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構わないけれど?

《それで、用件は以上ですか? 陸部のなにか重要なことかもと思ってオーケーしたんですけど。テスト近いですし、勉強してる最中だったので、手短にお願いしたいです》

 続けて、四葉ちゃんは言う。

《あ、もし飛び降りの件なら、これ以上はもういいです。どうしようもないと思いますので。先輩も勉強あるでしょうし、受験生なんですから、私にばかり構っている場合ではないですよね?》

「えーっと……」

 切り出す前に、封じられた感じになってしまった。

 まさに、その飛び降りの件で電話したのだけれども……。いや、この程度でひるんでいられない。相手の話を聞く姿勢は捨てないまま、言うべきことは言わないと。

「あのさ、四葉ちゃん」

《なんですか?》

「テストも大切だけど、後輩の生死に関わる問題も放ってはおけないとわたしは思うよ? もういいですと言われた手前、難しいかなと思うんだけど、事情を説明してもらえないかな?」

《ですから、それについてはお断りします》

「そこをなんとか」

《無理です》

「そう言わずに」

《切っていいですか?》

「あ、ごめん。ちょっと待って」

 参ったな。

 本当に聞く耳を持たないという感じだ。単に食い下がってもしょうがないか。

 ちゃんと、聞いてみよう。

「四葉ちゃん」

《だから、なんですか?》


「わたしと、中途半端な距離を保ち続けているのは、なにか意味があるのかな?」


《……》

「勝手な推測だから、間違っていたら申し訳ないけど、四葉ちゃんはやろうと思えば今まで通りに、わたしと会話することができると思う。飛び降りのことをわたしやサクヤ君に知られているのを承知の上で、しれっと生活していたくらいだからね。なのに、今の状況はどういうことなのかな? 部活では今までより距離を取りつつも、完全に離れることはないし、今だって、飛び降りのことを聞かれたくないなら、電話になんか出なければいいと思う。それに、ついさっきも、飛び降りの話題を出したのは四葉ちゃんの方だよ? もし、わたしが陸上部の件で電話をしていたのなら、自分から話題を提供したことになる。もしかして、それは――」

《違います》

 すっぱりとした声音で、はっきりと否定の言葉が電話の向こうから聞こえた。

《先輩との距離がつかめないのは、この前、先輩のことを拒否してしまったせいです。それ以上でも、それ以下でもありません》

「……本当に、かな?」

《本当です。今、電話を取ったのだって、飛び降りの話題がどうとかではなく、単純に陸部のことだったら応じた方が良いと思っただけです。それに、先に謝ってきたのは先輩の方ですから、どちらが先に、ということなら先輩が先になりますよ》

 なにか真意があるのかと数秒、思考を巡らせてみるが、言葉の上での矛盾はない。

 わたしを拒否してしまったが故に距離がつかめなくなった……。十分、あり得ることで、否定の余地はない。

 陸上部云々、どちらが先に云々も、そう言われてしまうと返す言葉もない。

 思い過ごし、なのだろうか。

 サクヤ君も半端な距離を保っていることは変だと感じていたようだった。けれど、そこになにかしらの意思が介在していると思うのは、考えすぎだろうか。

《――》

 と、不意に、電話の向こうが騒がしくなった。

 すぐ近くではないようだが、誰かと誰かが、争うような、そんな声が聞こえた。

「……? なにか取り込み中かな?」

 おそらく、四葉ちゃんは自室にいるだろうから、ドアは閉めているはずだ。それでも聞こえてくるということは、相当な声量だろう。

 霧生木家でなにかあったのだろうか。

《えと、せ、先輩》

「四葉ちゃん?」

《あー、っと、その……き、切っていいですか?》

「……?」

 明らかに、焦っている声音だった。

 なにかが起こっており、その原因を、四葉ちゃんは知っている、という状況だろう。

「うん。別に構わないけれど?」

 ここで無用に話を長引かせて、さらに印象を悪くしたらそれこそ今後、事情を聞けない可能性が高くなる。

 そう思って、返答を待っていると、代わりにどたどたと走る音が聞こえてくる。

 電話を切る動作すらもどかしいのだろうか。

 既になにかしらの行動を開始しているようだった。

 ガチャリとドアが開く音とともに、



《あんた、また人のお金盗んだでしょ!》



 という女性の声が聞こえ、さらに、



《やめてお母さん!》



 四葉ちゃんの声が聞こえるのと同時に、通話は切れた。


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