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頼めるかな?

「霧生木さん、なに?」

 できるだけ顔を見ないように聞く。

 美人というより可愛い系。それが霧生木さんへの学内男子の総評だ。

 柳先輩のように、端整な顔立ちで落ち着いた雰囲気がある、というわけではない。むしろ真逆。歳相応の明るい笑顔と元気一杯な言動にはいつも眼が惹かれる。特別、意識しているわけでもないだろうに、仕草の一つ一つが女の子っぽいのだ。

 こんな人を相手にまともに喋ろうとしたら、一気にペースを持っていかれる。

「あ、ううん。珍しかったから声かけてみただけだよ。祭君って誰かと一緒にご飯食べたり行動したりしない雰囲気あるもん」

 目を合わせなかったのが不機嫌そうに見えたのだろうか。霧生木さんはぱたぱたと手を振りながら早口で答えてくれた。

 いや、それよりも。

「……その認識、やめてもらえないかな?」

「どうして?」

 柳先輩に変なこと言われるのはほとんど霧生木さんのせいなので。

「このように、俺には友達がいるからな」

 思ってることと言ってることがズレたが、言いたいことは変わってない。

「シュン君のこと?」

「そうだ。……なあ?」

「なあ? じゃないだろう。ついさっき名前を聞いてきたくせに」

 おい。

「霧生木さんの言うとおり、サクヤには友達がほとんどいないぞ。友達だと思っていたのに名前すら忘れられていた俺が言うんだから間違いない」

 うんうん頷きながらそういうこと語るな。

 友達いない説の信憑性が高くなるだろうが。

「それより、どうした? ホントに声かけただけ?」

 一転、シュンは霧生木さんに話を振る。

 そういやシュンは同じ陸上部だ。話すのは任せた方が良いかもしれない。

 そう考えて、弁当を食べることに専念する。

 卵焼き旨い。

「うーん。それだけのつもりだったんだけど、なんか面白そうだね」

「なにが?」

「祭君」

「そうだな」

「でしょ?」

 どういう意味だ。

「シュン君はなにしてるの?」

「あー、勉強教えてもらってる」

「え……祭君って人に教えたりするの? 今までそういうとこ全く見なかったけど」

「友達ならいいんじゃね?」

 あ、から揚げ旨い!

「そっか、友達ならいいんだ……」

「けど、俺はともかく霧生木さんには関係ないっしょ?」

「どうして?」

「成績いいじゃん。文武両道の鏡だっていつか姉ちゃんに聞いたぞ」

「そんなことないよ! もぅ……柳先輩、自分のこと棚に上げて……」

 おお、キュウリの漬物もなかなかだな。

「んん? なんだか分からんが、霧生木さんも成績心配なのか?」

「そりゃそうだよ。私だって頑張ってギリギリあの点数を維持してるだけだもん」

「そっか」

 だがやはり白米が一番うま――



「なら、霧生木さんもサクヤに教えてもらえば?」



 ……うん?

「でも、友達じゃないと駄目なんでしょ?」

「ああ、それは大丈夫。サクヤって案外、純情だから霧生木さんの頼みは断れないよ」

「じゃあ、祭君、頼めるかな?」

 勝手に話を進めるなよ。

 ていうか、霧生木さん、その反応の速さは自分がどういう風に男子から見られてるのか知ってるな。それを武器として使えるかどうかも分かってる感じじゃないか?

「頼めるかな?」

 もう一度、はっきりとした口調で問われる。

 どうしたものか。

 話の流れにおかしな点はなかった。

 弁当に夢中で集中して聞いていなかったが、霧生木さんもシュン同様、成績を気にしているということだ。それで、俺に教えて欲しいと頼んできた。

 矛盾点は一つもない。

 ここで断ると、シュンにも怪しまれるな。

「……いいけど」

 了承すると、霧生木さんは「やった!」と満面の笑みを浮かべて自分の席へ勉強道具を取りに行く。かと思ったら、十秒もしないうちにしゅたたたたと戻ってくる。

 その動きがあまりにも俊敏で、猫のように見えた。

「どうでもいいけど、俺は弁当食いながらでいいよな?」

「うん、いいよ~」

 にっこにこしながら答えられる。

 なんとなく、目が合ってしまい、慌てて逸らした。

 ……やっぱり可愛いな。

「じゃ早速。サクヤ、ここ教えてくれね?」

「ん? あ、そこな」

 弁当の残りをつっつきながら、質問に答えていく。

「祭君、ここなんだけど」

「えーと……それか。俺も詰まったわ」

 次々に出される質問を片っ端から解く。

 二人とも、基本はできているようで、質問してくるところは難問ばかりだった。こういうやり取りだと、教えるこっちも勉強になる。

 そうして、俺が弁当を食べ終わる頃。

「なあ、一ついいか」

「ああ、俺も言いたいな」

「私も気になってる」

 三人そろって声をあげた。



「「「なんでこんな注目集まってるの?」」」



 できるだけ気にしないよう努めていたが、三人で勉強を始めてからクラス中の注目が集まっていた。じろじろ見つめてくる人間はいないが、耳を澄ますと俺たちの話題が聞こえてくる。

「一斉に振り向いてみるか?」

 シュンの提案に、俺も霧生木さんも同意。

 このままでは集中できない。

「いくぜ……せーの」

 ばっ!

「……目を逸らされたな」

「……あからさまに逃げたな」

「……話し声もしなくなったね」

 三人してうーんと考え込む。

「やっぱあれか? 霧生木さんが一緒にいるからじゃね?」

「私? それは違うと思うけど……。普段から男子ともよく喋ってるじゃん」

 シュンの意見は霧生木さんが封殺。

「私は祭君がいるからだと思うな~。明らかに不自然だもん」

「そうか? 俺はサクヤとよく話すし、注目されるほどじゃないと思うぞ。だいたい、やってることはただの勉強だろ?」

 霧生木さんの意見はシュンが封殺。

「ならシュンが原因……なわけないか」

「どういう意味だよ」

 俺の意見は俺自身が封殺。

 シュンは姉に有名人を持つとはいえ、言っちゃ悪いが本人に特筆する点はない。部活の成績も勉強の方もそこそこレベルのはずだ。

「冗談はともかく、私はなんとなく分かる気もするよ」

「なにが?」

「私が見てる方の立場でも、このメンバーなら注目するもん」

 俺とシュンは顔を見合わせて、首を捻る。

「えっとね……。一人一人の普段の行いとか、今していることとかは関係なく、気になると思う。自分で言うのもなんだけど、私って一応、目立つ立場でしょ?」

 それは、周知の事実だ。

「それから、祭君も目立つ人だと思う。学年一位の座を一年間ずっと、誰にも譲らなかった秀才。難点は人付き合いが悪いこと。こうして誰かと集まってること自体が珍しいよね」

「それは訂正して欲し――」

「最後にシュン君」

 無視された。

「シュン君は女子からの人気が結構高いし、お姉ちゃんが柳先輩だからね。柳先輩の知名度は言うまでもなく高い。その弟君となれば目を光らせる人がいても不思議じゃないよ」

 だから、と霧生木さんはまとめる。

「なにをしているとか、普段がどうとかは関係なく、この組み合わせが珍しいんだよ。有名人が三人集まってなにかをしているということがね。……と、思いました~」

 名推理でしょと言わんばかりの自慢顔だった。


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