

 もう勝手に二人でやってろよ。

 ま、でも。

「先輩」

《なにかな?》

「聖さんの前だと、雰囲気変わりますね。先輩が躍起になって声を張り上げるとこなんか始めて聞きましたよ。恥ずかしがってるのは見たことありますけど、普通に怒ったりしてる先輩って始めてかもしれませんね」

《む……。聖の前だと、姉妹だし、同姓なのもあって素が出やすいだけだよ。そんなことを一々言わなくてもいいじゃないか》

「や、ちょっと、面白いです」

《面白いって――お姉ちゃん! いちゃつくの禁止!》

 そろそろこのパターンも飽きてきた。

「……用件がそれだけなら、切っていいですか?」

《ちょっと待って(ください)!》

 なんでそこだけ息合ってるんだよ。

 あと、向こうはどういう状況なんだ? 完全に二人の声が重なって聞こえたんだけど。

「じゃあ、なに?」

《サクヤ君》

 先輩の方が出た。

《申し訳ないんだが、口を滑らせてしまって、四葉ちゃんのことをほんの少しだけ、聖に話してしまったんだよ》

「はい?」

 それ、あまりよろしくないことでは?

《聖が助けてもらったお礼に、話を聞いて力になりたいって聞かなくてね。本当に申し訳ないんだけど、上手く説明して、どうにかしてもらえないかな? 聖は君に懐いているようだし、なんとかなると思うんだが……》

 ほんの少しだけ話していて、上手く説明してどうにかして欲しい、か。

 聖さんには伝わらない、ぎりぎりの言葉だった。

 たぶん、体のことや、飛び降りの件までは話していないけれど、部活かなにかで、問題が起こっているというのは話してしまったと。そういうことだろう。

 で、力になりたいと聞かない聖さんに、上手く説明する役目を、俺に任せ――所謂、丸投げというやつですか。ミスしたのは先輩なんだから、説明くらい先輩がして欲しいんだが。

《頼めるかな?》

「……分かりました」

 と言うしかないだろう。

 あっちには隣に聖さんもいるのだ。下手に返して、余計な情報を与えるわけにはいくまい。

 不本意だが、要望通り、説明できるぎりぎりの説明をして、回避しよう。

《じゃあ、よろしく頼むよ》

 そう言って、先輩は聖さんにスマホを返したようだ。

《ではではサクヤ先輩。しっかり聞きますので、説明お願いします》

「えーっとね……」

 それから十数分、俺はかなり頑張った。

 言葉を選び、不自然のないようフィクションを加えて、説明した。さすがは柳先輩の妹と言うべきか、なかなかに鋭い質問もいくつか飛んできたが、柳先輩のフォローもあって、回避し続けた。

 正直、滅茶苦茶疲れた。

「――というわけだな」

《なるほど。要約すると、四葉先輩は、事情を説明してくれないし、聞こうとしても関係ないの一点張り。お姉ちゃんの電話の際に偶然聞けた会話で、家族問題だと分かったけれど、それしか情報はない。でも、今が良好な状態とはとても言えないから、どうにかしたい。サクヤ先輩は助けるために現在、頑張って情報収集していると》

「そんな感じだね」

 さらっとまとめあげてくれた。

 こういう要領の良さ、頭の回転の早さは柳先輩と似ているな。

「で、どう思う?」

 いくつか嘘をついているので、説明があやふやな点はあるものの、大事なところは説明できている。第三者視点から見ると、どうなるのか、聞いてみたくもある。ひょっとしたら、柳先輩も同じように思って、あえて聖さんの気持ちを汲んだのかもしれない。

《うーん。なんと言いますか》

 聖さんは数秒黙り込んでから、



《四葉先輩のして欲しいこと、分かるような気がするんですけど……》



 自信なさそうに、しかしはっきりと、そう言った。


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