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どうせなら

 今年のゴーウデンウィークは上手く休日が重なり、五日間連続で休みとなる。良いのか悪いのかは人によるだろうが、個人的には嬉しい限りだ。

 ゴールデンウィークが明けたら中間テストまでそんなに時間がない。半端に平日を挟んで課題が出るくらいならば、復習に専念できる方が良い。

「……」

 ちらりと視線を横に滑らせると、同じ考えなのか、勉強している人が目に映る。

 俺は現在、御櫻学園の図書館にいる。

 普段であれば、休日は学校に来ることなく家で過ごしているのだけれども、今回は霧生木さんの件がある。朝から学校へ来て勉強していた。

 俺と先輩がゴールデンウィーク中にやろうと言っていたのは、『休日の監視』が主な内容だ。これまでは平日しか監視していなかった。理由は多くあるが、一番の理由は互いに時間が取れないことだった。

 土曜日は基本的に陸上部の練習があるとのことで、ほぼ一日中体を動かしっぱなしだそうだ。とてもじゃないが、その後さらに残って監視をする体力などないとか……。日曜日はオフの日が多いらしいのだが、唯一の休日だ。無理は良くないと俺から止めていた。

 俺は俺で休日は家で勉強することが通常の過ごし方のため、家を抜け出すのにそもそも理由が必要になる。友達と遊んだことなどほぼゼロに近い俺が、突然、休日に家を抜け出すというのも不自然だった。

 だが、ゴールデンウィーク中は違う。

 ゴールデンウィークは長く休みが続くため、陸上部の練習は生徒に無理をさせないよう午前中だけだったり午後だけだったりする。一日だけ午前からぶっ通しで練習が入っている日があるらしいが、それだけだ。

 俺は俺で、長い休みだし、たまには誘惑の少ない学校の図書館に篭って勉強するのも云々と、親へ言い訳ができる。

 つまり、今までできなかった『休日の監視』が可能となるのだ。

「ん?」

 と、机の上に置いてあったスマホがメールの着信を知らせるライトを点滅させた。

 時間は正午を過ぎている。

 今日は確か、午前中の練習のみのはずだから、柳先輩からだろう。

「……」

 指を滑らせて内容を確認し、俺は弁当と貴重品を持って図書館を出る。

 図書館は飲食禁止のため、一日中いたい場合は昼食時に抜けなければならない。

 柳先輩とは昼食時に、どこかで落ち合おうと約束してあった。

「やあ」

「ども」

 指定された場所は屋上だった。

 今日は快晴で、少し暑いくらいだが、運動をするわけでもない。ぽかぽかして暖かいという程度だ。

「霧生木さんやシュンにはなんて言ってあるんです?」

「四葉ちゃんには何も聞かれなかったから言ってない。シュンにはいつも通り、残って図書館で勉強すると言ってあるよ」

 霧生木さんからのアクションがなにもないというのは気になるが、怪しまれてはいないはずだ。決して意図していたわけではなかったが、この間、三人で勉強した際、俺は休日に学校へ来ることはないと話していたのだ。シュンも霧生木さんも、まさかこうして柳先輩と会っているとは思わないだろう。

「昼食、早く食べてしまおう。こっちはずっと運動していたからはらぺこでね」

 俺が座ると同時に先輩が言う。

「あ、はい」

 相槌を打って、弁当箱を開いた。

「おお、お母さんにお手製かな? 美味しそうじゃないか」

「そうですか?」

 言いつつ、横目で先輩の弁当も確認する。

「先輩の方も大差ないように見えますけど」

「そうかな? そう言ってもらえると嬉しいけれど」

「へ? もしかして先輩、自分で作ってます?」

「一応ね。うちは朝食と夕食は母親が作るけど、昼食は各自でどうにかすることになってるから」

 二人でいただきますと手を合わせてから食べ始める。

「じゃあ、料理とか結構できるんですか?」

「できるといえばできるけど、そんなに上手くはないよ」

「いや、でも普通に美味しそうですけど」

 実際、弁当としては上質なものに見える。

 冷凍食品だけを並べてあるわけではない。明らかに手作りっぽいものもあるし、ぱっと見て綺麗だ。色とりどりの野菜が詰めてあって、食欲をそそられる。

「……」

 と、先輩は微妙に間を空けてから、こう返してきた。


「なら、食べるかい? 褒められるのは嬉しいけど、大したものじゃないから」


 ……うん?

 ちょっと待て。

 その展開は予想してなかったぞ。

 二人で屋上へ来て、その上お手製の料理をもらうとか、明らかに恋人同士みたいだ。今まで、できるだけそっち関連は意識しないようにしていたが、これは、よろしくない。

「……?」

 先輩も、なに不思議そうに首傾げてるんですか。

 あなた、色恋沙汰には弱いはずじゃ――て、そうか。どういうことを提案したのか、自分で気付いてないんですね。

なんでもそつなくこなすこの人にも、欠点はある。

 しょうがない。若干惜しい気もするが、先輩の名誉を守るためだ。そういうことは好きな人にしてくださいと教え――


「どうせならあーんしてあげようか?」


 ストォーーーーップ!

 なにしれっと自分の使ってた箸でしようとしてるんですか。間接キスですよそれ! ていうか恥ずかしい。あーんは恥ずかしいからやめて欲しい。

「ほら」

 ほらじゃなくて!

「あーん」

「ちょっ、待って! 先輩、ストップ!」

 すんでのところでようやく口が動き、先輩を止める。

「なにかな?」

「いえ、なにかな、ではなくてですね。今一度、自分のやろうとしていることをしっかり確認して欲しいのですが……。こっちとしては嬉しいような気もしますが、先輩が分かってないようなのでですね、ええと……」

「……?」

 先輩は目を瞬かせて、視線をゆっくりといろんなところへ動かした。

 数秒後。

「あぅ……」

 真っ赤になって身を引いた。


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