自殺するには
「結論を出すには情報が足りなすぎる。四葉ちゃん本人に話が聞ければ良いのだけれどね」
「……そのためには、落下現場を抑えることが第一、ですか」
「そうゆーこひょだね」
ミニトマトをもきゅもきゅと噛みながら頷かれる。
真面目な話をしているのに全く締まらないなこの人。
「……」
数週間前、霧生木さんが乗り越えてしまったフェンスを眺める。
どうして飛び降りなどということをしてしまったのか、聞きたいと思う。
その理由は、どんどん増え続けている。
最初は、クラスメイトだから気になった。それだけだ。
次に感じたのは、もう二度と人が落ちるところなんて見たくないというモノだ。
その次は、先日、実際に長時間話してみての感想だ。裏になにかあるような、不気味なものも感じたけれど、それ以外はいたって普通の、変わったところなんてない女の子なのだ。死なせたくない。
まだある。霧生木さんには、柳先輩がいる。これだけ心配してくれる人が近くにいるというのはどれだけ幸福なことか、霧生木さんは分かっているのだろうか。近くで、ずっと一緒にいるからこそ分かる。柳先輩のためにも、死んで欲しくなどない。
理由は、どんどん増え続けている。
日に日に、霧生木さんをなんとかして助けたいと思うようになっている。
「とにかく、現場を抑えることが第一だよ」
「はい」
先輩の一言に、俺は声に力を込めて返した。
◆
午後七時半。
一時間ほど前から、俺と先輩は勉強をやめ、屋上と睨めっこしていた。
幸い、休日でもこの時間まで残っている人はそう多くなく、不審がられていない。
「先輩、一ついいですか?」
「うん?」
これもいつも通り、まだ残っている人へ迷惑にならないよう声を落として話す。
「霧生木さんはどうしてこの時間に落下したんですかね? それこそ、図書館が閉まった後なら、誰にも気づかれることはなかったと思うんですが……」
「そのくらい自分で考えたらどうだい?」
くるくるとサイドポニーを回して、興味なさげに言われてしまう。
「考えても分からないから聞いてるんですけど」
「はあ……。これだから今の若者は……」
先輩だって若者でしょうに。
「いいかい? 夜の学校っていうのは、プロの犯罪者ならともかく、一般人にとっては結構セキュリティがしっかりしていて入りにくいところなんだよ。セキュリティに引っかかったら警備会社の人がすっ飛んで来るよ。そうなったら飛び降りどころじゃなくなるだろう? そうでなくても、図書館が閉まる時間には先生方もほぼ帰宅する。当然、玄関の鍵を閉めてね。まさか窓を割って入るわけにもいかないし、学校に侵入すること自体が不可能なんだよ」
「なるほど。だから図書館が閉まるか否かというギリギリの時間に来ていると」
「そういうこと。強化された体を持つ四葉ちゃんにとっては半端な高さの建物じゃ飛び降りても意味がない。ここらで一番高い建物は御櫻学園だし、この時間に飛び降りるのは理にかなっているよ」
納得する。確かに周辺の建物で一番高いのはこの学園だ。それも一般開放されている分、生徒が帰った後も遅くまで開いている。自殺するにはもってこい――。
「……?」
ふと、引っかかりを覚える。
自殺するにはもってこい……?
自殺方法はそれだけじゃないはずだ。電車に突っ込むでも、首を吊るでも、こう言っちゃなんだがいくらでも方法はある。どうしてそのなかから飛び降りを選んだのだろうか? ただ死にたいだけなら、苦しいだろうが首を吊るとかの方が良いはずだ。肉体が強化されている霧生木さんだ。飛び降りなんていう不確定な方法で自殺する意味がない。
それに、俺が見た時、霧生木さんは落ちた後すぐに、その場から離れている。
生きる希望をなくし、自殺しようとした人間が、そんな素早い動きができるだろうか。本当に自殺しようとしたのなら、誰にも見つからないよう逃げるなんて真似をする意味はない。
なにかが、おかしいような……?




