とりあえずは
「サクヤ君、今、四葉ちゃんに対して失礼なことを思わなかったかい?」
「え、あ……まあ」
「はっきり言うけど、わたしから見ればサクヤ君よりよっぽど、四葉ちゃんの方が頭の回転は速いし、注意力もあると思うよ。もちろんこれは成績云々の話じゃない。そういうのとはまた別の話だ」
「……」
「今、どうしてこんなことになってるのか、思い出してみるといい。……四葉ちゃんは、下手な返答をして流すより、あえて、誤魔化すことを選んだんだよ。サクヤ君だけでなく、わたしもメールを送った時点で四葉ちゃんだと思っていたからね。四葉ちゃんはわたしが噛んでいると知って無駄な言い訳はしない方がいいと考えたはずだよ。
メールの返答でわたしは四葉ちゃんだと確信したけれど、結果、誤魔化す隙を与えてしまった。もしも、単純に『なんの話ですか?』と返されたら四葉ちゃんだと確信できなかっただろうけど、それは『完全な嘘』になる。いつか、話している途中でボロが出てもおかしくない。逆に、今の状況だと、証拠を残さないことの一点に気をつけさえすれば、いつまで経っても平行線だ。この違いは大きいよ」
「ええと……? 完全に否定しても、柳先輩は疑い続ける可能性がある。そうなると、霧生木さんは毎日顔を合わせなければいけない先輩相手にずっと気を張らなければならない。そうなるとどこかでボロが出るかもしれない。でも、自分だと確信されても証拠がないのならば聞かれた時に『落ちてない』と言えばいいだけで、特別になにか、気をつける必要もなくなる。……そういうことですか?」
「おお、一度で理解できたのか。褒めるよ」
「……」
先輩のなかで、俺の評価が低いことがよく分かりました。
「意図的にそうしたのか、それとも結果的にそうなったのかは判断がつかないけれど、わたしは意図的だと考えるよ。メールをした時は分かりやすい反応だな~と思ったものだけど、こういう事態になるとは考えていなかったからね」
屋上へ視線を向ける先輩を見て、俺もそれに習う。
事実、『なんの話ですか?』と返答があった場合、こっちの動き方は大きく変わったはずだ。本当に無関係なのか、霧生木さんに詰め寄ることもできただろう。毎日こんな風に図書館で張り付かなくても、霧生木さん本人を監視する方法もあったかもしれない。
だが、半ば落下したことが事実だと判断できる返答がきたせいで、強く問い質すことの意味がなくなっている。問い質したところで、落ちていないの一点張りだろう。
「とにかく、わたしたちが会って対策を練っていることを知られていない今が、最初で最後のチャンスだ。十分に気をつけてね」
「了解しました」
霧生木さんは自分が落ちたことを先輩に意図的に伝えてきている。
けど、こうして俺にまでその情報が流れていることは知らないはずだ。一度だけ、陸上部を訪ねているから、予想できるかもしれないが予想の範疇でしかない。さらに、霧生木さんは自分から分かるように仕向け、誤魔化そうとしているために、俺たちになにをしているのかと聞きにくいだろう。
先輩と一緒に行動できなくなっても、なにか困るわけではないが、有事の際には頼れる先輩と共にいた方が良いに決まっている。
霧生木さんが俺たちを探しているとは考えにくいが、どっちが先に現場を抑えるか、競争しているようなものだ。
とりあえずは、先輩の指示通り、霧生木さんと必要以上に関わらないようにしよう……。




