もしもし?
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俺は奔走した。
毎日の勉強は欠かさないようにしながらも、霧生木さんのことをできる限り調べた。柳先輩やシュンに頼み、部活の様子を教えてもらい、霧生木さんがクラスでよく話している女子にも聞き込み調査をした。
当然のことながら、柳先輩を通して霧生木さんにはなにをしているのか、全て報告してある。
連絡する度に、「やめてくれ」との返信があるらしいが、俺はやめなかった。
やめて欲しいという言葉が、霧生木さんの本心とは思えなかったからだ。
飛び降りをしなければ保てないような精神状態が、良好なわけがない。
そんな状況を望んでいる人間など、この世にいるはずがない。
そう、思ったからだ。
「うーん……。かなり集まってきたけど」
霧生木さんの情報をルーズリーフにまとめてみた。
時系列順に、なにが起こってどう状況が変わったのか、書き出した。
聞き込みをするうちに、いろいろな情報が入ってきた。
まず一つは、数多くの友達に霧生木さんは相談していた、ということだ。
関わらないで欲しいという今の言葉とは全く逆で、自分から積極的に相談を持ちかけたらしいことが判明していた。柳先輩だけでなく、探してみると、他にも何名か、霧生木さんの体のことを知っている人はいた。そしてなにより重要なのが、柳先輩より霧生木さんの家庭事情について理解している女子生徒がいたことだった。
その女子生徒も、深くは知らないとのことだったが、どうも霧生木さんの悩みの元凶は血の繋がっていない兄のようで、その兄が悪さをしているようだった。たぶん例の『お金を盗んだ』というのはそのお兄さんだろう。
「で、その相談が一年前の六月中旬くらい、と」
並べてみると、その辺りが転機だったようだ。
柳先輩を含め、六月中旬辺りまでは霧生木さんは積極的に人に相談していた。
父親が亡くなったのが、約一ヶ月前の五月初旬。つまり、その後からお兄さんが悪さをし始めて、霧生木さんは助けを求めた形になる。
が、そこからが分からない。
どうして、助けを求めることをやめてしまったのか。
霧生木さんの明るい人柄の影響か、一年前から友達は相当数いたようだ。柳先輩だって頼りになる存在だ。解決策を提示してもらえなくても、せめて、話を聞いてもらうくらいはできるはずだ。
何故、話すことすらやめてしまったのだろうか。
「……ん?」
スマホが着信を知らせてきた。
もう夜の十時を過ぎている。
一体誰かと画面を見ると、なんと、聖さんからだった。
「なんだろ?」
会った日以来、聖さんとはまったく連絡を取っていない。
月野家騒動が収束して、用などなにもないはずなのだが……。
「もしもし?」
不審に思いながらも出てみると、
《せ~んぱい! 連絡くれないからかけちゃいました! 大好きですっ!》
よし、切ろう。
即座に通話を強制的に終了させた。
おふざけかなにかは知らないが、こっちは今、真剣に悩んでいるところなのだ。
が、
「……はあ」
諦めるつもりはないようだ。
また電話をかけてきた。
「聖さん? なに?」
《今、聖が言ったことは冗談だからね? 気にしないように!》
「あれ? 柳先輩?」
姉の目の前であんなことを言ったのか。
柳先輩の恋愛苦手事情を考えると、聖さんのスマホを奪い取って、慌ててかけ直したというところだろうか。
「分かってますよ。それで、用事は――」
やや呆れつつ、問いかけようとすると、
《お姉ちゃん! 返してよ!》
《また妙なことを言ったら今度は本気で怒るよ》
《お姉ちゃんには関係な――あ、そっか。彼氏だもんね~》
《なっ――》
《大丈夫だよ、あたしは人の彼氏に手を出さないから》
《うぅ……》
会話が丸聞こえですよ二人とも。
あと、柳先輩、その設定まだ否定してなかったのか。真っ赤になって縮こまってる姿が容易に想像できますよ。




