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本当に

「自殺、しようとなんかしてません。死ぬ可能性があるのは認めますけど……死のうと思って飛び降りているわけじゃ、ないです」

 暫し、先輩は口をつぐみ、

「なら、なにをしているんだい?」

 再度、尋ねる。

「先輩には、関係ないです」

「どういう意味かな?」

「そのままの意味です」

「……」

 緊張感が場を包む。

 霧生木さんが先輩を慕っているのは事実だ。先輩も承知の上だろう。だからこそ、現場さえ抑えれば、事情を聞けるのかもしれないと踏んだのだ。

 その霧生木さんが、先輩を拒否した。

 それはつまり、誰にも今回のことを話す気はない、ということだろう。

「先輩、一つ聞きたいんですけど」

「なんだい?」

 霧生木さんは、半ば、睨みつけるような視線を向ける。

「こうやって、つきまとって、なにをするつもりだったんですか?」

「なにをするって……四葉ちゃんが死ぬかもしれないと知ったから、放っておけなかっただけだよ。そして、四葉ちゃんとこうして会うことができれば詳しい事情も聞けると――」

「本当に、そう思いました?」

 先輩の言葉を遮り、霧生木さんは瞳をぎらつかせる。

 挑戦的な声音だった。

「私は柳先輩と、祭君が飛び降りについては知っているものだとして動いていました。要は、知られている前提で、誤魔化そうとしていたわけです。現場を抑えたからって、その状況が変化しますか? 『思う』が『事実』になっただけですよね。たとえ事実になって、誤魔化すことができなくなっても隠すことはできます。違いますか?」

 無意識のうちに、心のなかで、違わないと答えていた。

 霧生木さんが今、口にしたことは先輩と話していた。『誤魔化す』が『隠す』になるだけではないかと。でも、俺も先輩も、おそらく現場を抑えて言い逃れできなくすれば、少なくとも先輩には心を開くのではないかと思ったのだ。

「四葉ちゃん、事情を話せと強要しているわけじゃない。ただ、せめてこんなことはやめて欲しい。事情を言いたくないならそれでもいい。ただ――」

「だったら、口出ししないでください。事情も知らない人が、上っ面だけで判断してあれこれ言うのは良くないと思いますよ」

 聞く耳を持たない。

 そんな感じだった。

 事情を話せと言えば話さないと言い、違う要求をすれば事情を知らない人間が口出しするなと言う。これでは、どうしようもない。

「じゃあ、一つだけ。さっきも確認したけど、これは、自殺じゃないんだね?」

「そうですよ。自殺じゃ、ありません」

「分かった……。サクヤ君、行こう」

 すっと立ち上がった先輩に「いいんですか?」と質問する。

「今は、四葉ちゃんが自殺しているわけではないことが分かっただけでも良しとするべきだよ。それ以上は、四葉ちゃんの言った通り、事情の知らない人間が口出しできるものではない」

 そのまま、先輩は歩き出す。

 どこか、苛立っているようにも見える。

「霧生木さん……」

「なに?」

 スカートの染みはまだ広がっていた。

 どうして霧生木さんがこんなことをするのか、分からずじまいだけど、自分で自分の体を傷つけていることは事実だ。そんなことは、するべきではないし、して欲しくもない。

 俺は数秒迷ってから、

「話を聞くくらいなら、いくらでもできるから」

 そう口に出した。

 誰かの悩みを自分の力だけで解決できるとは思わないけれど、話を聞いてあげることくらいはできる。柳先輩だっているのだから、ひょっとしたら力になれるかもしれない。

 そんな風に考えて、出した言葉だったけれど、霧生木さんの返答は苛烈なものだった。

「善人ぶって良い顔見せないで。少しは頭使ってから声に出した方がいいよ」

 なんと返してみようもなく、結局、俺は先輩の背中を追うしかなかった。

 そして――



 帰宅後、夜遅くに俺は、コンビニへ向かう途中で柳先輩が道端に蹲っているのを見つけた。

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