四葉ちゃんの父親が
「す、すまない……。そういうコトを全く意識していなかった。昔、シュンや聖にこういうことをよくしていたから、ついそのノリで……」
もごもごと言い訳のようなものを口にする。
毎度のことだが、先輩、自分のペースでなくなるとホント弱いな。あと普段とのギャップがありすぎて面白――もとい可愛い。
「特に、聖にはよくしていたから……。うぅ……」
「ええと、聖さん、って?」
「三つ下の妹……」
「ああ、三人兄弟って言ってましたね。名前、初めて聞きました」
三つ下ということは中学三年生だろうか?
なんとなく、先輩のミニチュアバージョンを想像する。
「……」
おお、可愛いな。
「そ、それよりもだね!」
「はい?」
「四葉ちゃんのことでちょっと考えたことがあるから聞いて欲しい! いいかな!」
「全力で話を逸らそうとしてませんか?」
「別にいいだろう!」
「いいですけど」
これ以上いじると先輩の許容量を超えそうなのでやめておく。先輩が勝手にやって勝手に自爆しただけのような気もするけれど。
「四葉ちゃんが落下する原因について、考えてみたんだよ」
まだほんのり頬を赤く染めたまま、先輩は語る。
「四葉ちゃんが自殺未遂をした原因が分かれば、現場を抑えた時に説得できるかもと思ってね」
「ですね。なにか思い当たる節でもありました?」
「いいや、思い当たる節はなかったよ。でも、推測はできる」
俺は白米をもぐもぐしながら続けてくださいとジェスチャーを送る。
「四葉ちゃんは学校生活で不自由しているような見えない。成績も良い方だし、部活では人気者だ。エースとしての自覚を持って、しっかり練習に取り組んでいるし、そこに不満はないように思える」
そりゃそうだ。
俺がそもそも、本当に落下したのが霧生木さんなのか疑った理由の一つにそれがある。学校ではいつも明るく、誰とでも分け隔てなく話し、成績も上位で部活も上手くいっている彼女がそんなことをする必要がどこにあるのか。怪奇現象のせいでその理由がすっとばされていたが、霧生木さんかどうか、という点では疑問に思ったことだ。
「だから、学校外でなにかあったのではないかと、わたしは思う」
「学校外?」
先輩は口に厚焼き玉子を入れて、頷く。
「うん。つぅはりへ」
「食べてからでいいです」
もぐもぐごくん。
「つまりね、わたしは家族かなにかで問題があるんじゃないかと考えている」
「どうしてですか? 学校外だからといって、家族であるという保障はないと思いますけど」
「もちろん確定はできないよ。ただ、一つだけ思い出したことがあるんだよ」
一度、言葉を切って、先輩は言った。
「去年、四葉ちゃんの父親が亡くなってるんだ」
「何度か、わたしは相談されたことがあった。父親が亡くなった後、家族内の雰囲気が少しずつ悪くなっているとかなんとか……。ただ、相談を受けたといっても他人の家庭事情だからね。大した返答はできなかった。なんて答えたかは覚えていないけれど、四葉ちゃんが望んでいた回答はできなかったと思う」
それに、と付け足す。
「霧生木家はちょっと、普通の家よりも入りづらいとこあるから……」
いつでもすらすら語ってみせる先輩にしては珍しく、言い淀んだ。
その理由を、俺はもう知らされている。
霧生木さんの、体のことだ。
親御さんと、兄弟がいるなら兄弟が、彼女の体についてどんな風に思っているのか全く検討がつかない。ただでさえ、他人の家の事情なのだ。深く突っ込んだ意見を言うのは憚られる。その上、強化人間だかなんだか分からないがそんなコトまで絡んでくるのだ。『雰囲気が悪くなった』と一口に言っても、霧生木家の場合、より複雑になっていることは明白だ。
「霧生木さんの父親が亡くなったのって、どうしてですか?」
「車での事故らしいよ。大きな事故に巻き込まれたみたいで、新聞にも出ていたと思う」
事故か。
せめて病気とかで、話す機会を十分に得られる状態での死ならまだ良かっただろうに……いや、親が死ぬのに良いも悪いもないか。
「じゃあ、今回のことは霧生木さんの父親が亡くなったのが大本の原因ですか?」
「ううん。さっきも言ったけど断定はできない。そういう相談を持ちかけられたことがあるから、その可能性が高いというだけだよ」
先輩は断定できないと言うが俺には正解な気がした。
おかしな体を持って生まれてきてしまった少女を、最も身近な家族がどう思うか。
いや、その前にその『家族』というのは本当に家族なのだろうか。血の繋がった家族なのだろうか。そこからしてあやふやだ。
よしんば血の繋がった本当の家族であっても、気味悪がられても仕方がない。マッドサイエンティストが関わっているとすると、家族が了承してそうなったのかも問題になる。了承していたとしても、本当にできると思っていたかどうかも分からない。実際に生まれてきた結果、人間ではないと蔑まれることも考えられる。
そして、亡くなったという父親がもし霧生木さんの良き理解者であったのなら。
家族内で居場所がなくなり、危険行為に走っても無理はないのかもしれない。




