そういうことね
「それじゃあ、昨日、柳先輩が外にいたのは、それに関係があるってこと?」
「そうなります。昨日も、お姉ちゃんはお兄ちゃんを庇いました。前回よりも点数が良くなっていましたので、成果が出ているんじゃないかってお母さんの意見に真っ向から対立しました。ただ、お母さんも、毎回のようにお姉ちゃんからそんなことを言われてますので、我慢の限界がきたのか、聞く耳を持たなかったんです。お兄ちゃんを、少し頭を冷やしなさいって外に締め出したんですよ」
「察するに、それなら自分も一緒に行くと柳先輩も外に出たと?」
「はい。でも、そうして二人で出たところで、ちょっとあったみたいで……」
「まあ、そうだろうね。一緒に出て、二人で仲良く話すなり頭を冷やすなりしていたのなら、柳先輩とシュンが一緒にいなかった理由が説明できない」
聖さんは力なくこくりと頷き、続けた。
「お姉ちゃんから聞いたことで、実際に見てはいないんですけど、お兄ちゃんが、一緒に着いてきたお姉ちゃんに『どういうつもりだよ』って怒ったみたいなんです。お姉ちゃんは怒られたこと自体が予想外だったみたいで、なにも返せなかったって言ってました。それで、お兄ちゃんはそのままどっかに行ってしまったらしくて……。あとは、サクヤ先輩の知ってる通りです」
「そっか。そういうことね」
すべて、合点がいった。
困ったなと思う。
はっきり言って、今回の月野家騒動に、悪い人間は誰もいない。
ちょっとしたすれ違いが原因だ。
「そのせいで、今日は朝から家のなかの空気が重くて、お姉ちゃんは早々練習に行っちゃうし、お兄ちゃんは逆にいつもより遅く練習に出たし、お母さんはぶすっとしたままほとんど喋らないし、あたしの居場所がなくなるしで大変なんですよ」
沈んだ表情の聖さんを見て、うーんと考え込む。
当然のことだが、お母さんに非はない。少々行き過ぎているように思えなくもないが、柳先輩の成績や部活の結果が良すぎるせいで、それに届かないシュンを心配しているだけだろう。単なる親心だ。
柳先輩にしたってそうだ。お姉ちゃんとして、頑張っている兄弟を庇いたいという気持ちを否定することなんてできやしない。一緒に外へ出るという選択を取ったのも、きっと一人で外に放り出されたら、たまらないだろうと思ったからだ。
シュンも、決して間違ったことはしていない。テストの点数が良くなるよう、努力していたのは俺も知っている。そして点数は事実、あがったのだ。それは褒められることであっても叱られることではない。さらに、着いてきた柳先輩に対して怒ったというのも気持ちは分かる気がする。庇うだけならまだしも、外にまで一緒に着いてこられるというのは、正直、大きなお世話じゃないだろうか。カチンと来ても仕方ない。
でも――。
「聖さん、柳先輩だけど、今日の朝、いつもの調子じゃなかったんだよね?」
「そうです。なんか、どんよりしていたというか、普段のお姉ちゃんっぽくありませんでした。早く家を出たのも、居たくなかったからじゃないかと思います」
「そっか」
確信する。
一番ダメージを受けているのは柳先輩だ。
柳先輩は、その一件が起こる前に、霧生木さんの落下現場を目撃し、霧生木さんと話している。その内容を思うと、どうして道端に蹲るほどダメージを負ったのが分かる。
柳先輩は、ずっと、誰かのためを思って行動していたのだ。学校では陸上部部長として皆をまとめ、霧生木さんのことで必死になっていた。家に帰って来れば、兄弟たちを母親から守るために身を挺していたという。心身ともに、相当な負担がかかっていたはずだ。
それを、昨日一日で、どちらも否定されたのだ。
霧生木さんには関係ないと拒否され、弟からも怒られたという。
自分のでき得る最善策を取り続けていたはずが、一日にして全て壊れたのだ。
そりゃ蹲りたくもなるだろう。




