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「最後の科目だ」

「そうだな」

 テスト期間が終了し、テストが返却され始めた。

 テスト前まで、シュンと単語がどうの文法がどうのXがどうのと毎日毎日顔を突き合わせて遅くまで勉強していたのもあり、互いに普段より点数が良くなっていた。

 誰かと勉強するって、案外良いことなんだなと俺は初めて感じた。

「じゃ、行ってくる」

「おう」

 名簿順にテストが返却され、シュンの番が回ってきた。

 月野母に認めてもらうためには、最低でも平均七十五点以上は取らなければならないらしい。これまでの結果をまとめると、落差はあるものの、ギリギリ七十五点をクリアしている。

 この数学のテストさえ乗り切れれば、成功だ。

 シュンが教師からテストを受け取り、点数を、見る。

 瞬間、

「よっしゃあ!」

 雄叫びをあげた。

 どうやら、上手くいったようだ。

「八十超えてたぜ!」

 席に戻ってくるなり、わざわざテストを見せてくれた。

「おお。マジか……。余裕でクリアしてんじゃん」

「おうよ。サクヤのおかげだな。ありがとう!」

 真正面からお礼を言われて、照れくさくなる。

「祭。早く来い」

「あ、はい」

 とか言ってる間に俺の番がやってきて、テストを受け取る。

「どうだったよ?」

 これまた席に戻るなりシュンが身を乗り出してくる。

「あー、九十四だったわ。こんなもんかな?」

「……分かっちゃいたが、しれっと言われると微妙にうざいな」

 なにか、理不尽な怒りをぶつけられつつも、ほっとする。

 悪い点数だったら、シュンに気を遣わせてしまう可能性もあったのだ。普段どおり、高得点で嬉しい限りだ。

「ほら、静かにしろー。答え合わせするぞ!」

 教師の一言で、俺もシュンも教壇の方へ向き直り、耳を傾ける。

「……」

 とはいえ、これだけ合っていると、正直、あまりテストの解説など必要ない。

 間違っていたところなど、だいたい自分で予想がついている。

 復習になるし、聞いておいて損はない。いつもなら真剣に聞くところなのだが――正直、今は聞く気分ではなかった。



《お金を盗んだ、という言葉が聞こえてきてね》



 数日前、柳先輩からそんな連絡を受けた。

 霧生木さんに電話した際、たまたま聞こえてしまったものだとか。

 柳先輩の推測では、家族ないしはそれに類する誰かが金銭問題で争っているいるのではないか、とのことだった。

 霧生木さんの身内の誰かなのか、それとも別人なのかは不明だが、霧生木さんははっきりと声が聞こえていない段階から、なにが起こっているのか判断できていたらしい。おそらく、日常的に起こっていて、はっきり聞くまでもなく分かってしまう、という状況なのだろう。

「……」

 ノートに、助ける、と書いてその後に疑問符をつけてみる。

 正直、ここまでの難題だとは思ってなかった。自殺でなくても、飛び降り癖がつくくらいのことだから、相当面倒なことだとは予測していたが、手に負える気がしない。月野家のように、誰かと誰かが喧嘩しているとか、テストの点数がどうとか、そのくらいならいくらでも救いようがある。

 だが、お金の問題となると、俺たち高校生に出る幕はない。

 そんなのは大人が考えるべきことで、働いてもいない子供が、ましてやその家の人間でない者が関わる事柄ではない。

 それも、『盗んだ』となると、最悪、警察沙汰だ。

 霧生木さんは、一体どれだけの重みを背負っていることになるのだろうか。

「……」

 今度は『話を聞く?』と書いてからぐしゃぐしゃと消した。

 友達にできるのは、話を聞くくらいだ。せめて、痛みを分かち合うことができれば、と思ったけれど、そんなことは誰かがとっくの昔にしているだろうという結論に至る。

 霧生木さんは、先輩に相談したらしい。

 先輩なら、助けられないまでも、話を聞くくらいはちゃんとしたはずだ。

 先輩でなくても、友達の多い霧生木さんのことだ。相談した人は他にもいるだろう。

 それで、どうにもならなかったからこそ、今がある。

 ただ、話を聞くだけでは意味なんてないのだ。


 霧生木さんは、一体なにを望んでいるのだろうか?


 詳しい事情はまだ分からない。

 助けられる保障はない。むしろゼロに近い。

 それでも、なんとかしたいという気持ちはある。

 なんとかするためには、霧生木さんの望んでいることを知らなければならない。


 家族のなかに、犯罪者がいるかもしれない状況で、なにを望んでいるのだろうか。


 解決できれば一番良い。

 それが、ベストだ。最高の終わり方だ。

 でも、俺や柳先輩にそれができるとは思えない。

 解決ではない、別のなにかを、もし霧生木さんが望んでいるのなら、叶えてあげたい。

 飛び降り癖のついてしまった、危ういクラスメイトを、せめて死と隣り合わせの世界から、拾い上げてやりたい。

「……」

 考えろ、と自分の言い聞かせる。

 霧生木さんとは、少ないけれど言葉を交わしている。

 クラスでも、毎日顔を合わせている。

 柳先輩やシュンに頼めば、部活中の様子だって、知ることができる。

 そのどこかに、サインがあると信じたい。

 霧生木さんを完全に救うことはできなくても、せめて、飛び降りをやめられる環境を作ってあげたい。


 ここからが、正念場だ。


 考えろ、俺!


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