どうなの?
霧生木さんと俺とシュンという組み合わせは、一人一人に着目すれば注目されるようなものではないが、まとまりとしてみると珍しい組み合わせだろう。霧生木さんの推理は的を射ているだろう。
ふと、柳先輩の言葉を思い出す。
『四葉ちゃんはあれで頭の回る賢い子だよ』
たぶん、当たっている。
さっき、自分が男子にどう見られているのか、熟知しているような素早い対応をしてみせたし、今の推理だって見事なものだ。
霧生木さんを少し甘くみていたかもしれない。
「あ、そういや、姉ちゃんで思い出したんだけど」
唐突に、ぽんと手を叩いて、シュンが言う。
「最近、姉ちゃんは部活終わった後、図書館に行って勉強してるらしいんだけど、サクヤ、会ったりしてるのか?」
「……」
「……」
俺と霧生木さんは互いに違う意味で沈黙した。
霧生木さんは笑顔のまま、俺を見つめてきた。
シュン、地雷を踏み抜きやがった……。恨むぞこら。
「それ本当? 柳先輩と会ってるの?」
探りを入れるためか、それとも単純な好奇心かは分からない。が、霧生木さんは突っ込んできた。
俺は『打ち合わせ通り』、口を動かす。
「違う。図書館に柳先輩が来ているのは知ってるけど、会って話しているとかはない」
嘘を言う時の鉄則一、事実を折り込むべし。
全てが嘘だとすぐにばれる。一部、事実を入れることで、信憑性を高めるのがコツだ。
この言い訳で乗り切れれば――
「そうなん? 俺の名前忘れてて、姉ちゃんの名前覚えてるから、てっきり会ってるのかと思ったが?」
おい。本気で恨むぞシュン。
名前を忘れていたのがこんな形で……くそ。
「それは、この前、陸上部に見学に行った時、声をかけてもらってな。それで覚えてたんだ」
「は? サクヤがどうして見学に?」
「特に理由はない。図書館で勉強する前に外の空気を吸おうと思ってな。そうしたらたまたま陸上部が目に入ったから見学してただけだよ」
「なら、どうして姉ちゃんが声をかけるんだ?」
「霧生木さんが友達いないの成績トップだのって話を先輩にしていたらしいんだよ。それで、二年生で見学に来るのは珍しいとかで声をかけられただけだ。俺の方が驚いたよ」
「ふーん?」
シュンは疑念を目一杯視線に乗せてきたが、半分は事実だ。
俺が陸上部を見学していたのは霧生木さんにばれている。それを柳先輩は逆手にとって、突っ込まれたらこう言えとアドバイスをくれていた。あの日、俺と別れた後、霧生木さんになんと言ったのかまで聞いているのだ。言い訳を考えるのは難しくない。
疑わしいだろうが、これでやり過ごせれば御の字なのだが……。
「祭君、一つだけいい?」
ま、無理ですよね。
真打登場か。
「なに?」
「それ、司書さんに聞いても答え変わらないかな?」
「……」
その質問は予期してなかった。
そこまでして事実関係を確認したいか。
「ええと、そんなに気になるか? もし柳先輩に会っていたとして、なにか問題がある?」
変化球を投げてみるも、
「だって、柳先輩は私の憧れの人だもん。夜遅く、学校内とはいえ男と会ってるなんて話を聞いたら黙ってられないよ?」
簡単に打ち返された。
若干危ない発言の気もするが、強い憧れがあるなら、そりゃ気にもなるだろう。返しようがない。辻褄は合っている。
「どうなの?」
マズイ。霧生木さんの意図がどうであるにしろ、はっきりと答えないと信頼を失う。
俺はしどろもどろになりながらも言葉を紡ぐ。
「あ、あー、司書さんは、基本的に図書室の奥にいるから、はっきりとした回答は得られるか分からないぞ」
「……」
「た、たたな。柳先輩と会っていないのは事実だから、司書さんに聞いても、同じ答えが返ってくると思う」
「……そう。ならいいけど」
ぷいっと視線を逸らしてくれる。
笑顔のままというのが恐ろしい。なにを考えているのか全く読めなかった。
「じゃあ、勉強再開しよっか」
「おう」
当の霧生木さんの声で勉強が再開される。
心の底から思った。
――霧生木さんと関わるのは、覚悟がいるようだ。
◆
「放課後になった直後に司書さんには話しておいたから、大丈夫だとは思うけれど……」
放課後、いつものように先輩と合流した。
五限に先輩へ昼休みの出来事をメールしておいた。
先輩は「司書さんへは、わたしたちが恋人関係であると伝える。そうすれば口止めも可能だろう」と打開策を提案してくれた。俺は司書さんとは面識があるし、先輩も有名人だ。付き合っているが、それをまだ他の人に知られたくないと言えば、事情を察してくれると踏んだのだ。
先輩によれば、その策は上手くいったらしい。
司書さんは了承してくれたとのことだ。
でも、
「なんか、すみません」
謝らずにはいられない。
司書さんへ聞く云々の話が出た後の対応は、独断で進めた。もしかしたらもっと良い逃げ方があったのかもしれない。上手く霧生木さんを誤魔化せれば、こんな風に付き合っているなんて嘘をつかなくても良かったはずだ。
司書さんにしか話していないから、学校生活に影響は出ないだろうけど、先輩は色恋沙汰には敏感だったはずだ。なにかあった時、陸上界で活躍中の先輩に、迷惑がかかるかもしれないと思うと胸が痛くなる。
「構わないよ」
しかし、先輩はふんわりと微笑んだ。
「というより、わたしのミスでもある。君の言っていた『友達』とやらがシュンだとは考えなかった。一つ下なのだから警戒するべきだったのかな? まさか四葉ちゃんと君の間にシュンが入り込むとはね……。名前の件で突っ込まれる要素が増えたのはサクヤ君の責任だけど、もとをただせば、放課後、図書館に行っていると漏らしたわたしが悪い」
「いや、けど、それ以外に家族へ説明なんてできないんじゃないですか? シュンも同じ部活なんですから、練習が長引いてるとも言えないでしょうし……。やっぱり、俺に責任が――」
「ストップ」
最初に会った時と同じような、強い口調で遮られた。
「どっちが悪いとかいう話はやめよう。意味ないよ。……それよりも、わたしたちが動いていることは四葉ちゃんに伝わったと言って良い。司書さんへ口止めしたとはいえ、サクヤ君との会話でなにかを感じ取った可能性は高い。そっちの対策をしよう。いいね?」
「……はい」
俺が気にしているのを感じて止めてくれたのだろうか。
こうして長い間、接するとよく分かる。根っからのお姉ちゃん、なんだな……。




